米大統領尖閣発言 訳語の食違いは許容範囲?

2014年4月26日

▼オバマ米大統領が記者会見で、尖閣問題について事態がエスカレートすることは「正しくない」と発言したと伝えた報道と「大きな過ち」と発言したと伝えた報道があった。より正確な訳語はどちらか。この程度の食違いは許容範囲だろうか。(楊井 人文)(追記あり)

《読者アンケート》

《追記》2014/4/28 21:30

《追記》2014/4/30 14:00

【関連】注意報=オバマ”正しくない”発言 「政府が同時通訳」は誤報

オバマ米大統領は4月24日、安倍晋三首相との会談後の共同記者会見で、尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用対象であると言明。主要各紙は24日付夕刊で、これを1面で「尖閣に安保適用明言」などと見出しをつけて大きく報道した。

毎日新聞2014年4月24日付夕刊1面

毎日新聞2014年4月24日付夕刊1面

一方で、オバマ大統領は、会見の中で尖閣問題の平和的解決の重要性に繰り返し言及。この点に関し、多くの主要メディアは、オバマ大統領が安倍首相に「事態がエスカレートし続けるのは正しくない」と述べたと報道していたが、朝日新聞と共同通信は「この問題がエスカレートし続けるのは大きな過ちだ」と述べたと伝えていた。

実際にオバマ大統領が会見で発した言葉は、“a profound mistake”だった。これを素直に訳すと、「深刻な過ち」とか「大きな過ち」といった表現になるはずだ。ちなみに、記者会見の同時通訳は「非常に好ましくない過ち」と訳していた。

もちろん、「正しくない」であれ「大きな過ち」であれ、オバマ大統領が尖閣問題の事態のエスカレートを否定的に評価していることには変わりない。したがって、読者がオバマ大統領の真意を大きく誤解するおそれはなく、明確な誤訳とまではいえないだろう。従来、メディアは、外国要人の発言を一字一句忠実に訳するのではなく、わかりやすく意訳することも少なくない。外国語を直訳すればわかりにくくなることも多いから、意訳して報道すること自体はむしろ必要な場合もあろう。どのような訳語を使うかは、メディアの編集裁量が多少あることは否定しない。

だが、米国の大統領が尖閣問題について公式にどう態度表明をしたかは、大事な問題である。こうした場面での発言のニュアンスを、メディア側の主観で勝手に変えてしまうべきではない。「日米結束」を演出的に報道しようとして“配慮”が働いたのだとすれば尚更である。

今回のケースの「正しくない」という訳語は、許容される範囲内だといえるだろうか。ぜひ多くの意見を聞いてみたいものである。

【追記】NHKニュースが24日の日米共同記者会見の生中継で、「正しくない」と同時通訳して放送していたことがわかった。一部メディアはNHKの生中継を見て、その同時通訳を聞いたままに報道した可能性がある。

一般に、同時通訳は必ずしも正確に訳せるとは限らないから、NHKの同時通訳自体は責められるべきことではない。これが「誤訳」として許容範囲内かどうかという問題以上に、メディアが自ら発言内容を確認せずに報じたとすればそちらの方が問題である。琉球新報が27日付朝刊で、この「誤訳」問題をとりあげたが、政府の公式通訳が「正しくない」と訳し、メディアがそのまま報じたと指摘している。実際は政府の公式通訳はそのように訳していなかったので事実誤認なのだが、それはさておき、政府のであれ、NHKのであれ、同時通訳をそのまま報じるのはメディアの怠慢というべきもので、そのことを問題だと思わないようだとしたら深刻である。

詳しくは、【注意報】オバマ”正しくない”発言 「政府が同時通訳」は誤報もご覧いただきたい。(2014/4/28 21:30追記、2014/4/29 06:00修正)

【追記2】琉球新報社より事実関係を調査した結果、政府の通訳が「正しくない」と訳したとの部分は事実誤認だったので訂正を行う方向で検討しているとの回答があった。また、26日付琉球新報の記事は共同通信の配信だったようである。詳しくは、【注意報】オバマ”正しくない”発言 「政府が同時通訳」は誤報もご覧いただきたい。(2014/4/30 14:00)


【読者アンケート】

オバマ大統領の発言"a profound mistake"を「正しくない」と訳した報道は許容範囲だと思いますか?

View Results

Loading ... Loading ...

■オバマ大統領の共同記者会見の発言 (米ホワイトハウスのホームページより一部抜粋)

In our discussions, I emphasized with Prime Minister Abe the importance of resolving this issue peacefully — not escalating the situation, keeping the rhetoric low, not taking provocative actions, and trying to determine how both Japan and China can work cooperatively together.  And I want to make that larger point.  We have strong relations with China.  They are a critical country not just to the region, but to the world.

