原子力規制庁法案 論じた社説に誤り

2012年6月2日誤報レポートメディア:ジャンル:テーマ:

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【朝日】2012/5/30朝刊・社説「原子力規制庁」 自民公明両党が提出した原子力規制の新組織を設ける法案では、核拡散を防ぐ査察など保障措置に関する行政が移管されないと報じられた。しかし、実際は、保障措置の所管を移管する内容の法案だった。

 朝日新聞は、2012年5月30日付朝刊の社説で、「原子力規制庁―政治と専門家の連携を」の見出しをつけ、原子力規制庁を創設するための政府提出法案と自民・公明両党提出法案を論じ、両案とも、核拡散を防ぐ査察など保障措置に関する行政が規制庁の業務に盛りまれていないと報じた。(i)
 しかし、自公提出法案には、保障措置に関する規制の業務を新組織に移すことが明記されていた。
 朝日新聞は、訂正記事を出していない。

 


original

社説『原子力規制庁―政治と専門家の連携を』

 
 ようやく、である。
 原子力規制庁(仮称)の創設を柱とする原子力規制関連法案が衆議院で審議入りした。
 福島原発事故の反省に立って規制行政を推進から切り離し、一元化して強化する。脱原発依存を進めるうえでも、要となる法律である。
 法案提出からすでに4カ月が過ぎた。4月発足という当初の予定から大きくずれこんでいることが原発行政への不信を高める原因にもなっている。
 与野党は実効性ある仕組みづくりへ議論を尽くしつつ、一刻も早い成立を目指してほしい。
 焦点は、規制庁の独立性だ。
 政府案では、経済産業省内の原子力安全・保安院と内閣府の原子力安全委員会を移管・統合し、環境省の外局とし、人事や予算の権限は環境省が握る。非常時には政治が前面に出る。
 これに対し、自民、公明両党が提出した対案は、規制庁の上部組織として、独立性の高い国家行政組織法の「3条委員会」にあたる原子力規制委員会(仮称)を設け、政治の関与を排除することに力点を置く。
 両者の差は、福島事故の際の混乱原因を、専門家たちの能力欠如に見るか、それとも、菅首相(当時)をはじめとする政治家の過剰関与に見るか、の違いでもある。
 だが、これまでの事故検証が示すのは、政治も専門家集団も過酷事故への備えが甘く、どちらも未熟だったという事実だ。
 政府は早期成立へ自公案を受け入れる構えである。
 独立性を高める点に私たちも異論はない。ただ、専門家の質や意識が変わらないままでは、「原子力ムラ」による支配が強まることにもなりかねない。組織の中立性や透明性の確保は不可欠だ。
 組織の形をいじるだけではなく、外国からアドバイザーを入れたり、見識の高い専門スタッフを育成する手だてを講じたりしなければならない。
 そのうえで、平時でも緊急時でも、それぞれが役割や責任を果たしつつ、連携する仕組みを根底からつくることだ。
 規制の一元化という点でも問題が残る。政府案でも自公案でも、核拡散を防ぐ査察など保障措置(セーフガード)に関する行政は規制庁の業務に盛り込まれず、引き続き文部科学省の管轄となっている。
 核テロへの備えなど安全保障面での対応は、使用済み燃料の保管の仕方といった原子力規制とも密接に絡む。国際的な協調を総合的に進めるためにも新組織に集約すべきだ。
 (朝日新聞2012年5月30日付朝刊・オピニオン面)


evidence
  1. 自民公明両党が提出した法案は、国際約束に基づく保障措置の実施のための規制等を文部科学省から新組織(原子力規制委員会)に移管することを盛り込んでいる

 社説は、原子力規制庁設置関連法案が衆議院で審議入りしたことを踏まえ、政府提出案と自民・公明両党が提出した対案を比較して論じている。
 ここにいう「自民・公明両党が提出した対案」とは、2012年4月20日第180回国会に提出された「原子力規制委員会設置法案」であり、政府提出案と同様、社説掲載の前日の5月29日に衆議院で審議入りしたものである。(1)提出者の塩崎恭久議員(自民党)は、5月29日午後、衆議院で法案の趣旨説明を行った。(2)

 社説は、政府案も自民・公明両党が提出した対案も、「核拡散を防ぐ査察など保障措置(セーフガード)に関する行政は規制庁の業務に盛り込まれず、引き続き文部科学省の管轄となっている」と指摘している。
 ここでいう「保障措置(セーフガード)」とは、「核物質が核兵器やその他の核爆発装置に転用されることを防止するための手段」をいう。
 現在、日本は国際原子力機関(IAEA)と保障措置協定を結び、文部科学省が原子炉等規制法に基づいて保障措置を実施している。(3)(4)
 そして、自民・公明両党が提出した法案は、新設する「原子力規制委員会」の所掌事務として、次の事項を盛り込んでいた(第4条4号)。

「国際約束に基づく保障措置の実施のための規制その他の原子力の平和的利用の確保のための規制に関すること」

 つまり、この法案が成立すれば、現在文部科学省が管轄している保障措置に関する規制行政は、新設の原子力規制委員会に移管されることになっていた。(ii)
 法案の取りまとめ役となった塩崎恭久議員は、4月24日発行の自民党機関紙のインタビューでも、政府案では保障措置の業務は原子力規制庁で行うことになっているが、自民党案では原子力規制委員会が一元的に行うことにしたと、政府案との違いを説明していた。(5)

 


notes

(i) 朝日新聞ウェブ英字版の社説でも、

「…both the government and opposition bills leave it to the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology to deal with matters concerning safeguards for the prevention of nuclear proliferation…」

と記されている。

(ii) なお、自民・公明両党の原子力規制委員会設置法案では、政府案と同じ名称の「原子力規制庁」も設置することを盛り込んでいるが、これは「原子力規制委員会」の下部組織(事務処理の実施機関)にすぎず、事務局も原子力規制委員会内に置かれる(第22条)。

source

(1) 政府案については、2012年1月31日閣議決定時の報道資料議案審議経過情報[衆議院]議案本文情報[衆議院]参照。自民・公明両党の対案については、政策トピックス「原子力規制委員会設置法」(2012年5月30日)[自民党]議案審議経過情報[衆議院]議案本文情報一覧[衆議院]参照。

(2) 議事経過(第180回国会平成24年5月29日)[衆議院]

(3) 文部科学省「我が国における保障措置活動状況等について」[文部科学省]。なお、保障措置の詳しい内容は外務省の国際原子力機関(IAEA)のページ参照。

(4) 文部科学省設置法第4条71号

(5) 「塩崎恭久党原子力規制組織に関するPT座長 直撃インタビュー IAEAの安全基準の遵守を重視」『自由民主』(第2507号、平成24年5月1・8日号)所収[自由民主党]

<初掲載>
2012/6/2 05:00