東北大入試が遅れた原因 「付添い親」説に異議あり

2014年3月12日

▼東北大学の入試会場に向かうバスに混乱が生じ、試験開始が遅れた。この混乱の原因が保護者にあるかのような報道は、読者に大きな波紋を呼び起こした。しかし、調査を進めると、報道とは異なる事実がいくつも浮かび上がってきた。(新家 竜介)

大学の受験シーズンが本番を迎えた2月25日、東北大学(宮城県仙台市)で前期入学試験が実施された。ところが試験開始直前の9時40分頃、大学は仙台駅バス乗り場の混乱を理由に、10時開始の外国語試験を30分遅らせると発表。

この混乱の内容は、複数のメディアによって「9時半頃になっても受験生300人がバス乗り場にいた」などと報道された。一見地味なローカルニュースだが、混乱の原因が保護者にあるかのように報じられたために、非常に大きな反響を呼んだ。

現場では実際に何が起こっていたのか。調査を進めるにしたがって、報道とは異なる事実がいくつも明らかになってきた。

1. 「生協の保護者向け説明会で保護者が増えた」のウソ

一連の報道の嚆矢となったのは、2月25日に放送されたTBS(出稿はTBS系列のTBC東北放送)のニュース。バスの運行を担当した仙台市交通局のコメントを引用しつつ、受験生がバスに乗り遅れた原因として「大学生協が保護者向けの説明会を開いたこともあり、保護者が増えたものとみられ」ると伝えた。

東北大入試が遅れる、原因は付き添う保護者の増加?(TBS News i 2014/2/25 17:18)

TBS News i「東北大入試が遅れる、原因は付き添う保護者の増加?」2013年2月25日

TBS News i 2014年2月25日17時18分掲載

確かに、試験当日の東北大学では、TBSが挙げた「説明会」のほか、「お部屋相談会」や「地域見学バスツアー」といった保護者向けのイベントが開催されていた。会場となったのは、件のバスが向かう川内キャンパス。多くの保護者がバスを利用したこと自体は事実だろう。

しかし、これが今回の混乱の原因というわけではなさそうだ。東北大生協によれば、「こうした保護者向けイベントが試験当日に開催されるのは、今年に限ったことではない。保護者向け説明会にいたっては20年以上も前から開催されており、今年の参加者数が例年より特に多かった印象もない」というのだ。

とすれば、「保護者向け説明会の開催で保護者が増えた」とするTBSの報道は、事実に反するものと言うほかない。

2. 「バスに乗る保護者が増えた」への疑問

そもそも、保護者が増えたために受験生がバスに乗り遅れたこと自体は本当なのだろうか。また、それは誰の見解なのだろうか。TBSの報道は、見出しに「?」と疑問符がつけられている上、本文も「その要因は受験生に付き添う親が増えたためというのです」と伝聞調にされており、肝心な原因部分の記述が曖昧だ。

日本報道検証機構の取材に対し、仙台市交通局の担当者は、例年より保護者が多かったという現場関係者の認識自体に間違いはないと回答した。しかし、混乱が起きた原因はそれだけでなく、例年より遅い時間帯に利用客のピークが来たことなど、いくつかの要因が複合したものと考えているという。

とすれば、混乱の原因として単純に保護者増加だけを挙げたのは、TBS独自の見解によるもので、仙台市交通局の見解ではないということになりそうだ。それでは、TBSは、どのような経緯で保護者の増加から混乱が生じたと考えるのか。この点、報道では混乱を生じさせた詳しい事情が全くわからないのである。

なお、交通局の「保護者が増えた」とする分析にも、疑問の余地がある。交通局が分析の根拠としているのは、当日の輸送人員や運行便数などをとりまとめた資料である。この資料によると、当日25日の「受験者数」は昨年比で690名減少(*)、輸送人員は昨年比で182名増となっている。交通局は、その差にあたる820名が保護者だと分析していた。

仙台市交通局提供

仙台市交通局提供

くせ者は、資料にある「受験者数」だ。交通局の説明では、これはバスを実際に利用した受験生の数ではなく、このバスが利用可能な出願者数を合計したものだという。実際には、従来よりバスを利用した受験生が増えた可能性もあるし、受験生・保護者以外の一般利用者が増えた可能性も否定できない。

3.「臨時バスに保護者が同乗」のウソ

TBSの報道で曖昧にされた経緯をハッキリ報じたのが2月26日付朝日新聞。混乱の原因として、受験生用の臨時バスに一緒に乗る父母が増えたことを強調した。

東北大2次試験、バス満員受験生乗れず 同行の親増加で (朝日新聞デジタル 2014/2/26 05:22)

朝日新聞2014年2月26日付朝刊(宮城版)

朝日新聞2014年2月26日付朝刊(宮城版)

