「閣議決定で集団安保の武力行使可能」は誤報

2014年7月2日注意報一覧メディア:ジャンル:テーマ:

▼集団的自衛権に関する安倍内閣の閣議決定で、集団安全保障に基づく武力行使も容認したかのように朝日新聞が1面トップで報じたが、事実ではなかった。後方支援の活動場所の制約が「撤廃」されたかのような説明も誤りだった。(追記あり)

【朝日】 2014/7/2朝刊1面「9条崩す解釈改憲 集団的自衛権 閣議決定 海外での武力行使容認」、3面「危険はらむ軍事優先 周辺国刺激、緊張招く懸念 集団的自衛権閣議決定」、5面「自衛隊の活動 増す危険 『非戦闘地域』の線引きなくす」

《注意報1》2014/7/2 19:30

《追記》2014/7/4 11:00

《追記》2014/7/17 18:15


【追記】閣議決定を受けて行われた7月14日の衆院予算委員会で、安倍晋三首相は、国際法上の根拠が集団的自衛権から集団安全保障措置に切り替わっても、武力行使の新3要件を満たせば武力行使が可能との見解を明らかにした(岡田克也議員、浅野慶一郎議員への答弁)。15日の参院予算委員会でも、岸田文雄外相が同様の見解を示した(佐藤正久議員への答弁)。これを受け、朝日新聞は15日付朝刊で集団安保について「閣議決定への明記を見送った」が、予算委の答弁で「集団安保も一部容認すると打ち出した」と報じた。(2014/7/17 18:15)

《注意報1》2014/7/2 19:30

安倍内閣が7月1日夕、自衛権の憲法解釈などに関する閣議決定をしたのを受け、朝日新聞は2日付朝刊1面トップで「9条崩す解釈改憲 集団的自衛権 閣議決定 海外での武力行使容認」と見出しをつけて報じた。その中で閣議決定された政府見解について、「日本が武力を使う条件となる『新3要件』を満たせば、個別的、集団的自衛権と集団安全保障の3種類の武力行使が憲法上可能とした」と報じた。しかし、閣議決定には、集団安全保障に基づく武力行使を容認する記述は存在せず、明らかな事実誤認といえる。また、自衛隊が他国軍に後方支援する場所を「非戦闘地域」に限る制約について、同紙は「撤廃」もしくは「線引きをなくす」と報じたが、実際は「現に戦闘行為を行っている現場」以外に限るという新たな制約に変更されたにとどまり、制約の有無について誤解を与える可能性が高い。

朝日新聞2014年7月2日付朝刊1面

朝日新聞2014年7月2日付朝刊1面

 首相は1日の記者会見で「現行の憲法解釈の基本的考え方は何ら変わることはない」と述べた。一方で、歴代内閣が集団的自衛権の行使を禁じる根拠とした憲法9条との整合性については詳しく語らなかった。
 首相は当初、憲法改正手続きを定めた憲法96条を改正することで、憲法を変えるハードルを下げようとした。しかし、改正の機運は盛り上がらず、憲法解釈の見直しに方針転換した。
 今回の閣議決定は、海外での武力行使を禁じた憲法9条の趣旨の根幹を読み替える解釈改憲だ。政府は1954年の自衛隊発足以来、自国を守る個別的自衛権の武力行使に限って認めてきた。しかし、閣議決定された政府見解では、日本が武力を使う条件となる「新3要件」を満たせば、個別的、集団的自衛権と集団安全保障の3種類の武力行使が憲法上可能とした。
(朝日新聞2014年7月2日付朝刊1面「9条崩す解釈改憲 集団的自衛権 閣議決定 海外での武力行使容認」より一部抜粋)

■閣議決定のポイント
◆密接な関係の他国に武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある場合、集団的自衛権を含む「自衛のための措置」を可能に
◆自衛隊の国連平和維持活動(PKO)などで、自衛隊が武器を使える場面を拡大
◆自衛隊が他国軍に後方支援する場所を「非戦闘地域」に限る制約は撤廃
(朝日新聞2014年7月2日付朝刊1面「9条崩す解釈改憲 集団的自衛権 閣議決定 海外での武力行使容認」より一部抜粋)

 閣議決定では、武力行使の要件に明確な歯止めをかけず、将来紛争が起きたとき、自衛隊を自由に動かす余地を残した。政府内には、自衛隊の活動内容を広げれば、相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力が高まるとの考えが根強い。
 しかし、双方が抑止力を高める競争を続ければ、軍拡を招き、地域の緊張が高まる危険性もはらむ。 首相はまた、「外国を守るために日本が戦争に巻き込まれるという誤解がある。そのようなことはありえない」とも強調した。だが、集団的自衛権や集団安全保障での武力行使を新たに認めたことで、米国をはじめ他国は日本に期待し、危険な活動を際限なく求めてくる可能性がある。
(朝日新聞2014年7月2日付朝刊3面「危険はらむ軍事優先 周辺国刺激、緊張招く懸念 集団的自衛権閣議決定」より一部抜粋)

