「千葉でヨウ素10兆ベクレル」と誤報

2012年5月3日誤報レポートメディア:ジャンル:, テーマ:

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【時事】2012/4/3「千葉で『ヨウ素10兆ベクレル』未公表」 原発事故直後、WSPEEDIを用いた試算で、千葉でヨウ素の濃度が毎時10兆ベクレルという高い数値が出ていたと報じられた。しかし、その数値は福島第一原発からの毎時放出量で、千葉の観測値ではなかった。

時事通信は、2012年4月3日、「千葉で『ヨウ素10兆ベクレル』未公表」「昨年3月、世界版SPEEDI試算」の見出しをつけ、2011年3月15日に千葉市内でヨウ素の濃度が毎時10兆ベクレルと推計されていたにもかかわらず、公表されていないと報じた。

福島第一原発事故を受けて、日本原子力安全開発機構が2011年3月15日、世界版SPEEDI(W-SPEEDI)を用いて実施した放射能拡散予測が、2012年4月3日時点で公表されていなかったことは事実だった。
しかし、「千葉市内でヨウ素の濃度が毎時10兆ベクレルと推計された」という試算結果は出ておらず、正しくは、3月14日午後9時に福島第一原発から放出されたヨウ素の放出量が1時間あたり10兆ベクレルと推計された、という内容であった。
この試算では、千葉市内で3月15日午前6~7時に計測された放射能データも用いられていたが、その観測値はヨウ素で1立方メートルあたり約6.8ベクレルであった。

時事通信は、4月3日中にニュースサイトの見出しと記事を差し替えて掲載した上で、翌日、訂正とおわび記事を掲載した。

 

▼訂正・おわびと差替え後の記事(2012年4月4日配信)。文科相会見の情報が追加されている。(i)

訂正おわび記事


original

千葉で「ヨウ素10兆ベクレル」未公表 昨年3月、世界版SPEEDI試算』

 

東京電力福島第1原発事故で、昨年3月15日、放射性物質の拡散予測データ「世界版SPEEDI」の試算結果で、千葉市内でヨウ素の濃度が毎時10兆ベクレルという高い値が出ていたにもかかわらず、文部科学省と原子力安全委員会の間で十分な連携が取られず、現在も公表されていないことが3日、分かった。

文科省や安全委によると、世界版SPEEDIは放出される放射性物質の拡散状況を半地球規模で予測するシステム。日本原子力研究開発機構が同システムを運用しており、昨年3月も文科省の依頼を受け、試算を行っていた。

それによると、福島第1原発から昨年3月14日午後9時ごろに放出された放射性物質が拡散した結果、千葉市内で同15日午前6~7時、ヨウ素の濃度は毎時10兆ベクレル、セシウム134、137もそれぞれ同1兆ベクレルと推計された。

この試算データの評価について、文科省は安全委の担当と判断し、同16日に安全委へデータを送るよう同機構に指示した。同機構はメールに添付して送信したが、安全委は重要情報と認識せず、放置したという。同様にデータを受け取っていた文科省も、安全委に公表するよう連絡しなかった。

(時事通信、2012年4月3日12時49分)


evidence
  1. W-SPEEDIで予測されたのは、福島第一原発からの放射性物質放出率(1時間あたり放出量)であった

  2. 3月15日に千葉で観測された大気中のヨウ素は6.8Bq/m3であった

1.W-SPEEDIで予測されたのは、福島第一原発からの放射性物質放出率(1時間あたり放出量)であった

 

日本原子力研究開発機構は、2011年3月15日、日本分析センターが千葉市内で観測した放射性物質濃度をもとに、W-SPEEDIを用いて、福島第一原発から放出された放射性物質の放出率(1時間あたりの放出量)を試算していた。

その結果、3月14日午後9時頃に福島第一原発から放出された放射性物質の放出率は、ヨウ素131が1時間あたり10兆ベクレル、セシウム137が1時間あたり1兆ベクレル、セシウム134が1時間あたり1兆ベクレルと推定された。(1)(ii)(iii)

いずれの予測結果も、10分の1から10倍までの誤差はあると注記され、放出された放射性物質は福島第一原発の1号炉と3号炉の合計と推定され、3月14日21時頃放出されたと推定される」と記されていた。

 

▼未公表となっていた日本原子力研究開発機構の報告書。2011年3月14日午後9時の放射性物質の放出率を推定した結果が記載されている。2012年4月13日、文部科学省により公表された。

2.3月15日に千葉で観測された大気中のヨウ素は6.8Bq/m3であった

 

