「火力発電、点検怠る」 誤報認め全面削除

2012年5月18日誤報レポートメディア:ジャンル:, , ,

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【朝日】2011/4/9夕刊「火力発電 自主点検怠る」 四国電力の橘湾火力発電所が法令に定められた自主点検を怠っていると報じられた。しかし、実際は、法令に違反した事実は認められず、法令の内容や罰則規定についての説明にも誤りがあった。

朝日新聞は、2012年4月9日付夕刊の社会面で、「火力発電自主点検怠る」の見出しをつけ、四国電力が橘湾火力発電所について電気事業法に定められた自主点検を約1年間怠っているなどと報じた。(i)

しかし、四国電力が橘湾火電について法令等に違反して点検を怠っていたという事実はなかった。

四国電力は、報道された当日、法令等に違反する事実は一切ないとの反論声明を発表。
朝日新聞は、4月12日付夕刊で、記事の主要部分に誤りがあったとして、見出しと記事の全文を削除するとともに、おわびのコメントを掲載した。

 

▼朝日新聞2012年4月12日付夕刊の10面(第2社会面)に掲載されたおわび記事(ii)

訂正おわび記事


original

火力発電自主点検怠る 四電・橘湾 原発停止で不足か』

 

四国電力が、橘湾火力発電所(徳島県阿南市、70万キロワット)について、電気事業法に定められた自主点検を約1年間、怠っていることが9日、四電関係者への取材でわかった。伊方原発(愛媛県伊方町、202・2万ワット)の運転停止による電力不足を補うため運転を止められないことが原因とみられる。

火力発電所の重要部分であるボイラーやタービンの定期検査は、経済産業省令で2~4年に1度、義務付けられている。それ以外の配管チェックなどは、電気事業法に基づいて、電力各社が自主点検計画を作成し、実行する。

関係者によると、四電の自主計画では、ボイラーにつながる配管内部の劣化や損傷を、少なくとも年2回チェックすることになっている。点検には1週間以上運転を止める必要があるが、四電は橘湾火電を昨年4月以降、止めていない。

電気事業法は42条で、電力各社に対し、発電所の点検計画である「保安規程」の作成を義務化している。その中で、主要機器の検査とその他施設の自主点検の両方を実施するよう求め、毎年チェックしている。違反した場合は、保安院が改善指導や改善命令を出す。それに従わない場合は罰金などが科せられる。保安院によると、2011年度分のチェックはまだしていないという。

橘湾火電は、現在稼働している四電の発電所で最大の出力を持つ。四電の広報担当者は「安全性に問題のあるレベルではなく、違法状態ではないと考える」と説明するが、四電関係者は「違法状態と認識している。しかし、止めれば電力不足に陥る可能性がある」と話した。

これに対し、経済産業省原子力安全・保安院の担当者は「電力供給と安全確保は別問題。自主点検できていないと確認できれば改善を指導する」としている。

四電は橘湾火電を止めての定期検査を5月末に実施する方針だが、千葉昭社長は会見で、伊方原発の再稼働の見通しが立たない場合は先延ばしする可能性を示唆している。

火力発電所に詳しい東京大の金子祥三特任教授(エネルギー工学)は「他の火電でも橘湾と同様のことが起きている可能性がある。点検を先送りすれば配管からの蒸気漏れなど事故が起きやすくなる」と危険性を指摘する。

四電の電力需給は逼迫している。2月2日には、供給力538万キロワットに対し、需要が冬場としては過去最大の522万2千キロワットを記録し、電力使用率は97%に達した。昨年の夏場の最高は8月の88%だった。  (島脇健史)

(朝日新聞大阪版、2012年4月9日付夕刊・15面=第1社会面トップ=、4段)


evidence
  1. 四国電力は橘湾火力発電所について電気事業法に基づく検査を適正に実施しており、法令違反はなかった

  2. 四国電力が自主的に定めた社内規定に違反している事実も認められない

1.四国電力は橘湾火力発電所について電気事業法に基づく検査を適正に実施しており、法令違反はなかった

 

記事は、冒頭で、四国電力が「電気事業法に定められた自主点検を約1年間、怠っている」と記し、その根拠として、電気事業法に基づく「自主点検計画」ではボイラーにつながる配管内部の劣化や損傷を年2回のチェックすることになっているのにそれを怠ったと指摘している。

しかし、電気事業法は、火力発電所の事業者に対し、ボイラーやタービンなどの重要部分と附属施設を一定期間内に検査することを義務づけているが(法55条1項、法施行規則94条1項。頻度については、法施行規則94条の2第1項)、「ボイラーにつながる配管内部の劣化や損傷を年2回チェックする」ことは法令上要求されていない。(1)

四国電力は、橘湾火力発電所について電気事業法に基づく定期事業者検査を適正に実施しており、検査義務に違反したという事実もなかった。(2)

 

また、事業者は、発電所ごとに点検体制等を定めた「保安規程」を作成して届け出(法42条1項、法施行規則50条)、これを遵守する義務があるが(法42条4項)、四国電力が橘湾火電の保安規程に違反して点検を怠っていたという事実は確認されていない。(3)

 

