「邦人救出、米拒む」? 11年、日米協力加速で合意

2014年6月24日注意報一覧メディア:ジャンル:, , テーマ:

▼集団的自衛権の与党協議に関連して、米国が1997年の日米ガイドライン改定後、在外邦人の救出を拒否し、日米協議が進展していないと朝日新聞が報道。しかし、2011年、日米政府間で協力加速の合意がなされていた。(追記・訂正あり)

【朝日】 2014/6/16朝刊1面トップ「集団的自衛権行使で想定 『米艦で邦人救出』米拒む 過去の交渉」

《注意報1》2014/6/24 07:00

《訂正》2014/6/24 16:00

《追記》2014/6/25 14:15


《注意報1》2014/6/24 07:00

集団的自衛権をめぐる自民党と公明党の協議で想定されている「米艦による日本人救出」について、朝日新聞は6月16日付朝刊1面トップで、朝鮮半島有事で避難する日本人を米側が救出することを断り、その後も日米協議は進展していないと報じた。しかし、非戦闘員の救出に関する日米協力については、1997年「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)改定時に明記され、2005年と2011年にも日米間で協力を確認。日米共同訓練でも訓練項目の一つとして繰り返し行われているとされる。同紙の報道は、こうした近年の日米協力の進展が全くないかのような誤った印象を与えるおそれがある。

朝日新聞2014年6月16日付朝刊1面トップ

朝日新聞2014年6月16日付朝刊1面トップ

朝日新聞の記事は、日米両国が1997年、日米ガイドライン(*)を改定する際、朝鮮半島有事で日本が米軍を支援する見返りとして、避難する日本人を米軍が運ぶ「非戦闘救出作戦」(NEO)を協力分野に加えることに合意しながら、98年に周辺事態法(**)をつくる際、「米側の強い意向でNEOはメニューから外された」と報じている。

1997年に改定されたガイドラインには、「非戦闘員を退避させるための活動」(Non-combatant Evacuation Operations、NEO)という項目が設けられている。そこでは、日米政府がそれぞれ自国民の退避に責任をもつとの原則を示しつつ、両政府が「各々の有する能力を相互補完的に使用」することや、退避計画の調整や実施の協力を行うことも記された。だが、朝日新聞が指摘したとおり、ガイドラインの実効性を担保するために整備された周辺事態法では、NEOに関する規定は盛り込まれなかった。(***)(****)

しかし、2000年代後半に入り、日米間でNEOに関する協議が行われている形跡がみられる。2005年の日米安全保障協議会(いわゆる「2+2」)で、日米協力の項目としてNEOを明記。2011年の「2+2」でも、NEOの二国間協力を加速することで合意していた。

朝日新聞は、周辺事態法案の国会審議が始まる前の1998年4月14日付朝刊でも、米国の意向で邦人救出協力の規定が盛り込まれないことが判明したと報道。他方で、4月24日付朝刊の続報(ワシントン電)では、米国の国防、国務両省の当局者が「邦人救出で協力することはすでに新ガイドラインに明記されている」などと述べ、米国政府としては今後も協力の具体化に向け協議を続ける考えに変わりがないことを強調、NEOでの協力を別の文書や協定に明記する必要はないとの考えを明らかにしたことも伝えていた。

日米防衛協力のための指針(1997年改定) 〔英文〕 (外務省)

Ⅴ・2・(1)・(ハ)非戦闘員を退避させるための活動
日本国民又は米国国民である非戦闘員を第三国から安全な地域に退避させる必要が生じる場合には、日米両国政府は、自国の国民の退避及び現地当局との関係について各々責任を有する。日米両国政府は、各々が適切であると判断する場合には、各々の有する能力を相互補完的に使用しつつ、輸送手段の確保、輸送及び施設の使用に係るものを含め、これらの非戦闘員の退避に関して、計画に際して調整し、また、実施に際して協力する。日本国民又は米国国民以外の非戦闘員について同様の必要が生じる場合には、日米両国が、各々の基準に従って、第三国の国民に対して退避に係る援助を行うことを検討することもある。

新たな日米防衛協力のための指針 Q&A〔PDF〕 (外務省)