確かに、保護者が受験生用のバスに乗ったのが事実なら、押し出される格好で後に来た受験生が乗り遅れるのは当然といえるだろう。紙面版と同内容の電子版記事が公開されると、インターネット上では「過保護な親」に対する批判が巻き起こった。記事の関連ツイート数は約4800件、Facebookおすすめ数は約7000件にも上る(3月10日正午現在)。

しかし、これは俄には信じがたい報道である。そんな状況を多くの保護者が疑問に思わなかったのか、そして仙台市交通局や大学関係者すらそうした状況を放置していたということとなのか。はたして、本当に受験生と一緒にバスに乗る保護者は増えていたのだろうか。

まず、交通局によると、従来から臨時バスは受験生専用として扱っており、乗車に余裕のある早い時間帯乗をのぞけば、そもそも同伴者を同乗させてはいないという。受験生の案内・誘導にあたった東北大生協も、臨時バスは受験生専用と認識しており、その他の乗客は定期運行バスへ誘導していたと話す。

また、朝日新聞は、あたかも「受験生と同乗する父母が例年より増えた」というのが交通局の見解であるかのように報じている。しかし、先に述べた通り、交通局は単に「保護者が増えた」としているにすぎない。

とすれば、受験生と同乗する保護者はほとんどいなかったと考えるのが自然ではないか。逆に臨時バスに同乗する保護者が増えたという根拠はまったく明らかでない。「同乗する保護者が増えた」とする朝日新聞の報道は、誤報の可能性が極めて高いといえるだろう。

4.「ピークの重なり」への疑問

TBSと朝日新聞の報道は、いずれも混乱の原因を「保護者の増加」に求める点で一致している。これとは全く異なる原因を提示したのが、2月27日付の河北新報である。

東北大入試時間繰り下げ 2要因重なりバス混雑 (河北新報 ONLINE NEWS 2014/2/27)

河北新報2014年2月27日付朝刊29面

河北新報2014年2月27日付朝刊29面

同紙は2つの重要な事実を明らかにしている。バスには東北大だけでなく宮城教育大の受験生も乗車していたことと、教育大の試験開始が東北大の1時間後に予定されていたことだ。このあたりは、河北新報がローカルメディアならではの強みをみせたともいえそうだ。

とはいえ、残念ながらこの記事にも疑問の余地が残されている。「受験生の乗車ピークが重なり、乗り遅れが続出した」と結論づけている点だ。

まず、記事は、当日は天候に恵まれていたため東北大の受験生の出足が遅かったと伝えているが、事情は教育大の受験生でも同じはずだ。両者の出足がそろって遅ければ、試験開始が1時間異なる以上、ピークは分散するのではないか。それがなぜピークの重なりにつながるのかが、まったく読み取れない。

また、本当にピークが重なっていたとしても、その状況は例年と変わらないはずだ。例年も試験開始は東北大・教育大ともに10時だったのだから、受験生の乗車ピークは重複していたと考えられる。にもかかわらず、なぜ今回に限って混乱が生じたのかが、記事ではうまく説明できていないのである。

5. 試験に遅れそうになったのは「300名」ではない

結局、なぜ東北大の試験開始は遅れたのか。順を追って考えてみよう。その直接の原因である現場の混乱について、各メディアは次のように説明していた。

東北大学では…バスに乗り切れず、多くの受験生が試験開始に間に合わなくなった(TBS 2014年2月25日)

午前9時半頃になっても、仙台駅では300人ほどの学生らが東北大行きのバスを待っている状況(朝日新聞 2014年2月26日付)

東北大は、バスで会場入りする受験生約300人が試験開始に間に合わなかったとして(河北新報 2014年2月26日付)

国公立2次試験 東北17校、1万9570人挑む(河北新報 ONLINE NEWS 2014/2/26)

仙台駅のバス乗り場から東北大の各試験会場までの所要時間は最大25分ほど。したがって、試験開始の10時に間に合うかどうかのデッドラインは9時35分頃だった。同じ頃、バス乗り場に300名ほどの乗客が列をなしていた、というところまでは確かなようだ。しかし、問題はその後である。

実は、その300名のうち何名が東北大の受験生なのか、正確なところは現場関係者の誰にも判断できていなかったのである。河北新報が報じたように、東北大の受験生と教育大の受験生が、同じ時間帯に同じ臨時バスを利用していたからだ。

事実、東北大の担当者は次のように語る。「具体的に数字を得ていたわけではないのだが、念のため試験の開始を遅らせることにした。300人すべてが東北大受験者と考えていたわけではないが、受験会場の出席状況から100人程度は該当するかもという考えはあった。」

この見解は、交通局の見方とも概ね一致する。「9時半過ぎの時点で乗り場に300人ほどの待ちがあったのは事実。データの裏付けはないが、受験生の制服などから、このうちかなりの部分、印象としては8割程度が教育大受験者だったのではないかと思う。」

つまり、東北大が試験開始を遅らせた要因になったのは、バスを待機していた300名すべてではなく、数十名程度だったとみられる。各メディアは、こうした状況を正しく認識しないまま報道したため、読者のミスリードを誘ってしまったのではないか。

