ロス疑惑「新証拠」 名誉棄損判決記事を是正

2014年6月30日注意報一覧メディア:ジャンル:, ,

▼「ロス疑惑」の報道で三浦氏がロス市警に逮捕された際、米当局者が「新証拠がある」と言及したとの報道に対する名誉棄損訴訟で、朝日新聞が判決内容を正確に引用していなかったため是正している。

【朝日】 2011/7/29朝刊37面「故三浦氏報道 本社側が勝訴」、2012/2/16朝刊36面「故三浦氏の報道 二審も本社勝訴」、2013/1/19朝刊37面「『ロス疑惑』報道 本社勝訴確定 最高裁決定」

《注意報1》2014/6/30 16:00


《注意報1》2014/6/30 16:00

「ロス疑惑」で殺人罪に問われ無罪が確定した故三浦和義氏が2008年2月に米国ロス市警に逮捕された直後の朝日新聞の報道に対して三浦氏の遺族が起こした名誉棄損訴訟をめぐり、朝日新聞は2013年1月19日付朝刊で「『ロス疑惑」報道 本社の勝訴確定」と見出しをつけ、遺族側の上告を退ける最高裁決定を報じた。記事は、裁判所の判決のうち、朝日新聞が報じた事実関係について真実と認めることはできないと指摘した部分を省略し、「真実だと信じる相当の理由があった」との部分だけを引用していた。この裁判報道について、朝日新聞社「報道と人権委員会」(PRC)が省略された部分を含めて正確に報道すべきとの見解を示し、同紙は6月27日付朝刊で一部修正した記事を再掲した。

朝日新聞2011年7月29日付朝刊37面

朝日新聞2011年7月29日付朝刊37面

朝日新聞2012年2月16日付朝刊36面

朝日新聞2012年2月16日付朝刊36面

朝日新聞2013年1月19日付朝刊37面

朝日新聞2013年1月19日付朝刊37面

朝日新聞は2008年2月25日付朝刊1面で「ロス市警『新証拠ある』三浦元社長逮捕 警察庁に回答」と見出しをつけ、米ロサンゼルス市警が三浦和義氏の逮捕に踏み切った理由として、米連邦捜査局(FBI)が「新証拠がある」と警察庁に回答したかのように報じた。PRCの「見解」によると、三浦氏の死後の2009年12月、遺族が朝日新聞社にこの記事について名誉棄損で東京地裁に提訴。第一審は2011年7月、FBIが警察庁に対し「新証拠がある」と述べた事実は認定できず、その他全証拠を精査してもロス市警が「新証拠」の存在を挙げたという事実は認めることはできないと判断したが、取材時において真実と信ずる相当の理由があったとして遺族側の請求を棄却する判決を下した。控訴審、上告審も一審判決を踏襲し、遺族側の敗訴が確定した。

ところが、朝日新聞は第一審判決を報じた2011年7月29日付朝刊、控訴審判決を報じた2012年2月16日付朝刊、上告審判決を報じた2013年1月19日付朝刊の各記事で、判決について「ロス市警が逮捕に踏み切った理由として新証拠の存在を挙げていることが、真実だと信じる相当の理由があった」という部分だけ引用。FBIもしくはロス市警が「新証拠がある」と言及した事実が認定できなかったとした点には全く触れていなかった。

三浦氏の遺族側は今年1月、朝日新聞社の外部有識者で構成される「報道と人権委員会」(PRC)に、2008年2月25日付記事と判決に関する一連の記事の是正を求める申立をした。これに対し、朝日新聞社側は2008年2月25日付記事が誤ったことが判明した事実はないと反論。PRCは今年6月25日「見解」をまとめ、訂正していなくても新聞倫理綱領に違反しないと判断した。他方、判決に関する一連の記事については「名誉棄損に係る裁判報道にあたっては、報道機関の摘示した事実が真実であると認められないと裁判所が判断している場合には、特段の事情がない限り、これを含めて正確に報道することが公正な態度と考えられる」と指摘した。これを受け、朝日新聞は6月27日付朝刊で、判決の引用を「ロス市警が逮捕に踏み切った理由として新証拠の存在を挙げていることについて、真実と認めることはできないが、真実だと信じる相当の理由があった」に改めて記事を再掲した。

朝日新聞2008年2月25日付朝刊1面、2面

朝日新聞2008年2月25日付朝刊1面、2面

「ロス疑惑」名誉毀損訴訟の報道、PRC見解全文 (朝日新聞2014/6/27)

朝日新聞2014年6月27日付朝刊27面

朝日新聞2014年6月27日付朝刊27面

いわゆる「ロス疑惑」をめぐっては、2008年6月22日、米警察当局が三浦和義氏=最高裁で無罪確定、同年10月10日留置中に死去=をサイパンで逮捕。共同通信が24日付で「日本の捜査当局によると、米当局者は『新証拠が見つかり、逮捕に踏み切った』と話している」と報道したのを皮切りに、朝日新聞や毎日新聞などが25日付朝刊で、米当局者が「新証拠」に言及したことを大きく報じた(ただし、産経新聞は「新証拠などない」という三浦氏の言い分を見出しにして報じていた)。

しかし、朝日新聞は6月28日付で、FBI報道官が警察庁に「新証拠がある」と回答した事実はないと述べたことを見出し1段の記事で続報。毎日新聞も10月16日付で、米ロス郡地検広報官が「新しい証拠はなかった」「(日本側との捜査協力に基づき、三浦元社長の殺人と共謀容疑で逮捕状を請求した)88年当時と同じ証拠だ」と述べたことを伝えていた。PRCの「見解」によると、朝日新聞はこの発言は根拠があるものではないと判断して後追い報道しなかった。

朝日新聞2008年2月28日付朝刊38面(左)、毎日新聞2008年10月16日付朝刊26面(右)

朝日新聞2008年2月28日付朝刊38面(左)、毎日新聞2008年10月16日付朝刊26面(右)

新聞倫理綱領には「報道を誤ったときはすみやかに訂正し、正当な理由もなく相手の名誉を傷つけたと判断したときは、反論の機会を提供するなど、適切な措置を講じる」との文言があるが、PRCは、朝日新聞が2008年6月25日付記事の訂正をしなかったことは新聞倫理綱領に違反しないと判断。一方で「本件の事実経緯を総合すると、新証拠が存在する可能性は低いとみることができる」と指摘した。

PRCの「見解」を報じた6月27日付朝日新聞の記事によると、故三浦和義氏の遺族の代理人の弘中惇一郎弁護士の次のようにコメントしている。

市民は新聞に対して、真実を報道することを期待している。問題となった記事「ロス市警『新証拠ある』」の掲載後も、朝日新聞は取材を尽くし、改めて真実を報道すべきだった。今回の見解は、十分な取材をしていない段階での報道について、法的責任の有無と同じ視点で擁護しているにすぎない。真実報道への熱意がまったく感じられず、残念だ。ただ、名誉毀損訴訟の判決が「真実と認めることはできない」と認定したことも報じるべきだった、と指摘したことは評価する。