STAP論文問題 ES細胞混入説に執筆陣が反論〔追記あり〕

2014年4月14日

▼STAP論文問題で、一部報道で「ES細胞混入説」という風評が流布されているが、これに小保方氏だけでなく主要な共同執筆者が強く反論している。メディアでほどんど紹介されていない反論内容を明らかにする。(楊井 人文)(追記あり)

【特集】STAP論文報道の検証

《重要なお知らせ》理化学研究所のSTAP論文に関する調査委員会が12月26日、STAP 細胞が多能性を持つという論文の証拠となるべき STAP 幹細胞などがすべて「ES 細胞の混入」で説明可能であると科学的な証拠で明らかになり、STAP 論文はほほすべて否定されたと結論づけました(詳細は理化学研究所ホームページ参照)。結果的に本コラムに正鵠を得ていなかった箇所があるかもしれませんが、「疑惑の渦中にある当事者の反論をメディアが公平に扱っているか」という問題提起は意義を失っていないと考え、引用した情報の資料的価値や社会的関心の高さも考慮し、当面そのまま掲載することとします。ご理解いだきますようお願いいたします。(2014年12月26日、楊井人文)

《追記》2014/4/19 07:00 ※笹井茂樹氏の会見内容を追記。


ここ1か月間、STAP論文問題の報道が熱を帯びている。ネット上の指摘がきっかけで浮上した論文の不備が故意によるものなのか過失なのか、研究成果は科学的裏付けがあるのかどうか、STAP細胞は存在するのかどうか―。要するに、STAP論文が「捏造」の成果物なのかに焦点が集まっている。

一般に、マスメディアは「疑惑」が浮上したとき、「疑惑」を強める報道に傾斜していく。不正や不祥事を追及することがメディアに期待された役割であることは否定しない。だが、今回はメディアがSTAP論文発表当初に大喝采を送っただけに、メディア自身がこの予期せぬ「疑惑」に、小保方氏への〝被害者意識〟をもって、もしくは世間への〝贖罪意識〟をもって追及を強めているとすれば、非常に危うい。当初、iPS細胞より優れていると強調したのは、メディアがiSP細胞の研究動向を全く調べもしないで理研側の発表を鵜呑みにしたからにほかならなかった。そして、「かっぽう着の異彩リケジョ 実験室の壁ピンク/スッポン飼育」などと論文の筆頭執筆者である小保方晴子氏に異様なまでスポットライトを浴びせたのも、誰がそうさせたのではなく、メディア自身が進んでそうしたことだった。「疑惑」の報道も十分な調査や裏付けをもってなされるべきことで、安易に風評的疑惑を広めることに加担すべきではないだろう。

STAP論文「捏造」説に拍車をかけている風評の一つが、万能細胞の一種であるES細胞(胚性幹細胞)が混入したとする「ES細胞混入説」だ。多くのメディアがことあるごとに、しかしさりげなくこの説を紹介し「疑惑」の印象を強化している。たとえば、朝日新聞は3月12日付朝刊で「STAP細胞の存在を疑う声も増えている」として免疫学が専門の慶應大教授の「ES細胞混入説」を紹介。毎日新聞も3月26日朝刊で「STAP細胞の再現実験が研究チーム以外で成功していないことなどからES細胞の混入も疑われている」と書いている。

この疑いに対し、小保方氏は4月9日の記者会見で、研究室内ではES細胞の培養は一切行っておらず、混入は起こりえない状況だったと反論した。小保方氏だけでなく、理研CDBのプロジェクトリーダーで、STAP論文の主要な執筆者の一人である丹羽仁史氏も、4月7日の記者会見で検証実験の計画を発表した際、この「ES細胞混入説」に詳細に反論していたが、ほとんど報じられていない。たとえば、毎日新聞はこの会見を詳報していたにもかかわらわず、丹羽氏の反論は一切伝えず、逆に「研究者からは・・・ES細胞など他の細胞が混入していないか調べるべきだという声も上がる」「ES細胞などの混入が明確になれば、STAP細胞の存在は一層危うくなる」とあえて「疑惑」を強調する解説文を掲載していた。朝日新聞も7日の会見でベタ記事扱いで、丹羽氏の反論には言及しなかった。

