検証記事で誤報を「特報」扱い

2012年4月1日検証レポートメディア:ジャンル:テーマ:

≪検証レポートNo.1≫ 読売新聞は東日本大震災後のSPEEDIによる拡散予測の第一報で、システム不具合で拡散予測できなくなっていると事実と異なる報道をした。しかし、約1年後の報道検証記事で、この第一報を「特報」と位置づけ、誤りを認めなかった。

拡散予測が行われている前提で続報

 読売新聞は、2011年3月15日付朝刊の記事「放射性物質の拡散予測不能」で、SPEEDIがシステム不具合で拡散予測できない状態になっていると誤った第一報を流した(→SPEEDI不具合で「予測不能」と誤報)。
 読売が次にSPEEDIについて報じたのは、3月23日付朝刊の記事「拡散予測、公表されず 文科省対応に専門家批判」であった。

『拡散予測、公表されず 文科省対応に専門家批判』

 

 福島第一原発の事故で、文部科学省が行った放射性物質の拡散予測の結果が公表されていないことに、専門家から批判が上がっている。今回のような事故を想定して開発されたシステムだが、「生データを公表すれば誤解を招く」として明らかにされていない。

 このシステムは「SPEEDI(スピーディ)」と呼ばれ、炉心溶融に至った1979年の米スリーマイル島の原発事故を踏まえ、開発が始まった。現在も改良が進められ、2010年度予算には7億8000万円が計上された。

 コンピューターで原発周辺の地形を再現し、事故時の気象条件なども考慮して、精密に放射性物質の拡散を予測する。今回の事故でも、原発内の放射性物質が広範囲に放出された場合を計算。政府が避難指示の範囲を半径20キロ・メートルに決める時の判断材料の一つとなった。

 住田健二・大阪大学名誉教授は「拡散予測の結果を含め、専門家が広く議論し、国民が納得できる対策をとれるよう、情報を公開すべきだ」と批判する。

(読売新聞 2011年3月23日付朝刊・2面、2段)

▲読売新聞2011年3月23日付朝刊・2面、2段

 

 この記事では、冒頭「福島第一原発の事故で、文部科学省が行った放射性物質の拡散予測の結果が公表されていないことに、専門家から批判が上がっている」と書き出し、SPEEDIを用いた拡散予測が行われている事実を前提に専門家の声を伝える内容になっており、3月15日付朝刊の第一報で報じた「拡散予測不能」と明らかに矛盾している。
 読売は、この記事で3月15日付の第一報を事実上修正し、以後はSPEEDIを用いた拡散予測が行われている事実を前提に報道するようになった。

報道検証記事で第一報を「特報」扱い

 ところが、読売は、2012年3月5日付朝刊34面に掲載した原発報道検証記事でも、3月15日付第一報を「地震の影響で機器が故障し予測不能に陥っている事実を特報」と位置付け、記事の訂正や釈明は行わなかった。

 読売は、検証記事の中で、文部科学省が「原発の機器故障で、正確な放出源情報が得られないことなどを理由に、予測データの提供を拒否した」と説明している。
 しかし、3月15日付第一報は、拡散予測不能の原因として地方公共団体から気象データ等を受信できなくなっていることを伝えており、「正確な放出源情報が得られない」事態とは伝えていない。(i)
 また、第一報は、拡散予測ができず「システムの有効性が問われる」事態と伝え、通常の読者であればSPEEDIによる予測データが得られていない事態が起きていると理解できる内容になっており、予測データが得られていることを前提に当局が「予測データの提供を拒否した」事態とも異なる。
 しかも、検証記事は「実際には、事故直後から放射性物質の放出量を仮定して、様々な予測を繰り返していた」と指摘するが、3月15日の「特報」に書かれた事実関係との齟齬や「特報」が行われた経緯については、説明されていない。

読売新聞2012年3月5日付朝刊34面の報道検証記事に掲載された図

▲読売新聞2012年3月5日付朝刊34面の報道検証記事に掲載された図。3月15日付朝刊の第一報を「地震の影響で機器が破損し予測不能に陥っていると特報」と位置付けている。

notes

(i)原子炉内の事故進展を予測するための緊急時対策システム(ERSS)が、地震直後から原子炉内のパラメータを得られない状態になったことで、実現象に即した放出源情報を得られなくなったのは事実である。ただし、ERSSはSPEEDIとは別個独立したシステムで、SPEEDI自体に不具合があったわけではない。ERSSも完全に機能しなくなったわけではなく、原子炉内のパラメータを得られなくても、原子炉内の事故進展を予測できるPBSシステムは稼働し、活用されていた。→原子力安全・保安院「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故進展解析結果について(解説)」平成23年9月2日。PBSシステムの説明は、ERSSを運用している原子力安全機構ホームページに記載。

 

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<配信>
2012/4/1 18:00

<変更>
2012/8/5 00:00 

※タイトルを「読売、SPEEDI第一報を訂正せず」を「検証記事で誤報を『特報』扱い」に変更しました。