6. はたして受験生が乗り遅れた原因は…

バスに乗り遅れた東北大受験生が数十名だったとして、その原因は何だったのだろうか。

交通局は、複数の原因を指摘する。「『出足が遅かった』というのはちょっと違って、早い時間帯の乗客数は例年と変わらなかった。むしろ、遅い時間帯に乗客のピークが来たのが大きい。輸送人員が昨年より増えたことも重なって、受験生の乗り遅れが生じたのではないか。」

輸送人員が増加したこと自体は、先に引用した交通局の資料から明らかなようだ。交通局の説明によれば、「受験者数」とは異なり、輸送人員は現場係員がバス乗り場で実際にカウントしたものだという。

では、乗車ピークの時間帯が遅くなったのは事実なのだろうか。当時の現場の状況がよくわかるのが、東北大生協の学生委員「おおわん」の東北大受験生・新入生向けTwitterアカウント。一昨年から、試験当日のバス乗り場の状況などをリアルタイムでツイートしている。それによれば、昨年は8時25分頃、今年は8時34分頃には乗車ピークが来ていたとみられる。

東北大学生協学生委員の東北大受験生・新入生向けツイッターアカウント

ここは非常に重要なポイントだ。実は、昨年の東北大前期試験は、雪の影響などでバスの遅延が生じ、開始が1時間も繰り下げられていた。今年は、そうした雪の影響などがないにも関わらず、昨年より更に遅い時間帯に乗車ピークが来ていたのである。

これに対して、試験が予定通りに開始された一昨年のツイートを見ると、乗車ピークが8時前に来ていたことが分かる。しかも、このときの最後尾は「ロフト前」、今年のツイートで「600人程の受験生」とされた程度の地点だったのだから、昨年・今年の行列は、一昨年の行列に比べてかなり長いものだったと言えるだろう(**)。

東北大学生協学生委員の東北大受験生・新入生向けツイッターアカウント

これらの情報を総合すると、今年の乗車ピークは例年より30分以上、昨年に比べても10分以上は遅かったとみられる。

このバスが利用可能だった東北大受験生は4000人程度、教育大受験生は500人程度とされる。また、試験開始には1時間のズレがあるから、教育大受験生の乗車ピークは東北大受験生のそれより後に来ると考えられる。とすると、8時半頃のピーク時にバス乗り場にいた乗客の大半は東北大受験生だったといえるだろう。

したがって、今回の試験開始が遅れた原因は、東北大受験生の乗車が例年より後のタイミングに集中したことにあるのではないか。つまり、例年より遅い時間に例年より多くの受験生がバスを利用しようとしたため、結果的に臨時バスの輸送が追いつかず、受験生が乗り遅れた、というのが実際のところではなかったか。

「保護者の増加」(TBS)、「同乗する父母」(朝日新聞)、ないし「ピークの重なり」(河北新報)といった事実は、いずれも認められなかった。あえていえば、河北新報がひとつの要因として挙げた受験生の「出足の遅れ」が、もっとも真相に近い見方ではないだろうか(***)。

今回の混乱の教訓は、時間にゆとりをもちつつ、落ち着いて行動すること。そうした行動は、大学受験生に限らず、時には報道関係者にも、そして情報の受け手である我々にも求められると言えそうだ。

(*) この資料の「受験者数」には誤りがある。本機構の調査では、25日の正しい受験者数(東北大+宮教大)は、25年5,152人、26年4,616人、増減▲536人とみられる。なお、本文中でも述べた通り、ここでいう受験者数とは、バス利用が可能な学部の出願者数の合計である。バス利用が可能な学部を受験した者の合計では▲493人となるが、いずれにせよ実際にバスを利用した受験生の数は不明である。以上は、仙台市交通局側の数字を東北大学側の数字と突き合わせた結果、判明した。
(**) 前掲、東北大学生協学生委員の東北大受験生・新入生向けツイッターアカウントからのツイート https://twitter.com/o1_fre/status/173726651069366273 によれば、一昨年の試験の際は、例年に比べて3倍の臨時バスが用意されたという。こうした運行体制に昨年・一昨年で変化があったかどうかは、仙台市交通局への取材では確認できなかった。
(***) ただし、先に本文で述べた通り、出足が遅れたのは東北大受験生だけではなく、教育大受験生も同じだったと思われる。とすれば、全体としては乗車ピークは2つに分散したはずで、実際、交通局も現場関係者に同様の印象があったと述べている。しかし、そのピーク分散の効果が発揮されたのが、東北大の試験開始時間より後だったのではないだろうか。


※この記事は執筆者個人の見解であり、日本報道検証機構その他団体を代表するものではありません。

新家 竜介(しんや りゅうすけ)
日本報道検証機構理事・事務局長。論理的な思考やコミュニケーションに関する教育研修・教育コンサルティングを専門とするロジカ有限会社代表取締役。