「日米ガイドラインQ&A」(外務省作成)より一部抜粋

「日米ガイドラインQ&A」(外務省作成)より一部抜粋。「周辺事態における日米協力のイメージ」図には、「非戦闘員の退避」も示されていた。

日米同盟:未来のための変革と再編(仮訳)(2005年10月29日) (外務省)
※「3.二国間の安全保障・防衛協力において向上すべき活動の例」の中に、「双方は、いくつかの個別分野において協力を向上させることの重要性を強調した」として個別分野が列挙され、「非戦闘員退避活動(NEO)のための輸送、施設の使用、医療支援その他関連する活動」と記載されている。

日米安全保障協議委員会共同発表「より深化し,拡大する日米同盟に向けて:50年間のパートナーシップの基盤の上に」(2011年6月21日)〔PDF〕 (外務省)
※6頁目に「閣僚は,非戦闘員退避活動における二国間の協力を加速することを決定した」(The Ministers decided to accelerate bilateral cooperation on non-combatant evacuation operations.)と記載されている。

朝日新聞の報道をめぐっては、防衛省報道官は6月17日の記者会見で、日米間で「ガイドライン策定後も本件に関する協議を行ってきており、実際上、日米共同訓練において、この在外邦人を含む非戦闘員の救出は訓練項目の一つとして、日米間で繰り返し行われてきている」と指摘。(****) 同紙が日米ガイドライン再改定の主要なテーマに「邦人救出は入っていない」と報じた点についても、「現在行っているガイドラインの見直し作業においても、在外邦人を含む非戦闘員の退避というのは重要な課題」だと反論。「邦人を輸送している米国船舶の防護」は現実に対応すべき重要な課題であるとの認識を示した。

朝日新聞の記事では、米軍の救出作戦で、日本人が国籍による4段階の優先順位の最後に位置づけられているとの証言も紹介されているが、この真偽は確認できなかった。ただ、米統合参謀本部の2010年版NEOには、米国市民、国防総省軍属、指定のホスト国民(designated host nation)、第三国の国民(third country nationals)の退避支援を明記する一方、「全ての国(カナダや英国を含む)は自国民退避を計画するよう促し、米政府に依存しないよう求める」(All foreign governments (including Canadian and British) are urged to plan for their own nationals’ evacuation and not to depend on USG resources. )との記述がみられる。

■防衛省報道官記者会見(2014年6月17日)

Q.一部報道では、過去の日米交渉で、朝鮮半島有事の際に、現地から日本の民間人などを米軍が避難させる計画について、アメリカ側に断られたというような報道が出ていますけれども事実関係についてお願いします。
A.現在の日本ガイドラインにおきましては、日米の協力項目として「非戦闘員を退避させるための活動」が明記されております。その中で在外邦人の退避に際しては、米側との協力が行われることについても言及をされておりまして、ご指摘に当たらないと考えております。そして、日米間では、2011年の「2+2」共同発表において、本件協力を加速することとされていることなど、ガイドライン策定後も本件に関する協議を行ってきており、実際上、日米共同訓練において、この在外邦人を含む非戦闘員の救出は訓練項目の一つとして、日米間で繰り返し行われてきているところでございます。また、ガイドラインに盛り込まれた「非戦闘員を待避させるための活動」に関連して、自衛隊法の邦人輸送のところに関連規定が整備されており、米側の意向で周辺事態法に盛り込まれなかったとの事実はございません。さらに、現在行っているガイドラインの見直し作業においても、在外邦人を含む非戦闘員の退避というのは重要な課題でございまして、引き続きこれをしっかりと念頭に置いて対応してまいりたいと考えております。いずれにせよ、事例で示されている「邦人を輸送している米国船舶の防護」は、現実に対応すべき重要な課題だと認識しています。

■参議院 外交防衛委員会(1999年3月23日) (国会会議録検索システム)