ただ、朝日新聞は後日、CDB副センター長の笹井芳樹氏への単独取材を報じた際、「ES細胞混入説」への反論を紹介。笹井氏がES細胞からつくれない組織がSTAP細胞では作れたことなどをあげ、「他の万能細胞を混ぜても、一つの塊にならない。実験をやったことのない人の机上の考えだ」「ES細胞では説明のできないことが多すぎる」と反論したことを報道。丹羽氏も7日の会見でマウスの実験でES細胞からはできないはずの組織ができたことを顕微鏡で見て確かめたと説明したことを報じている(11日付朝刊)。

□毎日新聞4月8日付朝刊=丹羽氏の会見を詳報したが、「ES細胞混入説」への反論を全く紹介していなかった

毎日新聞2014年4月8日付朝刊25面

毎日新聞2014年4月8日付朝刊25面

丹羽氏は7日、相沢慎一特別顧問ともに開いた検証実験計画の発表会見の冒頭で、「ES細胞混入説」への反論を詳細に説明していたが、どのメディアもほとんど伝えていなかった。この会見は記者クラブ加盟社限定で行われたが、インターネット上で会見時の音声データ(テレビ局が放送した会見映像の一部の音声や、理化学研究所ホームページで公表されている発表資料と照合し、本物と判断)が見つかったので、該当部分を紹介することには意義があると考え、文字起こしをして掲載する。ただし、私はこの説明の科学的正当性を保証できるものではないし、いうまでもなく、「ES細胞混入説」が否定されたとしても、STAP細胞の存在が証明されたことになるものではない。丹羽氏は会見で「STAP細胞は仮説に戻った」「STAP細胞が存在するかどうかを一から検証する」と語っている(相沢氏も検証実験はES細胞が混入したかどうかを検証するものではないと述べている)。真相解明はこれからであり、性急に結論を急ぐべきではなかろう。

丹羽仁史氏=2014年4月7日の記者会見(TBS NEWSiの静止画像より)

STAP細胞研究の検証実験について説明する理化学研究所の丹羽仁史氏=2014年4月7日の記者会見(TBS NEWSiの静止画像より)

■理研CDB丹羽仁史氏記者会見(2014年4月7日) 〔音声データ〕 ※4:40~

 実は、これまでに各方面から、STAP細胞あるいはSTAP幹細胞に関しまして単純にES細胞を混ぜればそういう現象は作り出せるのではないかという疑義もあったわけです。
 しかし、私は1989年以来、かれこれ25年ES細胞研究をしておりますが、私の知る限りにおきましてはES細胞はこのように、基本、胚盤胞に注入しますと胎児にしか寄与しません。で、ここでうっすらと見えているのは胎児側の胎盤であって、決してこれを超えて胎盤側に寄与することはありません。
 で、これ胎盤への寄与がES細胞由来の細胞で認められるのは、例えば人為的操作でこれを胎盤系の幹細胞に変換したとき、変換し注入した時に限るということを、実は私自身が2005年に報告しております。で、この実験において、この中間過程すなわち胎児にも胎盤にもなりうる細胞というものは、私の手によっては少なくとも確認できておりません。
 ただ、そのような細胞が今日において全く存在しないかと言いますと、これまで私の知る限り2例の報告があります。1例目はES細胞に含まれる約2%の亜集団これを遺伝子マーカーを使用して識別して回収しますと、胚盤胞注入後胎児胎盤に寄与すると。しかし、この方法では、遺伝子マーカーの使用なしにはこの集団は回収できず、また回収された集団を安定にシャーレ内で維持することができるという報告も存在しておりません。
 また、もう1例は特殊な環境で誘導したiPS細胞を胚盤胞に注入すると胎児胎盤に寄与すると。これは間違いなく両者に寄与するということが報告されておりますが、この報告は2013年10月の報告であり、極めて最近の報告です。
 我々はもちろんこの両者に関してまだ自らの手でこれを検証したことはなく、その材料も残念ながら持ち合わせておりません。
このように考えますと、胎児胎盤に寄与するという一点だけでも、なかなか既存の知見をもってそれを完全に説明することは難しい。とするとSTAP現象というのもそれを説明する一つの仮説としては検証されるべきものと考えます。
 で、論文に記載されたこれがSTAP細胞作製の手順、この手順、もちろん我々もすでに何度も試みておりますが、確かに極めて単純。単純ではあるのですがこの一連の操作、脾臓から細胞を分取しこれを酸処理して培養に移すまでで現時点で一時間半から二時間、これが熟練の度合いによってどう変わるのかは、現在検討中の課題であります。