集団安全保障とは国際連合による紛争防止・制裁措置で、集団的自衛権とは異なる。閣議決定に至る与党協議では、集団安全保障に基づく武力行使も盛り込まれるかどうかが焦点の一つとなっていた。

朝日新聞の1面記事には閣議決定で集団安全保障に基づく武力行使が容認されたかのような記述がある。しかし、閣議決定は、「国際社会の平和と安定への一層の貢献」という項目で、集団安全保障活動への後方支援について、従来の「武力行使の一体化」と評価されない限度で認めるという枠組みを維持しつつ、活動範囲を広げるための法整備を進めるとしたにとどまっている。また、国際連合平和維持活動(PKO)などの国際的な平和協力活動に伴う武器使用についても、「駆け付け警護」に伴う武器使用や武力の行使を伴わない警察的な活動などを可能とする法整備を進めるとしたにとどまっている。閣議決定に、「集団安全保障に基づく武力の行使」を可能とするような解釈や法整備を可能とする文言はみられない。

6月下旬の一部報道で、政府が作成した想定問答集で、集団安全保障に基づく武力行使に関し、新3要件を満たすならば憲法上「武力行使」は許容されるとの見解が盛り込まれているとの情報もあるが、7月2日時点では公表されていない。今後、政府が集団安全保障に基づく武力行使を認める見解を発表する可能性は否定できないが、7月1日の閣議決定ではそのような見解は述べられていない。他の主要紙も集団安全保障に基づく武力行使については、閣議決定での明記を見送ったと報じている。

朝日新聞2014年7月2日付朝刊5面

朝日新聞2014年7月2日付朝刊5面

また、朝日新聞の1面記事には、「閣議決定のポイント」を3つにまとめ、「自衛隊が他国軍に後方支援する場所を『非戦闘地域』に限る制約は撤廃」と記載。5面の「自衛隊の活動、増す危険 『非戦闘地域』線引きなくす」という記事でも、「国連安保理決議に基づく多国籍軍などへの補給など『後方支援』を拡大する。他国の武力行使と一体化しないように設けた『戦闘地域』と『非戦闘地域』の線引きをなくし、非戦闘地域に限ってきた自衛隊の活動場所を広げる」と解説している。しかし、閣議決定では、後方支援活動を「後方地域」や「非戦闘地域」に限定する枠組みに代わって「他国軍隊が現に戦闘行為を行っている現場」以外に限定する枠組みを提示。活動範囲・場所の制約がなくなったのではなく、変更されている。7月2日付朝刊には閣議決定の全文が掲載されているが、記事の本文では制約が変更されたことを正確に説明していなかった。

国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について(閣議決定)〔PDF〕 (首相官邸 2014/7/1)

2 国際社会の平和と安定への一層の貢献
(1)いわゆる後方支援と「武力の行使との一体化」
ア…(略)…
イ…(略)…
ウ 政府としては、いわゆる「武力の行使との一体化」論それ自体は前提とした上で、その議論の積み重ねを踏まえつつ、これまでの自衛隊の活動の実経験、国際連合の集団安全保障措置の実態等を勘案して、従来の「後方地域」あるいはいわゆる「非戦闘地域」といった自衛隊が活動する範囲をおよそ一体化の問題が生じない地域に一律に区切る枠組みではなく、他国が「現に戦闘行為を行っている現場」ではない場所で実施する補給、輸送などの我が国の支援活動については、当該他国の「武力の行使と一体化」するものではないという認識を基本とした以下の考え方に立って、我が国の安全の確保や国際社会の平和と安定のために活動する他国軍隊に対して、必要な支援活動を実施できるようにするための法整備を進めることとする。
(ア)我が国の支援対象となる他国軍隊が「現に戦闘行為を行っている現場」では、支援活動は実施しない。
(イ)仮に、状況変化により、我が国が支援活動を実施している場所が「現に戦闘行為を行っている現場」となる場合には、直ちにそこで実施している支援活動を休止又は中断する。

(2)国際的な平和協力活動に伴う武器使用
ア…(略)…
イ…(略)…
ウ 以上を踏まえ、我が国として、「国家又は国家に準ずる組織」が敵対するものとして登場しないことを確保した上で、国際連合平和維持活動などの「武力の行使」を伴わない国際的な平和協力活動におけるいわゆる「駆け付け警護」に伴う武器使用及び「任務遂行のための武器使用」のほか、領域国の同意に基づく邦人救出などの「武力の行使」を伴わない警察的な活動ができるよう、以下の考え方を基本として、法整備を進めることとする。…(以下、略)…


(*) 原報道(記事)の引用を追記しました。(2014/7/2 21:30)
(**) 朝日新聞7月2日付朝刊3面の記事の引用を追加しました。(2014/7/4 11:00)