「沖縄米兵の性暴力事件 1972年以降7件」 NHK誤り認める

2012年11月5日誤報レポートメディア:ジャンル:, , ,

【NHK】 2012/10/16 「女性乱暴の疑いで米兵2人逮捕 沖縄」 NHKは、沖縄での米軍兵士による性暴力事件を報じた際、沖縄返還以後に米軍兵士が女性を乱暴したとして逮捕された事件を「7件」と伝えた。しかし、NHKがその根拠とした資料はこれまでの主な事件を紹介したものにすぎず、強姦事件検挙の実態から大きくかけ離れた数字だった。


 NHKは、2012年10月16日、ニュースサイトで、沖縄本島中部で米軍兵士2人が日本人女性を乱暴してけがをさせたとして逮捕されたことを報じた。その際、「沖縄県内で、沖縄が日本に復帰した昭和47年以降、これまでにアメリカ軍の兵士が女性を乱暴したとして逮捕された事件が7件、起きています。」と伝えた。(i)

 NHKは、のちに、沖縄県がまとめた資料をもとに「7件」と報じたと説明したが、この資料は沖縄返還後の米兵による性暴力事件の一部を紹介したものにすぎず、すべての事件の件数を記載したものではなかった。また、1989年から2011年までの沖縄での米兵の強姦検挙件数は29件で、1972年以降の強姦検挙件数(米兵の軍属・家族を含む)は127件であった。

 NHKが報道した「7件」は米紙ニューヨーク・タイムズも引用した。(1) NGOアジア女性資料センターは10月23日、NHKに対し、公開質問状を提出。(2) これを受け、NHKは10月25日、今回の事件の続報の中で、原報道での「7件」は「沖縄県がまとめた社会的に大きな問題になった事件の件数」だったと釈明し、原報道の誤りを事実上認めた。(ii)

 今月16日にアメリカ兵が女性に乱暴したとして逮捕された事件が7件と掲載しました。
 これは沖縄県がまとめた社会的に大きな問題になった事件の件数で、アメリカ軍の兵士や軍属が女性に乱暴したとして検挙された事件は、去年までに未遂も含めて124件に上っています。
(NHK Online「日米合同委、追加の防止策要請」2012/10/25 14:18より一部抜粋)

 


original

 

 

『女性乱暴の疑いで米兵2人逮捕 沖縄』

 16日未明、アメリカ海軍の米兵2人が、沖縄本島の中部で日本人の女性1人に乱暴してけがをさせたとして逮捕されました。
 1人は容疑を認め、別の1人は容疑を否認しているということです。
  ・・・(中略)・・・

米兵による沖縄の事件
 沖縄県内では、沖縄が日本に復帰した昭和47年以降、これまでにアメリカ軍の兵士が女性を乱暴したとして逮捕された事件が7件、起きています。
 平成7年には、アメリカ軍の兵士3人が女子小学生を車で連れ去り集団で乱暴する事件が起き、大規模な抗議集会が開かれました。
 また、平成13年には、アメリカ空軍嘉手納基地に所属する兵士が、北谷町(チャタンチョウ)で当時20歳の女性を乱暴し逮捕されたほか、平成15年には、キャンプ・ハンセンに所属するアメリカ海兵隊兵士が、金武町(キンチョウ)で当時19歳の女性の顔を殴って乱暴する事件が起きています。
(NHKオンライン NHK NEWS WEB 2012/10/16)

 


evidence

 

  1. NHKが「引用」した資料は、沖縄返還後の米兵による性暴力事件のすべてをまとめたものではなかった

  2. 沖縄の米兵強姦検挙件数は1989年以降だけで29件、軍属・家族を含めると1972年以降127件であった

 

