「内閣情報局新設へ」 16年前も書きっ放し

2013年11月10日

▼朝日新聞が内閣情報調査室を改編し「内閣情報局新設へ」と1面トップで報じた。しかし今国会では法案化されておらず、全く続報がない。「案」自体は16年前にもあった。(楊井 人文)

朝日新聞は8月30日付朝刊1面トップで、「内閣情報局新設へ」と見出しをつけ、安倍政権が国家安全保障会議(日本版NSC)設置にあわせ、内閣情報調査室(内調)を衣替えして内閣情報局を新設する案を検討していると報じた。内閣情報官を現行の1人から3人に増やし、トップに「内閣情報監」に任命するなどと伝えるとともに、3面に「内閣情報局 活動、不透明さ残る」と題する論評も掲載した。

朝日新聞2013年8月30日付朝刊1面トップ

朝日新聞2013年8月30日付朝刊1面トップ

しかし、10月15日に召集された臨時国会には、NSCを設置するための法案(*)は提出されているものの、内閣情報局の設置のための法案は提出されていない。内閣官房に確認したところ、今国会で内調の組織改編を盛り込んだ法案は提出されておらず、組織改編や内閣情報官の増員といった予定もないという。

8月30日付記事は、あくまで「見直し案の概要」を伝えたものだった。とはいえ、1面トップで「内閣情報局新設へ」と打ち、見出しに「検討」や「見直し案」の文字はない。丁寧に「NSC設置で官邸はこう変わる」という図まで載せ、「国会安全保障会議(新設)」と「内閣情報局(新設)」を併記。本文中でも、安倍政権はNSC設置法を秋の臨時国会で成立させ、来年1月に発足させるのに伴い、内閣情報局設置も進めるとみられると解説している。これを普通に読めば、日本版NSC設置と内閣情報局設置が同時並行で進められ、実現するかのように印象づけられよう。

朝日新聞2013年8月30日付朝刊1面に掲載された図

朝日新聞2013年8月30日付朝刊1面に掲載された図

「内閣情報局」案は、この前にも後にも他紙は全く報じていない。朝日の「単独スクープ」の様相だった。しかし、記事が朝刊に載った8月30日、菅義偉官房長官は会見で「政府全体の情報収集能力の向上を図っていくことが極めて大事」としつつ、「何らかの組織の改編や設置を決めたという事実はありません」と否定。朝日新聞はその後、官房長官のコメントも含め、全く続報を出していない。

調べてみると、内閣情報調査室を改め「内閣情報局」を設置する構想は、16年前の橋本政権下でも浮上していた。読売新聞が1997(平成9)年3月31日付朝刊1面で、政府が「内閣情報局」設置を本格的に検討していると報道。当時、中央省庁再編の「行政改革」が推進され、有識者からなる「行政改革会議」でも、一時期「内閣情報局」設置案が盛り込まれていたし(**)(***)、ほぼ同時期に自民党の小委員会からも同様の案が出ていた。しかし、この案は「行政改革会議」の最終報告から消えていた。「内閣情報局」案が主要紙に報じられたのは、この1997年以来のことなのだ。

日本も独自の情報収集機関をもつべきだという議論は以前からあった。内閣情報局「案」自体は水面下で存続していても、何ら不思議ではない。「案」は所詮「案」でしかない。政府として法案化の方針を決めたのならともかく、「見直し案」レベルの話がなぜ1面トップで報じられたのか。法案化の確証があったのか。あれだけ仰々しく報じたのだから、今国会で法案化されなかった事実や背景事情を伝えるべきではないか。16年前に同様の案を報じた読売新聞も、案が消えた事実も理由もフォローせず、書きっ放しだったのだが。

(*) 正式名称は「安全保障会議設置法等の一部を改正する法律案」。2013年6月7日、第183回通常国会に提出され、11月7日、第185回臨時国会の衆議院本会議で可決(参議院に送付)。
(**) 行政改革会議の「中間整理」について(1997(平成9)年5月1日)
(***) 読売新聞は1997年6月3日付連載記事で、「内閣情報局」案を提案したのは、行政改革会議の猪口邦子委員(当時上智大教授、現在参議院議員)と伝えている。

※この記事は執筆者個人の見解であり、日本報道検証機構その他団体を代表するものではありません。

楊井 人文(やない ひとふみ)
日本報道検証機構代表理事。産経新聞記者を経て、弁護士。