STAP現象の検証の実施について (理化学研究所 2014/4/7)
▽丹羽氏が会見で「ES細胞混入説」への反論を説明する際に使用したとみられる資料

理化学研究所「STAP現象の検証の実施について」(2014年4月7日)より一部抜粋

理化学研究所「STAP現象の検証の実施について」(2014年4月7日)より一部抜粋


理化学研究所「STAP現象の検証の実施について」(2014年4月7日)より一部抜粋

理化学研究所「STAP現象の検証の実施について」(2014年4月7日)より一部抜粋

STAP細胞巡る問題、論文の共著者が謝罪 (TBS NEWSi 2014/4/7)

■小保方晴子氏記者会見(2014年4月9日)

Q.小保方さんもご存知だとも思うんですけれども、STAP細胞ではなくてES細胞が混入したんではないか、という指摘がございます。その点について反論いただきたいんですけれども。実験室の状況であったり、ES細胞が混入するのをどのように防いでいたのかという点からと、STAP細胞で行った実験による結果から、科学的な結果があらわれているからES細胞ではないと言えるのかという点についてお願いします。
A.まず最初STAP細胞を作成していたころ、研究室内ではES細胞の培養は一切行っていない状況でSTAP細胞の研究は行われていました。ですからES細胞のコンタミ(引用注:異物汚染)ということが起こりえない状況を確保しておりました。
 STAP細胞がSTAP細胞であるという科学的な証拠がどのような風に考えているかの点ですが、まずライブスルーイメージングで光ってないものがオプト4陽性になってくる。そしてその光が自家蛍光でないことも確認しております。そしてそのできてきたオプト4の陽性が胎児側と胎盤側、両方にコントリビューションするという科学的な特徴を持っていること。またES細胞とは異なり、培養中、培養環境を変えない限り、増殖機能が非常に低いこと。そうした特徴を持っているので,その辺がSTAP細胞の科学的な特徴であるかと認識しております。
Q.つまりES細胞のコンタミはないと言い切れると。
A.小保方:はい。


《追記》2014/4/19 07:00

STAP論文の共同執筆者であるCDBの笹井芳樹副センター長が4月16日、論文の問題が浮上してから初めてとなる記者会見を開いた。その中で、「STAP現象を前提にしないと容易に説明できないデータがある」と指摘。7日の丹羽氏の会見と同様、一部報道で流布されてきた「ES細胞混入説」にも反論した。参考までに、該当部分を引用しておきたい。

■笹井芳樹氏記者会見(2014年4月16日) 〔会見時資料

〔動画冒頭編27:30~〕
STAP現象を前提としないと容易に説明できない部分のいくつかの例といたしましては、ライブセルイメージングのデータ、これは顕微鏡ムービーのものでございます。二つ目はSTAP細胞の持つ特徴のある細胞性質、三つ目は胚盤胞への細胞注入実験、いわゆるキメラマウス実験の結果の結果でございます。これらにつきましては仮説を検証する際に反証仮説、反仮説を考えてそれらを、それを比較するというのが科学的な進め方でございますが、反証仮説としてのES細胞などの混入、あるいは自家蛍光によるアーティファクトということだけではでは説明するのが困難であると考えております。

笹井芳樹氏作成の説明資料1(2014年4月16日)

笹井芳樹氏作成の説明資料(1)