1.NHKが「引用」したとする資料は、沖縄返還後の米兵による性暴力事件のすべてをまとめたものではなかった


 原報道は、1972年以後の沖縄米兵による性暴力事件の逮捕件数を「7件」と伝えている。この「7件」について、NHKは、10月25日の続報で「沖縄県がまとめた社会的に大きな問題になった事件の件数」だったと説明した。(3) 英文版記事の続報では「過去に怒りと抗議が拡大した事件として沖縄県が報告した件数」と説明した。(4)
 他方で、NHKは、アジア女性資料センターの質問に対して「沖縄県がとりまとめた主要な強姦致傷事件(未遂は除く)の資料から引用した」と説明し(5)、当機構の問い合わせに対しては「沖縄県がまとめた『復帰後の主な強姦事件概要』より引用した」「今回の事件と同様の既遂事件である『7件』の件数を記事で用いた」と説明している。(iii)

 NHKが「引用」したとする資料は、沖縄県が今回の事件後に記者用の資料として配布したもので、「復帰後の主な強制わいせつ事件概要」として7件、「復帰後の主な強姦事件概要」として9件、合計16件の事件概要が掲載されているものだった。(6)
 この資料には、沖縄返還の1972(昭和47)年以降、米兵が性暴力事件で逮捕された件数が7件であるとの記載はなかった。(iv)
 しかも、見出しの「主な・・・事件概要」という部分を見れば、この表が1972年以降のすべての事件をまとめたものでなく、一部の事件概要を紹介したものにすぎないことは明らかであった。(v)

 にもかかわらず、原報道は、1972年以降の沖縄米兵による性暴力事件の逮捕件数を「7件」と報じたのであるから、資料の引用に誤りがあったことは明らかである。

▲NHKが「引用」したとする沖縄県の資料。NHKは当初「7件」の理由について「沖縄県がとりまとめた社会的に大きな問題になった事件の件数」と釈明したが、後に説明を変遷させた。

 

2.沖縄の米兵強姦検挙件数は1989年以降だけで29件、軍属・家族を含めると1972年以降127件であった


 原報道は、「米兵による沖縄の事件」との小見出しのもと、沖縄返還後の米兵による性暴力事件の逮捕件数を「7件」と伝えている。一般読者はこれをもって、沖縄での米兵による性暴力事件の発生状況を表したものと理解する可能性が十分にある。
 ところが、警察庁の統計資料によると、沖縄での米軍人の「強姦」検挙件数は、1989(平成元)年から2011(平成23)年までで29件(33人)だった。(7)
 また、別の統計資料によると、沖縄が返還された1972(昭和47)年から2012(平成24)年までの9月までの沖縄での米軍人・軍属及びその家族による「強姦」検挙件数は、127件(144人)であった。(8)

 厳密にいうと、「検挙」件数は、警察が被疑者を逮捕した件数だけでなく、逮捕せずに事件を送致した場合や微罪処分にした場合も含まれるが、「逮捕」件数の統計はない(9)
 しかし、事件の発生状況をより正確に反映しているデータは、「逮捕」件数ではなく、捜査当局が逮捕せずに立件した事件もカウントした「検挙」件数である。
 原報道が報じた「7件」は、強姦検挙件数を大きく下回っていることから、沖縄での米兵による性暴力事件の発生状況を反映したものでないことは明らかである。

▲1972年以降の沖縄における米軍人・軍属・家族による刑法犯検挙数の統計(沖縄県警作成資料)。

 


conclusion

 

 

 原報道は、1972年以降、沖縄米兵が性暴力事件で逮捕された件数を「7件」と報じたが、NHKが「引用」したとする資料にはそうした記載はなく、引用に誤りがあった。しかも、原報道が報じた「7件」は、強姦検挙件数を大きく下回っており、沖縄米兵による性暴力事件の発生状況を反映していなかった。

 よって、原報道は、正確な資料引用や統計によって確認できる事実に基づかないで、沖縄米兵による性暴力事件の発生状況を誤って過少に報じたものと認められるから、誤報と認定する。

 


notes

(i) 原報道の原文は、アジア女性資料センター(AJWRC)の2012年10月23日付「沖縄における米兵性暴力事件の過少報道に関する公開質問状」注釈1による。AJWRCによると、原報道は10月16日にNHKのニュースサイトに掲載されていた。また、問題の記事と同一内容の報道はG-searchデータベースでも10月16日付で配信されたことが確認されている(ただし、データベース記事の見出しは異なる)。なお、当機構がNHKに確認したところ、問題となっている小見出し「米兵による沖縄での事件」の部分は、実際のニュースでは放送されなかったとしている。