記事では、「保安規程に違反した場合は改善指導や改善命令が出され、それに従わない場合は罰金などが科せられる」旨の記載があるが、電気事業法は保安規程遵守義務に違反した場合の罰則規定を設けていない。(iii)

▲四国電力が報道当日に自社ホームページに掲載した反論声明

 

2.四国電力が自主的に定めた社内規定に違反している事実も認められない

 

四国電力は、保安規程とは別に、自主的に定めた社内規定において、発電所の設備の巡視・点検頻度・内容等を定めている。(4)(iv)

 

しかし、法令上作成・届出義務のある保安規程とは異なり、社内規定は自主的に定めたものにすぎず、社内規定に違反したとしても、ただちに法令違反となるわけではない。

しかも、この社内規定には、記事のいうように「ボイラーにつながる配管内部の劣化や損傷を少なくとも年2回チェックすることになっており、点検には1週間以上運転を止める必要がある」旨の規定は存在せず、社内規定の点検頻度にも違反した事実も認められない。(5)

 

記事では、四国電力の広報担当者、四国電力関係者、経済産業省原子力安全・保安院の担当者、金子祥三東京大特任教授のコメントが引用されているが、朝日新聞は、いずれも誤った前提事実をもとにしたコメントであり、引用は不正確であったと認め、すべて削除している。(v)

 

ただ、橘湾火電は四国電力の発電所で最大の出力を持っており(6)、橘湾火電が点検を実施するために運転を停止したのは、至近では2011年4月2日から4月10日までであった。(7)

したがって、記事のうち「橘湾火電は現在稼働している四電の発電所で最大の出力を持つ」「四電は橘湾火電を昨年4月以降、止めていない」という部分は事実である。

 

また、四国電力は橘湾火電について、法定期間内に行う必要のある定期事業者検査を2012年5月末から7月末にかけて実施する予定としているが(8)、千葉昭社長は、3月29日の定例会見において、「仮に、5月中旬になっても、伊方発電所の再稼働が全く見通せないというような状況であれば、橘湾発電所の定期点検を1年繰り延べるという選択肢も検討する必要があると考えている」と発言している。(9)(vi)(vii)

したがって、記事のうち「四電は橘湾火電を止めての定期検査を5月末に実施する方針だが、千葉昭社長は会見で、伊方原発の再稼働の見通しが立たない場合は先延ばしする可能性を示唆している」という部分も事実である。

 


notes

(i) 東京版では2012年4月9日付夕刊・13面(第1社会面)の肩。見出し(3段)は『自主点検怠り運転継続 四国電力橘湾火電 電力不足補うため』で、記事本文は大阪版の第4段落と第9段落を省略して掲載されていた。

(ii) 東京版でも、おわび記事は2012年4月12日付夕刊・10面(第2社会面)、2段で、見出し・本文は大阪版と同じであった。

(iii) 電気事業法は、保安規程の届出義務違反、変更届出義務違反、変更命令違反に対しては罰則規定を設けているが(法42条1~3項、法102条1号・6号)、遵守義務(法42条4項)の違反に対する罰則規程は設けられていない。

(iv) 四国電力本社広報部は、記事にいう「自主点検計画」「自主計画」という名の文書は存在せず、何を指しているのか必ずしも分からないが、おそらく同社の社内規定のことを指すとみられると回答した。

(v) 四国電力本社広報部は、広報部のコメントとして「安全性に問題のあるレベルではなく、違法状態ではないと考える」と引用された部分については、事実でないと回答。四国電力関係者のコメントとして「違法状態と認識している。しかし、止めれば電力不足に陥る可能性がある」と引用された部分については、当該関係者が誰なのか不明であり事実確認ができないとしている。

(vi) 定期事業者検査の実施時期は経済産業大臣の承認を得て延期することも可能とされている(電気事業法施行規則94条の2第3項)。

(vii) 四国電力は、2012年5月18日に行われた社長定例記者会見で、国の特例承認(注釈(vi)参照)を得て、橘湾火電と坂出火電2号機の定期検査を当面繰り延べることとしたと発表した。繰り延べにあたっては、夏前に短期間の中間点検を実施し、最低限、設備の健全性を確認するとしている。

source

(1) 電気事業法電気事業法施行規則(経済産業省令)。なお、発電所の保安に関する法令の仕組みについては、経済産業省原子力安全・保安院による説明参照。

(2) 四国電力「4月9日付夕刊『火力発電自主点検怠る~四電・橘湾 原発停止で不足か~』について」2012年4月9日

(3) 四国電力本社広報部の回答。原子力安全・保安院も、四国電力が保安規程に違反して点検を怠っていたという事実は確認していない。

(4) 四国電力本社広報部の回答

(5) 出典(2)

(6) 四国電力ホームページ、橘湾発電所の施設紹介

(7) 四国電力本社広報部の回答

(8) 四国電力本社広報部の回答

(9) 四国電力ホームページの「平成24年3月社長定例記者会見の概要」にはこの発言部分が記載されていないが、同社広報部より発言内容は事実との確認を得た。

<初掲載>
2012/5/18 03:00

<加筆>
2012/5/23 23:00
※橘湾火電の定期検査延期が発表されたため、注釈(vii)を加筆しました。