「誤りを訂正する良い見本を示した」朝日新聞

2013年10月20日

▼原発事故での放射性物質流出の外洋への影響に関する試算について、朝日新聞が訂正記事とともに研究報告した本人へのインタビュー記事を掲載した。この事後対応は「誤りを訂正する良い見本を示した」といえよう。(楊井 人文)


朝日新聞が10月17日付朝刊の科学面に訂正記事を掲載した。訂正があったのは、安倍首相が福島第一原発を視察し、汚染水の影響が港湾内で完全にブロックされていると述べたことについて詳しく検証した、9月20日付朝刊の記事。2面をほぼ全て使い、「実態なき『ブロック』」「外洋で薄まり不検出/フェンスを出入り」と大きく見出しをつけていた。その中で、汚染水の外洋への影響について、気象庁気象研究所の青山道夫主任研究官の試算結果を解説した部分に誤りがあり、訂正された。

朝日新聞2013年10月17日付朝刊22面

朝日新聞2013年10月17日付朝刊22面

誤報の詳しい内容は、既出の【注意報】原発汚染水放出の調査報告 研究者が誤報指摘を参照されたいが、記事が取り上げた青山氏の試算は、ウィーンで開かれた国際原子力機関(IAEA)科学フォーラムで報告されたものだった。ところが、青山氏は、この研究報告について、朝日新聞の記者から全く取材を受けていなかったという。この点について、訂正記事は、「青山氏の試算について本人への確認取材をしていませんでした」と率直に認めた。このように訂正記事の中で、誤報の原因や取材の問題点に言及するのは非常に珍しい。

朝日新聞2013年9月20日付朝刊2面(原報道)

朝日新聞2013年9月20日付朝刊2面(原報道)。青山氏の試算については、左上段の記事で取り上げられていた。

メディアが訂正記事を出すとき、警察や行政の発表に誤りがあった場合や、通信社の誤った配信を転載したような場合は、その旨を明らかにすることがある。大誤報を出した場合も、検証記事で問題点を説明することがある。が、本サイトで収録している訂正記事を一覧すればわかるとおり、そうした例は稀であり、取材源に誤りがあったのか、記者の思い違いなのか、判然としない訂正記事がほとんどだ。今回のケースも、訂正記事で確認取材を怠ったことを明らかにしていなければ、青山氏の研究発表か記者への説明に誤りがあったかのような印象が残ったかもしれない。最後の短い一文があったおかげで、そうした懸念は完全に払しょくされた。メディアの本来あるべき姿であり、高く評価したい。

朝日新聞2013年10月17日付朝刊22面

朝日新聞2013年10月17日付朝刊22面

今回もうひとつ注目に値するのが、訂正記事と一緒に青山氏へのインタビューを大きな扱いで掲載したことだ。「外洋は事故前の濃度に」と見出しをつけ、福島原発事故による外洋への放射性物質(セシウム137)の放出量が、核実験の影響で1970年頃に残っていた量の2割程度にとどまることなどをわかりやすく伝えていた。こうした青山氏の指摘は、安倍首相の「ブロック」発言が実態と乖離しているという視点から報じていた9月20日付記事では全く伝えていなかったものだ。朝日新聞の科学部としては訂正記事だけで済ませることもできただろうが、大変良い判断をしたと思う。このインタビュー記事を載せるのと載せないのとでは、読者に与える印象はまるで異なっただろう。記事の分量に制約がある中、青山氏は「分量にしては正確に報じられている」と話していた。

朝日新聞記者が青山氏に訂正のための取材に訪れたのが、記事掲載から2週間後。訂正記事が掲載されたのはそれからさらに約2週間後。もう少し迅速に対応できなかったのかとも思うが、それでも青山氏は、朝日新聞の今回の事後対応についてこう評価している――「誤りを訂正する良い見本を示した」。その通りだと、私も思う。

※この記事は執筆者個人の見解であり、日本報道検証機構その他団体を代表するものではありません。

楊井 人文(やない ひとふみ)
日本報道検証機構代表理事。産経新聞記者を経て、弁護士。