「WSPEEDIすべて公表」 覆す新資料

2012年6月15日検証レポートメディア:ジャンル:テーマ:

≪検証レポートNo.4≫
東京新聞は、未公表になったままのWSPEEDI予測結果が原子力安全委HPに全て掲載されたと報じた。しかし、情報公開請求により、掲載された資料以外にも公表されていない予測結果が多数あることが判明した。

すべて公表されたはずのWSPEEDI予測

東京新聞は、2012年4月28日付夕刊で、「世界版拡散予測 未公表さらに1500枚」「安全委HPにすべて掲載」の見出しで、福島第一原発事故に伴う世界版SPEEDI(WSPEEDI)による放射性物質の拡散予測結果について、原子力安全委員会が4月27日夜、ホームページに未公表資料すべてを掲載したなどと報じた。

WSPEEDIの未公表資料については、文部科学省が4月13日夜、ホームページ(i)で公表したのに続き、原子力安全委員会も4月27日夜、ホームページで「すべて公表した」としていた。(ii)

ところが、日本報道検証機構がWSPEEDIを運用している日本原子力研究開発機構に情報公開請求したところ、未公表となったままのWSPEEDI予測結果資料が多数存在することが判明した(〈説明〉情報公開請求の経緯について)。

未公表となっている資料は、2011年3月16日から5月12日にかけて作成された文書で、福島第一原発から一定の条件で放射性物質が放出されたと仮定して作成された拡散予測図が多数含まれている。

これら未公表資料の中には、日本原子力研究開発機構が文科省等からの依頼を受けずに独自に予測計算し、いずれの関係機関にも提出されていないものもあるが、文科省や原子力安全委などに提出されていた資料もあった。

東京新聞の報道では、原子力安全委が未公表分をすべてホームページ上で公表したとされていたが、実際は、4月27日の公表後も、未公表分が残っていたことになる。

そこで、日本報道検証機構は、今回の情報公開請求で入手したWSPEEDI関連文書をここですべて公開することとする。

なお、日本原子力研究開発機構は、今回の情報開示に際し、各予測結果の提出依頼元の機関と提出先の機関についても情報提供を行ったので、この情報もあわせて公開する。

▲未公表となっていたWSPEEDI予測結果の一部。ヨウ素131の乳幼児臓器被ばく線量の予測図も含まれていた。なお、一定の仮定条件のもとでの予測図であり、実測図ではない。

 

【日本原子力研究開発機構が開示したWSPEEDI未公表資料】

(情報開示決定日)   平成24年5月23日

(文書データ送付日)  平成24年5月31日

(資料請求受付番号)  24本部004

(開示決定通知番号)  24原機(広)041、042

提出依頼元・提出先一覧

≪注≫2012年7月4日、日本原子力研究開発機構からの訂正申出により、一覧表を差し替えています。下記の取消線が訂正箇所。訂正経緯は後述。

 

なお、「*公表済」と記載されている文書は、原子力安全委員会ホームページ上の「W-SPEEDIによる試算結果の公表について」にて2012年4月27日付で公開されているものと同一のものである。

平成23年3月16日付文書(2件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射能拡散予測結果について(I-129の空間線量率分布/I-131の空間線量率分布/Cs-137の空間線量率分布/Kr-85の空間線量率分布)

【提出依頼元】無し【提出先】原子力委員会事務局、原子力安全委員会事務局(iii)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射能拡散予測結果について(I-131の乳幼児臓器被ばく線量分布)

【提出依頼元】無し【提出先】原子力委員会事務局、原子力安全委員会事務局(iii)

平成23年3月17日付文書(1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射能拡散予測結果について(希ガスの地上濃度分布/放出開始から昨日までのヨウ素の地上濃度分布<参考>)

【提出依頼元】原子力安全・保安院【提出先】文部科学省、原子力安全・保安院

平成23年3月18日付文書(4件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射能拡散予測結果について(3月18日第2報)(セシウム(Cs-137)の地上濃度分布/セシウム(Cs-137)の地表沈着量分布)

【提出依頼元】文部科学省無し【提出先】文部科学省、原子力安全委員会無し

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射能拡散予測結果について(3月18日第2報)(ヨウ素の地上濃度分布/ヨウ素の地表沈着量分布)

【提出依頼元】文部科学省無し【提出先】文部科学省、原子力安全委員会無し

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射能拡散予測結果について(3月18日第2報)(空間線量率分布/希ガスの地上濃度分布)

【提出依頼元】文部科学省無し【提出先】文部科学省、原子力安全委員会無し

WSPEEDI-IIによる放射能拡散予測について(全核種による空間線量率分布/各核種による空間線量率分布、地上濃度分布、地表沈着量分布(希ガスを除く)/ヨウ素による乳幼児被ばく線量分布)

【提出依頼元】無し【提出先】原子力委員会事務局

平成23年3月19日付文書(2件1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射能拡散予測結果について(1)(全核種による空間線量率分布/各核種による空間線量率分布、地上濃度分布、地表沈着量分布(希ガスを除く)/ヨウ素による乳幼児被ばく線量分布)