… at the same time, as I’ve said directly to the Prime Minister that it would be a profound mistake to continue to see escalation around this issue rather than dialogue and confidence-building measures between Japan and China.  And we’re going to do everything we can to encourage that diplomatically.

■共同記者会見の同時通訳 (首相官邸ホームページより文字起こし) ※23:25ごろから

…同時に総理に言いました。引き続きエスカレーションになってしまうということは非常に好ましくない過ちになるということ。日中の間で対話や信頼醸成措置を形成すべきだと。我々としてもこれを外交的に奨励したいと思います。…

□読売新聞4月25日付朝刊(会談要旨で引用した以外に記載なし)

大統領 日本の施政下にある領土は全て安保条約の適用範囲に含まれている。同時に事態がエスカレートし続けるのは正しくない。日本と中国は信頼醸成措置を取るべきだ。

□朝日新聞4月25日付朝刊「尖閣に安保適用、米大統領初の明言 中国を牽制、対話も促す」より一部抜粋

日米安保条約第5条は、日本の施政下にある領域での武力攻撃について、米国が日本を防衛する義務を定めている。オバマ氏は共同記者会見で、「我々は日米の安全保障にコミット(関与)している。尖閣諸島も含め第5条の適用対象となる」と表明した。一方で、オバマ氏は「安倍首相に申し上げたが、この問題がエスカレートし続けるのは大きな過ちだ。日本と中国は信頼醸成措置をとるべきだ」と強調。尖閣諸島の領有権については「特定の立場は取らない」として、領土問題には立ち入らない考えも示した。

□毎日新聞4月25日付朝刊「日米首脳会談 安保では協調演出 日中改善促す」より一部抜粋

24日の日米首脳会談で、オバマ米大統領は沖縄県・尖閣諸島を日米安全保障条約5条の「適用対象」と明言し、安倍晋三首相が目指す集団的自衛権の行使容認にも支持を表明した。日本側は安全保障分野ではほぼ思い通りの成果を得られたと評価している。ただ、オバマ氏は首相との共同記者会見で米中関係の重要性にも言及し、会談で首相に「尖閣問題で事態がエスカレートし続けるのは正しくない」と注文を付けたことを明らかにした。安保適用に「お墨付き」を与えた代わりに、首相に懸案の日中関係改善を促したといえる。

□産経新聞4月25日付朝刊「日米首脳会談 オバマ氏、指導力アピール」より一部抜粋 (MSN産経ニュース掲載電子版記事も参照)

歴史問題をめぐる対立が続く日中関係については、オバマ氏は「事態がエスカレートし続けるのは正しくない日本と中国は信頼醸成措置を講じるべきだ」と注文を付け、安倍首相も第二次大戦中、「われわれは特にアジアの人たちに多大な損害、苦痛を与えた」との言葉を口にした。オバマ氏は先月には日米韓首脳会談の仲介役を果たしており、地域の安定のため、日中、日韓の関係改善に積極的に乗り出している。

□日本経済新聞4月24日付夕刊「中国にらみ同盟強化」より一部抜粋

…ただ両首脳は中国との対話の重要性も確認した。記者会見では首相が「日米同盟の強化は他の国に圧力をかけたり、脅威を与えることではない」との認識を表明。オバマ大統領も「安倍首相に『事態がエスカレートすることは正しくない』と伝えた。信頼醸成措置をとることが大切だ」と語った。

□東京新聞4月25日付朝刊「見せかけの同盟強化」より一部抜粋

「国際法や規範に違反した国が出てくるたびに、米国が戦争しなければならないわけではない」。オバマ氏は中国が尖閣に軍事侵攻した場合に武力を行使するかと問われると、中国との衝突を避けたい思いを隠さなかった。逆に、首相に対して「事態がエスカレートを続けるのは望ましくない。日中は信頼関係を醸成すべきだ」と要求。尖閣防衛が強化されたとはいえないのが実態だ。

共同通信4月25日付「尖閣関連発言要旨」より一部抜粋

 日米安全保障条約は、私が生まれる前に結ばれた。越えてはいけない一線を私が引いたわけではない。 日米同盟に関し、これまで歴代の政権がしてきたのと同じ標準的な解釈だ。 日本の施政権下にある領域は全て、条約の適用範囲ということだ。私たちは単に条約を適用しているにすぎない。
 日中が対話や信頼醸成をせず事態がエスカレートするのは、大きな過ちだと安倍首相に伝えた。私たちも外交的にあらゆる協力をする。

時事通信2014年4月24日付「中国にらむ日米=連携難しさ」より一部抜粋

…東・南シナ海で海洋進出を強める中国の行動は米国も懸念しているが、ウクライナ問題での協力を模索する中、いたずらに中国を刺激したくないのも本音。大統領は会見で「米国は中国とも緊密な連携を保っている」と中国への配慮を見せ、会談では「事態がエスカレートし続けるのは正しくない」と首相にクギを刺す場面もあった