SPEEDI不具合で「予測不能」と誤報

2012年4月1日誤報レポートメディア:ジャンル:, , テーマ:

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【読売】 2011/3/15朝刊「放射性物質の拡散予測不能」 東日本大震災発生直後からシステム不具合でSPEEDIによる放射性物質の拡散予測ができなくなっていると報じられた。しかし、実際は、事故後1週間で300回近い予測計算が行われていた。

 読売新聞は、2011年3月15日付の朝刊4面で、「放射性物質の拡散予測不能」「原子力安全技術センター 地震でシステム不具合」の見出しをつけ、放射性物質拡散予測システム「SPEEDI」が、東日本大震災の影響で必要な気象データが受信できない不具合が生じ、福島第一原子力発電所等の放射性物質拡散を予測できなくなっていると報じた。

 しかし、SPEEDIを運用している原子力安全技術センターは、東日本大震災が発生した直後、緊急時処理に切り替えて、政府の指針どおりに予測計算を開始し、3月11日から17日までの間に、原子力安全・保安院など関係機関の依頼分を含め、294回の予測計算を行っていた。また、地震後も、気象庁のGPVデータは正常に受信できていたため、SPEEDI予測計算は可能だった。

 原子力安全技術センターは、3月16日、SPEEDIによる拡散予測計算を行うことは可能であり、現に行っていると反論し、「誤認記事」と指摘する声明を発表した。
 しかし、その後も読売新聞は訂正していない。

 


original

放射性物質の拡散予測不能』『原子力安全センター 地震でシステム不具合

 

 重大な原発事故に備え、放射性物質の拡散状況を予測する原子力安全技術センター(本部・東京)のシステム「SPEEDI」が、地震の影響で必要なデータを受信できなくなっていることが分かった。回線の損傷が原因とみられるという。肝心の福島第一、第二原発での予測ができず、システムの有効性が問われそうだ。

 センターによると、SPEEDIは、19道府県が原子力施設付近に設置している観測装置から、放射線量、風向、風量などのデータが専用回線を通じてセンター内のスーパーコンピューターに送られるシステム。これをもとに住民の避難行動の参考にするのが狙いだったが、地震発生後、青森、宮城、福島県からのデータが受信できなくなった。

 センターの担当者は「地震の規模が想定を超えていた」と話している。
(読売新聞 2011年3月15日付朝刊・4面、3段)


evidence
  1. 予測に必要な気象データは受信できていた

  2. 原子力安全委の指針どおり緊急時の予測計算を開始していた

  3. 事故後1週間で約300回の予測計算が行われた

  4. 政府もSPEEDIは故障していなかったと答弁していた

1.予測に必要な気象データは受信できていた

 

 緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)には、平常時処理と緊急時処理の2種類がある。
 SPEEDIは、平常時は、地方公共団体のテレメータシステムからの気象データを収集しているが、緊急時は、気象庁から送られてくるGPVデータを使用して予測計算することになっている。(1)

 地震の影響で地方公共団体のテレメータシステムからの気象データが受信できなくなったのは事実であるが、SPEEDIの緊急時予測に必要なGPVデータは地震後も受信できていた。(2)
 そのため、SPEEDIは、地方公共団体テレメータシステムのデータが受信できなくなったことにより拡散予測が不可能になったという事実はなく、実際は、GPVデータに基づいて緊急時予測が可能で、実際に行われていた。(i)

▲原子力安全技術センターのSPEEDIパンフレット一部抜粋。緊急時処理では気象庁のGPVデータをもとに予測計算を行うと説明されている。

 

2.原子力安全委の指針どおり緊急時の予測計算を開始していた

 

 原子力安全委員会が策定した「環境放射線モニタリング指針」には、SPEEDI使用方法について「事故発生後の初期段階において、放出源情報を定量的に把握することは困難であるため、単位放出量又は予め設定した値による計算を行う」と定めている。(3)

 SPEEDIを運用している原子力安全技術センターは、2011年3月11日午後4時49分、文部科学省の指示に基づき、緊急時処理に切り替え、SPEEDIを用いて1時間ごとに単位量放出を仮定した予測計算を開始し、その結果を同省など関係機関に報告しており、「環境放射線モニタリング指針」どおりにSPEEDIを運用していた。(4) (5)

読売新聞の誤報記事について

▲原子力安全技術センターの2011年3月16日発表資料。読売を含め、どの報道機関にも報じられなかった。

 

