「独軍55人死亡」 集団的自衛権の事例とミスリード

2014年8月19日注意報一覧メディア:, ジャンル:, テーマ:

▼朝日新聞が集団的自衛権をめぐる海外の事例としてドイツがアフガンで55人の犠牲者を出したと報道。しかし、独軍の犠牲者は集団的自衛権行使によるものではなく、国連安保理の要請で参加した集団安全保障活動で出たものだった。

【朝日】 2014/6/15朝刊1面「集団的自衛権 海外では:後方支援、独軍55人死亡 アフガン戦争 平和貢献のはずが 戦場だった」、同2面「後方支援 安全という幻想」【毎日】 2014/7/5朝刊2面「平和国家の変質(4) 独兵 アフガンで55人死亡 後方任務も戦闘常態化」

《注意報1》2014/8/19 07:00


《注意報1》2014/8/19 07:00

朝日新聞は6月15日付朝刊1面トップで「後方支援、独軍55人死亡」と見出しをつけ、集団的自衛権の海外の事例として、ドイツが2002年以降、アフガニスタンに軍を派遣して犠牲者55人を出したと報じた。その中で取り上げられた独軍の国際治安支援部隊(ISAF)への参加は、集団的自衛権の行使ではなく、国連安全保障理事会決議に基づき集団安全保障の枠組みで行われたもので、55人の犠牲者もISAFの任務によるものだった。記事は、独軍が2001年から集団的自衛権に基づきアフガニスタンに軍を派遣した事例を説明しておらず、派遣した時期を「02年」としたのも誤りだった。

(集団的自衛権 海外では)後方支援、独軍55人死亡 アフガン戦争 (朝日新聞デジタル 2014/6/15 05:00)

朝日新聞2014年6月15日付朝刊1面トップ

朝日新聞2014年6月15日付朝刊1面トップ

ISAFは、米国同時多発テロ後、米軍主導の軍事作戦でアフガニスタンのタリバン政権を崩壊させたことを受け、同国の治安維持などを目的として設立されたもので、自衛権に基づく武力行使を目的としたものではない。国連安保理が2011年10月2日の決議1386号で、集団安全保障措置について定めた国連憲章第7章に則ってISAF設立を承認し、独軍を含め48カ国が参加している。(*)

見出しなどで強調された「55人」の犠牲者も、集団安全保障の一環で参加したISAFの任務によるものとみられる。独軍の公式サイトには、アフガニスタンでの犠牲者数について、死者数「55」の隣に任務「ISAF」と記されている。

国連安全保障理事会決議1386号〔PDF〕 (国際連合 2011/12/20)
※決議前文の最後に(集団安全保障措置について定めた)国連憲章第7章に則ることが記され、第1項でISAFの設立を承認し、第2項で国連加盟国にISAFへの要員・装備等の提供を要請している。

海外任務での犠牲者 (ドイツ連邦軍)

ドイツ連邦軍の公式サイトより一部抜粋。アフガニスタンの欄にミッション「ISAF(国際治安維持部隊)」、犠牲者数「55」と表記されている。

ドイツ連邦軍の公式サイトより一部抜粋。アフガニスタンの欄(2行目)に任務(ミッション)は「ISAF」(国際治安支援部隊)、犠牲者数は「55(人)」と記されている。

他方、独軍はISAFとは別に、集団的自衛権に基づき、米軍のアフガニスタンでの軍事作戦に参加していたが、朝日新聞の記事では具体的に言及されていなかった。ドイツは、北大西洋条約機構(NATO)が米国同時多発テロについて個別的・集団的自衛権発動の要件に該当すると決議したことを受け、米軍主導の「不朽の自由」作戦(OEF)に陸軍特殊戦団KSKを派遣。偵察・監視作戦「タスクフォースKバー」(2001年10月〜02年3月)やビンラディンとの「トラボラの戦い」(01年12月)などに参加した。したがって、朝日新聞の記事の「アフガンに派遣された02年」という記述も誤りだった。また、独軍公式サイトにはOEFによる犠牲者についての記述は見当たらなかった。(**)

朝日新聞の記事は2面にも展開され、ISAFの事例のほか、コソボ駐留国際治安部隊(KFOR)に参加した独軍が武装集団に襲撃され兵士が負傷した事例も紹介されている。しかし、KFORも1999年6月10日の国連安保理決議1244号に基づいて発足したもので、集団的自衛権の行使とは異なる。ちなみに、独軍のホームページにはコソボでのKFORでの犠牲者数は27人と記されている。

朝日新聞は、安倍政権が集団的自衛権に関する憲法解釈などの見直しを進める中、「集団的自衛権 海外の事例は」と冠した記事を6月中旬から下旬にかけて4回掲載。1回目の記事の冒頭で「集団的自衛権をめぐる海外の事例のうち、ドイツの経緯を追った」と述べた上で、ドイツがアフガニスタンで集団的自衛権を行使したことで多数の犠牲者を生んだかのように報じていた。毎日新聞も、安倍政権が集団的自衛権に関する閣議決定を行った後の7月5日付朝刊で、集団的自衛権を主なテーマにした記事で、独軍がアフガニスタンで55人死亡したことを紹介。この犠牲者が集団的自衛権行使によるものとは明記していないものの、そのような誤解を与えた可能性がある。

シャーピング国防相について (ドイツ連邦軍)

2001年9月11日(米国同時多発テロ)の後、シャーピングは、国際テロリズムに対する『不朽の自由』作戦への連邦軍の参加を確保した。ドイツ軍の任務には、アフガニスタンでのKSKの運用と、アフリカの角周辺での海上交通の監視が含まれた。

「不朽の自由」作戦のタスクフォースに大統領部隊表彰 (米海軍 2004/12/8)
※第2段落に「カナダ、ノルウェー、デンマーク、ドイツ、豪州、ニュージーランド、トルコの特殊部隊」と記載されている。
不朽の自由作戦―アフガニスタンでの特殊偵察・直接行動(01年10月6日〜02年3月30日)〔PDF〕 (ロバート・ハーワード米海軍大佐 2002/10/31)
※2ページ目「GERMAN KSK」と記載されている。
国連コソボ暫定行政ミッション (外務省)
※「安保理決議1244に基づき、文民部門を担当するUNMIKが、安全保障部門を担当する国際安全保障部隊(KFOR)と協力して、和平履行を進めている」と記されている。

◆参考


(*) ISAF参加国数は、ISAFホームページより。
(**) この記事の調査では、静岡県立大学グローバル地域センター特任助教西恭之氏から多くの情報提供を得た。詳細は、国際変動研究所(小川和久理事長)発行のメールマガジン「NEWSを疑え!」所収の下記論考も参照されたい。
朝日新聞が誤報したドイツの集団的自衛権行使 (NEWSを疑え!第311号・2014年6月19日特別号)
ドイツ連邦軍アフガニスタン派遣に関する事実関係 (NEWSを疑え!第325号・2014年8月11日特別号)