(ii) ただ、この「沖縄県がまとめた社会的に大きな問題になった事件の件数」という説明も必ずしも正確でないことが、当機構の調査で明らかとなった。後述の証拠(1)。

(iii) 当機構の質問に対するNHKからの回答(2012年11月1日付)は、以下のとおり(問い合わせ番号 1516070_1516079)。

いつもNHKの番組やニュースをご視聴いただき、ありがとうございます。
お問い合わせの件についてご連絡いたします。
インターネットのニュースサイトに当初、掲載した記事は、沖縄県がまとめた「復帰後の主な強姦事件概要」より引用したものです。概要に記載された9件のうち、今回の事件と同様の既遂事件である「7件」の件数を記事で用いました。これについてアジア女性資料センターより、「アメリカ兵による性暴力事件のすべての件数であるかのような誤解を招く」とのご指摘があり、10月25日、ニュースサイトに以下の記事を掲載しました。
『今月16日にアメリカ兵が女性に乱暴したとして逮捕された事件が7件と掲載しました。これは沖縄県がまとめた社会的に大きな問題になった事件の件数で、アメリカ軍の兵士や軍属が女性に乱暴したとして検挙された事件は、去年までに未遂も含めて124件に上っています』
今後とも、NHKをご支援いただきますようお願いいたします。
お便りありがとうございました。
NHK沖縄放送局
NHKふれあいセンター(放送)

(iv) 注釈(iii)のとおり、NHK側は「復帰後の主な強姦事件概要」に記載された9件のうち、未遂を除いた件数が7件であるから、この件数を報じたと説明しているが、この資料のうち「逮捕」と明記された事件は16件中4件だけであった。

(v) 資料を提供した沖縄県知事公室基地対策課の担当者も、当機構の調査に対し、これまでに起きた主な事件の一部を紹介したものにすぎないと説明している。資料に載っている16件中、最も古い事件は1993(平成5)年の事件であることからみても、1972年以降のすべての事件を掲載した資料だとするには明らかに不自然な点があった。

(vi) NHKが「引用」したとする元の資料(出典(6)参照)には「復帰後の主な強姦事件概要」としか書かれていなかった。「社会的に大きな問題になった事件」とは書かれていない。

 


source

(1) Arrests of 2 U.S. Sailors in Rape Case Threaten to Fan Okinawa’s Anger(The New York Times 2012/10/16)

NHK reported that the new rape case was the seventh to result in the arrest of American servicemen since the United States returned Okinawa to Japan in 1972.

(2) アジア女性資料センター(AJWRC)「沖縄における米兵性暴力事件の過少報道に関する公開質問状」(2012年10月23日)。

(3) NHK Online「日米合同委、追加の防止策要請」(2012年10月25日 14:18配信)。既に削除されている。

(4) “Japan, US officials meet following rape in Okinawa” NHK World 2012/10/26 12:04 UTC. 既に削除されている。以下、一部抜粋。

Police there say there have been 124 cases of rape or attempted rape by US military personnel and civilian employees between 1972 and 2011. 1972 was the year the prefecture reverted to Japan.
In an article dated October 16th, NHK reported that in Okinawa there have been 7 cases involving arrests of US servicemen on charges of assaulting women over the period. That figure represents only those cases reported by Okinawa Prefecture as having caused widespread anger and protest.

(5) アジア女性資料センター(AJWRC)「沖縄における米兵性暴力事件の過少報道に関する公開質問状」注釈1。

(6) 沖縄県知事公室基地対策課より提供。同課がNHKに提供したと説明し、NHKも当機構の問い合わせに対し、この資料を引用したと回答している。

(7) 警察庁刑事局捜査第一課「米軍人による都道府県別刑法犯検挙状況」(2012年1月12日)

(8) 沖縄県警「米軍人・軍属及びその家族による刑法犯検挙状況(昭和47年~平成24年9月末累計)」。

(9) 当機構が沖縄県警広報課に確認。