○田英夫君 …(略)…韓国にいる日本人の避難ということが、実はこのガイドライン問題が発表になったいわゆる一昨年の六月八日の日米両国政府からの中間発表ということの後、与党ガイドライン問題協議会で議論を重ねているときにこの問題が一つの議題になりました。当初、在韓日本人の避難についてはアメリカが協力をしてくれるようにという、日米協力のもとに行うということを日本政府側は望んでおられたようですが、途中アメリカ側からはっきりと拒否されたということがあって、急遽日本独自でこれを行わなければならないという事態になっていたということを、私も与党ガイドライン問題協議会で承知しております。この状況は今も変わらないわけですね。
○国務大臣(高村正彦君) 非戦闘員退避活動につきましては、指針におきまして、日米両国政府はおのおのが適切であると判断する場合には、おのおのの有する能力を相互補完的に使用しつつ、輸送手段の確保、輸送及び施設の使用にかかわるものも含め、これらの非戦闘員の退避に関して、計画に際して調整し、また実施に際して協力すると明記されているわけでありまして、こうした協力の有用性に関する日米両国の認識には変わりはないわけであります。
 我が国といたしましては、この非戦闘員退避活動に関し具体的にいかなる協力が可能かについて、指針の実効性確保の観点からも米側と累次の機会に意見交換を行ってまいりました。今後とも引き続き、日米間で話し合っていく所存でございます。
○田英夫君 それは私が記憶しているところと大分違うんです。アメリカ側は、一般人の避難についてはそれぞれの国の独自の力によってやるということを通告してきたと記憶しておりますが、違いますか。
○政府委員(竹内行夫君) 田先生御指摘の経緯といいますか問題は、大体御指摘のように報ぜられたことがございますし、そういう御理解が決して間違いというわけではないと思います。
 ただ、あの当時問題になりましたのは、指針の中で具体的に日米間の協力を書くかどうかというところでございまして、実は指針の中には、それぞれの国民について「各々責任を有する。」ということを明記された上で、今、大臣から御紹介申し上げましたような、両国間の協力というのは有用であるという基本的な認識も指針で書かれておるわけでございます。
 したがいまして、その後日米間においては話し合いを続けておりまして、日米ともにこの非戦闘員退避計画について協力するということは有用であるという基本的な認識で一致しておりますので、現在も話し合いを続けているという状況にございます。したがいまして、結論が、行わないということが出ているわけではございません。

2010年版非戦闘員退避作戦(NEO)〔PDF〕 (米統合参謀本部)
日米防衛協力のための指針 (防衛省)


(*) 正式名称は「日米防衛協力のための指針」。1978年に策定され、1997年に改定。現在、日米政府間で見直しが進められており、2013年10月の日米「2+2」協議で、2014年末までの改定作業終了を目指すことを合意した。
(**) 正式名称は「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」。
(***) 森本敏「日米防衛協力ガイドラインと周辺事態法」(原子力燃料政策研究会)参照。
(****) 本文で引用した防衛省報道官の会見では、ガイドラインに盛り込まれたNEOに関連して自衛隊法の改正が行われたとの指摘がある。自衛隊法108条の8が改正され、在外邦人の輸送手段に船舶等が加わり、武器使用の規定が新設されたが、米国の邦人救出に関する規定とは必ずしも言えない。「指針」及びその実効性確保のための法整備について(防衛省)〔PDF〕参照。
(*****) 「平和フォーラム」ホームページに掲載されている解説記事(2011年1月6日、八木隆次氏)によれば、日米共同統合演習は周辺事態法成立後、海外で戦争がおこった場合に日本人を救出するための「邦人輸送訓練」も行われるようになったという。

 日米共同統合演習(実動演習)と日米共同統合演習(指揮所演習)は、ほぼ1年交代で行われます。実動演習が初めて行われたのは1986年で、今年で10回目です。指揮所演習が初めて行われたのは1985年で昨年度までに18回実施されています。
 80年代から90年代にかけては、実動演習の主な演習地は北海道や東北でした。しかし2000年代に入ってからは、主な演習地は中国や九州に移行しました。また1999年に周辺事態法が成立した後は、墜落した米軍機のパイロットを救出する「捜索救助訓練」や、海外で戦争がおこった場合に日本人を救出するための「邦人輸送訓練」が行われるようになりました。
(八木隆次氏「解説 日米共同統合演習」より)

(******) 防衛省報道官の会見中「ガイドライン策定後も本件に関する協議を行ってきており、事実上、日米共同訓練において、この在外邦人を含む非戦闘員の救出は訓練項目の一つとして、日米間で繰り返し行われてきている」の「事実上」は「実際上」の誤りでしたので訂正します。(2014/6/24 16:00)
(*******) 2014年6月11日、政府が衆議院外務委員会で、過去の戦争時に米輸送艦によって邦人が輸送された事例はないものの、米軍用機で在留邦人三名を輸送した事例や米政府チャーター船で在留邦人を輸送した事例があることを明らかにしている。(2014/6/25 14:15追記)