〔動画冒頭編29:40~〕
 二枚目の資料をご覧いただけたらと存じます。STAP現象を前提としないと容易に説明できないデータがあるという表現させていただいたものの例でございます。細かいものを申しますと非常に多岐にわたりますが、大きくここでは三つのカテゴリーについてお話させていただきます。
Aとしましては、ライブセルイメージングです。
…(中略)…
 二つ目は特徴のある細胞性質です。STAP細胞は非常に小さな細胞でありまして、リンパ球、幼弱なリンパ球やES細胞などは一般に小さな細胞と考えられますが、そのさらに半分程度の直径の小さな特殊な細胞です。これは電子顕微鏡写真を左にもつけておりますが、ES細胞と比べてもさらに小さな、核も小さく細胞質もほとんどない、特殊な細胞であることがわかります。また遺伝子発現のパターンの詳細解析、これの場合もSTAP細胞はES細胞や他の幹細胞とは一致しないパターンを示します。共通の部分もありますが、共通でない部分も統計的に明らかに出ておりまして、そうしたものを考えますと、ES細胞やほかの細胞の混入で説明ができないパターンとなっています。
 三つ目には、ES細胞は非常に増殖能が高く、分散培養すなわちばらばらにして一個一個の細胞から培養することが可能でありますが、STAP細胞は増殖力が低く、分散してしまいますと死んで増えません。ですから、もしもそういったものを混ぜていればES細胞のような増え方をするはずでございます。

笹井芳樹氏作成の説明資料2(2014年4月16日)

笹井芳樹氏作成の説明資料(2)

 次に、ES細胞などを代わりに打ち込んだ時にどうなるかということですが、その場合は、7日の丹羽プロジェクトリーダーの会見の説明にもありましたように、胎仔、胎盤、そして卵黄膜内胚葉に同時に貢献する細胞がそれらに変わっていくという現象は起こりません。もしもES細胞とTS細胞を同時に混入したとしても卵黄膜内胚葉への貢献を同時には見れません。など、ここではつじつまがあいません。
 さらに移植するときは、ばらばらの細胞を移植してもキメラはできませんで、これは若山さんがおっしゃっているように、この細胞塊を固めたかたちで移植する必要がありますが、ES細胞とTS細胞を混ぜたとしても、これも丹羽プロジェクトリーダーが7日の会見で説明されたように、その細胞はひとつの塊を作ることなくばらばらの塊を作ってしまいます。
 ですから、これらの現象から、この移植されたものがTS細胞、ES細胞あるいはその混在物、あるいはほかの多能性を持つマウス由来の細胞である内部細胞塊やそれよりさらに大きなサイズである桑実胚の細胞などと考えるのは非常に考えにくいということでございます。

 以上をまとめますと、一個人の人為的操作が困難であるような確度の高い、すなわち確実度の高いデータのみを見ましても、それらはいまご説明したようなものでありますけれども、
 1、Oct4‐GFPという発現しない脾臓の血球系細胞からOct‐GFPを発現するその他の細胞では説明できないような、他の細胞では知られていない形質を持った小型細胞塊、小型細胞の細胞塊ができるということ。
 2、胚盤胞へ注入された細胞の貢献は、ES細胞やTS細胞では説明できない特別な多能性の表現形を示し、それらは内部細胞塊や桑実胚の細胞を移植したということでも非常に考えにくいということでございます。
 ですから、この1と2を統一的に考えた場合、STAP現象は現在もっとも合理的な仮説として説明できるのではないかと思っています。
しかし、仮説には常に反証仮説が立てられ、それをきちんと吟味していくのが科学の常道でございます。ですから現在思いつかない反証仮説が出てくる可能性もございます。
 ですから、今後の理研でのSTAP現象の確実な立証には、1、2の現象を連続的におこなうこと、つまり1だけとか2だけでもなく、1、2を連続的、統一的に行い、それを客観性が担保された状況で第三者の研究者が実証することが非常に重要であると考えております。


(*) 丹羽氏会見の文字起こしの中で「自火傾向」は「自家蛍光」の誤記でしたので、訂正しました。(2014/4/17 23:15)

※この記事は執筆者個人の見解であり、日本報道検証機構その他団体を代表するものではありません。

楊井 人文(やない ひとふみ)
日本報道検証機構代表理事。産経新聞記者を経て、弁護士。