職務発明の特許「無条件で会社のもの」は誤解招く表現

2014年9月9日注意報一覧メディア:ジャンル:, ,

▼特許庁が特許法を改正して職務発明の特許を無条件で会社に帰属させ、報奨金制度も導入しない方針を固めたかのように朝日新聞が報じたが、実際は報奨金制度の法律的な義務づけは必要との立場を示している。

【朝日】 2014/9/8朝刊1面「特許 無条件で会社のもの 社員の発明 政府、方針固める 『十分な報奨金』の条件外す」、6面「研究者 海外流出の恐れ 特許は会社に 政府、経済界に譲歩」

《注意報1》2014/9/9 08:30


《注意報1》2014/9/9 08:30

朝日新聞は9月3日付朝刊1面で「特許 無条件で会社のもの 社員の発明 政府、方針固める」と見出しをつけ、政府が特許法を改正し、社員が仕事で発明した特許を無条件で「会社のもの」とする方針を固めたと報じた。特許庁では、特許を一律に会社に帰属させるのにあわせて、報奨金のルールを法律で定める仕組みの導入も検討されている。ところが、記事は、政府が報奨金の制度的な手当てをせずに、もっぱら特許を会社に帰属させるために法改正を進めるかのような誤った印象を与えるおそれがある。

朝日新聞2014年9月3日付朝刊1面

朝日新聞2014年9月3日付朝刊1面

特許庁は「特許制度小委員会」を設けて職務発明制度の抜本的見直しを検討している。朝日新聞は、9月3日の第8回会合の前に「無条件で会社のもの」とする「新方針」を報道。「『十分な報奨金』の条件外す」「十分な報奨金を社員に支払うことを条件とする方向だったが、経済界の強い意向を踏まえ、こうした条件もなくす」と伝えた。

しかし、小委員会事務局によると、第8回会合の冒頭、中野剛志制度審議室長が朝日新聞で報道されたような方針を固めた事実はないと否定した。事務局はその日に出した説明資料で、原始的に会社に帰属させて会社の自主性にのみ委ねると、発明へのインセンティブが確保されなくなると指摘。発明の奨励という特許法の目的にかんがみ、社員のインセンティブ施策について発明者の保護のため一定の規制を及ぼす必要性があるのではないかとも言及していた。これを受け、経団連から派遣されている和田映一委員ら経済界メンバーも、報奨金制度の法定に賛同する意見を表明した。このことから、特許庁は、特許を会社に帰属させる案を採用するのであれば、何らかのインセンティブ(報奨金)の制度的手当てが必要との立場とみられる。

第8回特許制度小委員会 配布資料 (特許庁 特許制度小委員会 2014/9/3)
※資料1「職務発明制度の見直しに係る具体的な制度案の検討上の論点」の論点③に、発明者の保護のための規制への言及がある。

ただ、朝日新聞社は当機構の取材に対し、「記事は確かな取材に基づいており、誤りがあるとは考えていません。従って、訂正の予定はありません」と回答。記事を書いた記者本人も8日、ツイッターで、誤報ではないかとの指摘を念頭に「誤報」ではないとの認識を示し、「無条件」という表現は特許を受ける権利を「すべて一律に最初から『会社のもの』になる」という意味で用いたにすぎず、報酬について法的な規定がなくなるという意味で用いたわけではないと説明した。「方針を固めた」と報じた部分が否定された点も、記者は「複数の政府幹部や小委員会関係者らへの取材から、方針を固めていると判断しました」と反論している。同紙は5日付朝刊で、同じ記者の署名入り記事で「特許の報酬 義務化も検討 社員の発明 待遇悪化防ぐ」と見出しをつけ、特許庁が法律などで報酬の仕組みづくりを行う方針であることを続報した。

小委員会の公表資料や事務局担当者の話によると、6月18日の第7回会合までは、現行法どおり職務発明の特許を受ける権利を原始的に社員に帰属させつつ、一定の場合に限って会社に帰属させる「特例」を設ける改正案を議論。9月3日の第8回会合で、6月に示された改正の方向性を踏まえ、事務局が具体案を出す予定だった。しかし、事務局はこの日の会合で、特許を受ける権利を会社に原始的に帰属させる案を念頭においた新たな論点を提示。次回会合で、この方向性に従った具体案が示される見通しになったという。

朝日新聞の3日付記事の本文には、6月で議論された改正方針からの「方針転換」を強調した部分や、「改正案では、社員の待遇が悪くならない規定を設ける」との記述もある。これに着目すれば、見出しやリードで用いられた「無条件で会社のもの」という表現は、6月まで議論されていた「特例で会社に帰属させる仕組み」をなくして「一律に原始的に会社に帰属させる仕組み」を採用することを意味していたとも解釈できなくはない。だが、記事では「会社に有利な制度に改まる」「社員の待遇悪化につながる」といった見解も強調されており、法改正で報奨金制度を導入しないとの誤解を与えた可能性が高い。

記者本人もツイッターで「『無条件』をめぐり頂いた指摘を真摯に受け止め、誤った印象を与えないようにより分かりやすい記事を書く努力をしていきます」と表明している。

■朝日新聞西尾邦明記者の個人ツイッター (2014/9/8)

(*) 西尾記者はツイッターの投稿(特許⑬)を削除している(削除のおわび投稿)。(2014/9/9 11:00)