この推定計算では、日本分析センターが行った千葉市内の放射能観測値(1立方メートルあたりの放射性物質量)が用いられていたが、その結果は、次のとおりであった(いずれも3月15日午前6~7時の観測値)。

  • ヨウ素131・・・・1立方メートルあたり6.796ベクレル
  • セシウム137・・・1立方メートルあたり0.5284ベクレル
  • セシウム134・・・1立方メートルあたり0.4566ベクレル

▲日本分析センターが千葉市内で観測した放射能測定結果。「大気浮遊じん」が大気中の1立方メートルあたりの放射性物質濃度。3月14日~15日の数値が上記「放出率推定」で用いられた観測値とほぼ一致。これによれば大気中ヨウ素の最大観測値が47Bq/m3(3月22日~23日)であった。

 

したがって、原報道の「千葉市内で3月15日午前6~7時、ヨウ素の濃度は毎時10兆ベクレル、セシウム134、137もそれぞれ1兆ベクレルと推計された」というのは間違いで、正しくは「千葉市内で3月15日午前6~7時に観測された大気中の放射能観測値をもとに、3月14日午後9時ころに放出された放射性物質の1時間当たりの放出量を推定した結果、ヨウ素131は1時間あたり10兆ベクレル、セシウム134、137もそれぞれ1兆ベクレルと推定された」であった。
東京新聞第一報

▲東京新聞2012年4月3日付朝刊の第一報。時事通信の原報道はこれを後追いしたが、誤報となった。この東京新聞の記事にも誤解を招く記載があり、別途検証を行う。

 

ところで、この予測結果が未公表になっていたことは、東京新聞2012年4月3日付朝刊の第一報で初めて明らかとなった。
平野博文文部科学大臣は同日の記者会見で、W-SPEEDIの公表漏れがあったことを認めている。(3)
この予測結果は、文部科学省が2012年4月13日、ホームページで公表した。(4)(iv)
その後、原子力安全委員会も4月27日、他のW-SPEEDI未公表資料とともに公表した。(5)

 

また、文部科学省が2011年3月16日、日本原子力研究開発機構に試算結果を原子力安全委員会に送るよう指示し、同機構がメールで原子力安全委員会に送付したと報じられて部分についても、原子力安全委員会が公表したメールのやり取りにより裏付けられている。(6)(v)
文科省メール

▲文部科学省から日本原子力研究開発機構の原子力緊急時支援・研修センター(NEAT)にW-SPEEDIデータを原子力安全委員会に送るよう指示する内容の2011年3月16日付メール。

 


notes

(ii) 「兆」(10の12乗)の単位は「テラ」とも表記される。10兆ベクレル=10テラベクレル。

(iii) 参考までに、原子力安全委員会は2011年4月11日、同年3月15日の福島第一原発からの放射性物質放出率が1時間あたり最大1京ベクレル(1万テラベクレル、10の16乗)との試算結果を明らかにしている(共同通信2011年4月12日)。日本原子力研究開発機構の試算結果(原子力安全委員会資料)も参照。したがって、今回公表された「毎時10兆ベクレル」という放出率は、最大推計値(1京ベクレル)の1000分の1程度であり、これと比較すると特別「高い」数値であるわけではない。

(iv) 文部科学省のホームページには、今回の時事通信が報じた文書以外に、単位放出量を仮定したWSPEEDIによる拡散予測結果(2011年3月16日付文書)も公表された。

(v) 関連記事として、J-CASTニュース「千葉で信じられない高濃度検出 時事通信が『SPEEDI誤報』でおわび」2012年4月4日[J-CAST]

source

(1) (独)日本原子力研究開発機構「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴うW-SPEEDIⅡによる放出率推定結果について」2011年3月15日[文部科学省―放射性モニタリング情報・2012年4月13日掲載]

(2) (財)日本分析センター「大気浮遊じん、降下物、水道水の測定結果について」

(3) 平野博文文部科学大臣記者会見記録(平成24年3月3日)[文部科学省]

(4) 脚注(1)参照。

(5) 原子力安全委員会「東京電力福島第一原子力発電所事故に関するW-SPEEDIによる試算結果の公表について」2012年4月27日[原子力安全委員会]

(6) 原子力安全委員会「W-SPEEDIによる試算結果の公表に至る経緯等」2012年4月27日[原子力安全委員会]、参考資料3、4

(7) 時事通信「「ヨウ素10兆ベクレル」未公表=世界版SPEEDI試算-文科省、安全委連携不足」2012年4月3日(差替え済)

【関連記事】

[検証レポート]WSPEEDI特報で「放出量」を「濃度」と誤記

<初掲載>
2012/5/3 05:45