3.事故後1週間で約300回予測計算が行われた

 

 原子力安全・保安院や原子力災害現地対策本部など関係機関は、事故直後から、原子力安全技術センターに放出源情報を提供してSPEEDI予測計算を実施していた。
 その回数は、2011年3月11日から17日までの間に106回に上った(別表)。
 これとは別に、文科省の要請を受け、原子力安全技術センターは、事故後1週間で188回、単位量放出条件での予測計算を行い、関係機関に報告していた(福島第二原発の拡散予測を含む)。

 つまり、事故後1週間だけで、SPEEDIによる拡散予測計算は、294回実施されていたことになる。

 

【表】2011年3月11日~17日のSPEEDI予測計算実施回数

原子力安全・保安院 45回 (6)
文部科学省 41回 (7)(8)(ii)
原子力災害現地対策本部 19回 (9)(iii)
原子力安全委員会 1回 (10)(iv)
緊急時・単位量放出計算 188回 (11)(12)
合  計 294回
  (日本報道検証機構作成)

 

4.政府もSPEEDIは故障していなかったと答弁していた

 

 政府は、2011年5月10日、国会で、SPEEDIが「停電や計器故障により計算不能状態にあったという事実はない」との答弁書を提出している。(13)

 


notes

(i) 週刊誌AERA「国民には『データ』隠蔽」2011年3月28日号は、地方公共団体からの気象データが受信できなくなったものの、気象庁から提供されるデータを使って拡散予測のシミュレーションをしていると伝えており、こちらは正確な報道であった。

(ii) 世界版SPEEDI(WSPEEDI)による予測計算5回分を含む。WSPEEDIはSPEEDIとは開発、運営主体も異なる全く別の放射能拡散予測システムである。WSPEEDIについての説明はこちら

(iii) 特に、原子力災害現地対策本部は、5月5日まで連日SPEEDI予測計算を行っており、合計214回に上った。

(iv) 政府事故調の中間報告書p.260にも「安全委員会も、3月12日夜に一度、原子力安全技術センターに依頼した」とある。

source

(1) 文部科学省原子力安全課防災ネットワーク「SPEEDI」SPEEDIパンフレット

(2) 日本報道検証機構が原子力安全技術センターに確認。

(3) 原子力安全委員会「環境放射線モニタリング指針」平成20年3月(平成22年4月一部改訂)p.51。

(4) 原子力災害対策本部「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」平成23年6月、V-1。

(5) 政府事故調(東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会)「中間報告書」2011年12月26日発表(257頁以下)

(6)原子力災害対策本部事務局(原子力安全・保安院)におけるSPEEDI計算図形一覧(平成23年3月11日~16日)[原子力安全・保安院]

(7) 文部科学省における仮想的な条件を設定した計算結果一覧[文部科学省]

(8) 東京電力福島第一原子力発電所事故に関するW-SPEEDIによる試算結果の公表について(平成24年4月27日)[原子力安全委員会]。なお、文部科学省も2012年4月13日に追加公表しているが(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)等による計算結果[文部科学省])、原子力安全委員会が追加公表した2011年3月17日付の資料は掲載されていない。

(9) 原子力災害現地対策本部におけるSPEEDI計算図形一覧(平成23年3月14日~5月5日)[原子力安全・保安院]

(10) 文部科学省 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)を活用した試算結果[原子力安全委員会] この中に原子力安全委員会が3月12日にSPEEDI予測試算を行った結果が掲載されている。

(11) 文部科学省 福島第1原子力発電所における単位量放出を仮定した予測計算結果(2011年3月11日~)[文部科学省原子力安全課防災ネットワーク]

(12) 文部科学省 福島第2原子力発電所における単位量放出を仮定した予測計算結果(2011年3月11日~13日)[文部科学省原子力安全課防災ネットワーク]

(13) 第177回国会(常会)答弁書第132号(平成23年5月10日)[参議院]PDF版

 

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<初掲載>
2012/4/1 18:00

 

<訂正>
2012/5/10 22:25
※ 文部科学省の依頼に基づき日本原子力研究開発機構がWSPEEDIを用いて拡散予測を行っていた事実が新たに判明したことから、2011年3月11日から17日までの拡散予測計算回数を「291回」から「294回」に修正したうえ、出典(8)を追加しました。