【提出依頼元】無し【提出先】原子力委員会事務局

・(参考)東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射能拡散予測結果について(風速場変動についての考察)(iv)

※厳密には拡散予測結果ではないが、同機構から開示されたため、参考までに掲載する(注釈(iv)参照)。

【提出依頼元】文部科学省無し【提出先】文部科学省、原子力安全委員会事務局

平成23年3月20日付文書(1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射能拡散予測結果について(3月20日第2報)(ヨウ素の地上濃度分布/ヨウ素の地表沈着量分布)

【提出依頼元】文部科学省無し【提出先】文部科学省、原子力安全委員会無し

平成23年3月21日付文書(1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射能拡散予測結果について(3月20日第2報)(東海村におけるモニタリング値の変動と予測結果の対応)

【提出依頼元】文部科学省無し【提出先】文部科学省、原子力安全委員会無し

平成23年3月22日付文書(1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放出率推定結果について

【提出依頼元】文部科学省無し【提出先】文部科学省、原子力安全委員会(v)
※原子力安全委員会ホームページで一部公表済のものも含まれる。

平成23年4月12日付文書(1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射性物質拡散予測結果について(希ガス地上濃度分布および降水強度分布)

【提出依頼元】無し【提出先】無し

平成23年4月14日付文書(1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射性物質拡散予測結果について(希ガス地上濃度分布および降水強度分布)

【提出依頼元】無し【提出先】無し

平成23年4月15日付文書(1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射性物質拡散予測結果について(希ガス地上濃度分布および降水強度分布)

【提出依頼元】無し【提出先】無し

平成23年4月18日付文書(1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射性物質拡散予測結果について(希ガス地上濃度分布および降水強度分布)

【提出依頼元】無し【提出先】無し

平成23年4月20日付文書(1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射性物質拡散予測結果について(希ガス地上濃度分布)

【提出依頼元】無し【提出先】無し

平成23年4月22日付文書(1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射性物質拡散予測結果について(希ガス地上濃度分布および降水強度分布)

【提出依頼元】無し【提出先】無し

平成23年4月24日付文書(1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射性物質拡散予測結果について(希ガス地上濃度分布)

【提出依頼元】無し【提出先】無し

平成23年4月26日付文書(1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射性物質拡散予測結果について(希ガス地上濃度分布および降水強度分布)

【提出依頼元】無し【提出先】無し

平成23年4月28日付文書(1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射性物質拡散予測結果について(希ガス地上濃度分布)

【提出依頼元】無し【提出先】無し

平成23年5月2日付文書(1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射性物質拡散予測結果について(希ガス地上濃度分布および降水強度分布)

【提出依頼元】無し【提出先】無し

平成23年5月12日付文書(1件)

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うWSPEEDI-IIによる放射性物質拡散予測結果について(希ガス地上濃度分布および降水強度分布)

【提出依頼元】無し【提出先】無し

 

〈説明〉情報公開請求の経緯について

東京新聞は、2012年4月3日付朝刊1面トップで、「世界版SPEEDI 『全部公表』データに穴」の見出しで、WSPEEDIの未公表資料があることを報じ、独自に入手した文書の予測結果を詳しく伝えました。

この報道を受け、時事通信も、4月3日午後、「千葉で『ヨウ素10兆ベクレル』未公表」の見出しをつけた記事を配信しましたが、まもなくして誤りであったとの訂正記事を出し、記事を差し替えて再掲しました。

日本報道検証機構では、時事通信の元の記事や訂正後の記事が情報源を明確にしていないことや、東京新聞の記事の正確性にも疑義があったことから、これらの記事を検証する必要があると判断。4月19日、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律に基づき、独立行政法人日本原子力研究開発機構に対し、報じられた文書の開示を請求しました。

その際、他にWSPEEDIの未公表資料が存在する可能性もあると考え、念のため、報じられた文書以外にも未公表資料があれば開示するよう、同時に請求しました。

当機構が情報公開請求を行った後の4月27日夜、原子力安全委員会は、WSPEEDI予測結果の未公表資料すべてをホームページに掲載したと発表し、翌日東京新聞などが報じました。

それに先立つ4月13日にも文部科学省がホームページにWSPEEDIの新資料を掲載していました。

文科省と原子力安全委が新たに掲載した資料には、4月3日に東京新聞と時事通信が報じた文書も含まれていたため、これと同一の文書の開示請求は取り下げることとしましたが、他の未公表資料の開示請求は維持しました。

当機構は、公表された文書をもとに、時事通信の誤報と東京新聞第一報を検証し、その結果を公表しました([時事]「千葉でヨウ素10兆ベクレル」と誤報[検証]東京新聞第一報も「放出量」を「濃度」と誤記)。

 

▲日本原子力研究開発機構が文書開示前に示した「開示請求対象リスト」

 

5月中旬ころ、日本原子力研究開発機構より、原子力安全委員会のホームページに公表されていないWSPEEDI予測結果の文書が存在するとの回答を受け、それら未公表資料一切を開示するとともに、予測計算の依頼元機関と予測結果の提出先機関を説明するよう求めました。

その結果、5月23日付で開示決定がなされ、文書データが記録されたCD-Rを送付する方法により開示が実施され、6月上旬ころ、当機構において受領したものです。

また、文書の開示に付随して、各予測結果の依頼元と提出先を記載した一覧表の提供も受けました。

ここで、このたびの情報公開にご尽力された日本原子力研究開発機構の職員皆様に心より感謝を申し上げます。

 

追記(1)― 一覧表の差し替えについて

2012年7月3日、日本原子力研究開発機構より、原子力安全委などの問い合わせに基づき再調査した結果、「提出依頼元・提出先一覧表」に事実誤認があったとの連絡があり、翌日、再調査に基づく修正版の提供を受けました。

そこで、当初掲載した一覧表(旧一覧表)を削除し、修正版を掲載して、訂正を行いました(訂正箇所は取り消し線で表示)。

本ページには、日本原子力研究開発機構が提供した一覧表のうち未公表資料(「*公表済」と記されていないもの)についてのみ「提出依頼元」「提出先」の情報を修正しています。

これ以外にも旧一覧表に載っていた「*公表済」の「提出依頼元」「提出先」の情報にも、多数事実誤認があり、修正版一覧表に反映されていますので、くれぐれも、正確な情報は修正版(ファイル名:wspeedi_requests_list_revised.pdf)にて確認していただきますよう、ご注意お願い申し上げます。

 

追記(2)― 東京新聞の続報について

本サイトの公表後、東京新聞は、2012年7月3日付朝刊で「拡散予測図330枚未公表」の見出しで、WSPEEDI拡散予測図が約330枚(正確には328枚)未公表のままになっていたと報じました。

この記事の後半で、「公表されなかった理由について、原子力機構は『職員が福島県内のどこで放射線測定を実施するか内部で検討するためのものや、ほかの予測図と傾向が変わらなかったため、文部科学省などにデータを送らず、結果として公表から漏れた』としている。」と書かれていますが、正確な事実関係は以下のとおりです。

日本原子力研究開発機構の情報公開課によると、取材を受けた職員が記事に書かれた内容のコメントをしたことは事実であるが、その趣旨は、修正版一覧表のうち「提出依頼元」「提出先」がいずれも「無し」になっている資料についての説明であった、とのことです。

実際、修正版一覧表に照らしてみても、機構から提出を受けながら公表されていなかった資料は、少なくとも5件あったことになります(内訳は原子力安全委員会2件、原子力委員会4件、原子力安全・保安院1件、提出先に重複あり。3月17日付の1件を除き、提出依頼しておらず、機構が一方的に提出したもの。3月19日付の参考資料1件と22日付の1件はカウントしていない)。

したがって、「提出されていたにもかかわらず公表されていない資料があった」という結論自体は、このたびの訂正によっても影響を受けないものと考えております(なお、文科省に提出された資料の公表漏れはなかったことが判明しましたので、その限りで本文を訂正しました)。

 


notes

(i) 2012年4月13日に掲載された資料は2011年3月16日付の2件。3月15日付の3件と3月24日付の1件と3月25日付の1件は、それ以前に掲載されたもの。

(ii) 原子力安全委員会は、2012年4月27日にWSPEEDI未公表資料をホームページに掲載した際、「JAEAによると、この中にはJAEAが放出率の逆推定過程で活用した数多くのW-SPEEDI試算結果の一部が含まれている可能性があるものの、現時点では、どれを活用したかが特定できないとしていることから、原子力安全委員会としては、原子力安全委員会に送付され、保存している単位放出を仮定したW-SPEEDI試算結果は全て公表することとしたものです。」と説明していた。

(iii) 3月16日付文書の未公表2件は「当時原子力安全委に詰めていた機構職員へ資料を渡すよう事務局に依頼したとともに、原子力安全委員に参考として送付したもの」である(日本原子力研究開発機構の説明)。同機構は、原子力安全委の一部委員に直接メールで送付したと回答している。

(iv) 本件文書は、タイトルに「放射能拡散予測結果」と表記されているが、その内容はWSPEEDIによる放射能拡散予測を行ううえで当時の気象条件について検討した一種の気象予報図であって、WSPEEDIのデータそのものではない(日本原子力研究開発機構の説明)。

(v) ただし、送付されたのは、本件文書のうち原子力安全委ホームページに掲載されている10枚の資料のみで、本件文書のうち残り31枚は送付されていなかった(日本原子力研究開発機構の説明)。

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【誤報レポート】「千葉でヨウ素10兆ベクレル」と誤報

【検証レポート】WSPEEDI特報で「放出量」を「濃度」と誤記

<配信>
2012/6/15 07:30

<更新>
2012/6/20 02:20
※4月分以降のWSPEEDI資料を追加掲載しました。

<更新>
2012/7/4 23:40
※「提出依頼元」「提出先」を訂正するとともに、「追記(1)(2)」と注釈(iii)(iv)(v)を追加しました。