南京大虐殺否定「翻訳者が無断加筆」 著者ら否定

2014年5月18日注意報一覧メディア:, , , ジャンル:, ,

▼英国人記者の著書に盛り込まれた「南京大虐殺」を否定する文章が、翻訳者が無断で加筆したものだったと共同通信が報道。しかし、著者が修正の必要はないとの声明を出し、日本報道検証機構のインタビューで同様の見解を述べた。(続報・訂正あり)

【毎日】2014/5/9朝刊27面「ベストセラー翻訳者 南京事件 虐殺否定を無断加筆」【産経】2014/5/9 MSN産経ニュース「南京虐殺否定を翻訳者が無断加筆 ベストセラーの著者が修正要求」【共同】2014/5/8「南京虐殺否定を無断加筆 ベストセラーの翻訳者」、2014/5/9「『ゆがめられた歴史正す』 無断加筆の藤田氏ら」【東京】2014/5/9夕刊2面「『南京大虐殺はなかった』 翻訳者 無断で加筆 英国記者が修正要求」【琉球新報】2014/5/9朝刊1面「南京大虐殺否定を無断加筆 元米国紙記者の著者 翻訳者が認める」、朝刊2面「社説:無断加筆 もはや『捏造』に等しい」

《注意報1》2014/5/12 21:30

《訂正あり》2014/5/14 06:30

《注意報2》2014/5/18 07:00

《加筆あり》2014/5/18 19:15


【訂正】本文中、「共同通信の第一報を掲載した毎日新聞や東京新聞は、『著者の見解』を伝えた共同通信の記事を掲載していない」と記載しましたが、東京新聞は5月10日付朝刊で掲載していました。お詫びして訂正します。(本文修正済)

《注意報1》2014/5/12 21:30

共同通信は5月8日、「ベストセラー翻訳者 南京事件 虐殺否定を無断加筆」との見出しで、祥伝社が出版した英国人記者の著書のうち、日本軍による「『南京大虐殺』はなかった」と主張した部分は、著者に無断で翻訳者が書き加えていたため、著者が修正を求めたと報じた。記事は翌日、毎日新聞や東京新聞をはじめ地方各紙にも掲載され、琉球新報は社説で「捏造」と批判。しかし、祥伝社は、無断加筆と報じられた部分と著者の見解は同じだとする「著者の見解」を発表した。著者はこれまでにも「『南京大虐殺』は中国のプロパガンダ」との主張をしたことがあるが、共同通信の報道は、著者と全く異なる見解を翻訳者が無断で加筆したかのような誤解を与える可能性がある。

南京虐殺否定を無断加筆 ベストセラーの翻訳者 (共同通信 2014/5/8 19:00)
「ゆがめられた歴史正す」 無断加筆の藤田氏ら (共同通信 2014/5/9 14:10)

東京新聞2014年5月9日付夕刊2面

東京新聞2014年5月9日付夕刊2面(共同通信配信)

社説:無断加筆 もはや「捏造」に等しい (琉球新報 2014/5/10)

 何かを主張したければ、自身の名の下に、自身の責任で主張すればいい。誰かの発言のように装って主張するのは卑怯(ひきょう)である。
 米ニューヨーク・タイムズ紙の元東京支局長の著書「英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄」(祥伝社新書)で、「日本軍による『南京大虐殺』はなかった」と主張した部分は、著者に無断で翻訳者が書き加えていたことが分かった。
 このような行為はもはや「編集」とは言えず、「捏造(ねつぞう)」に等しい。少なくとも現行の本はいったん回収し、無断加筆した部分を削除して、版を改めて発行すべきだ。(以下、略)

問題となったのは、ヘンリー・ストークス氏の著書「英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄」(祥伝社新書)。同書によると、ストークス氏は英フィナンシャル・タイムズ初代東京支局長や米ニューヨーク・タイムズ東京支局長など歴任。共同通信は、ストークス氏がインタビューに応じ、この著書の第5章末尾にある「歴史の事実として『南京大虐殺』は、なかった。それは、中華民国政府が捏造したプロパガンダだった」という記述について、「後から付け加えられた。修正する必要がある」「(この文章は)私のものでない」などと指摘、インタビューに同席した翻訳者の藤田裕行氏も「誤解が生じたとすれば私の責任」などと述べたと報じた。
「私の文章ではない」とヘンリー・ストークス氏 (MSN産経ニュース〔共同〕 2014/5/9 16:03)
「私に責任がある」と藤田氏 (MSN産経ニュース〔共同〕 2014/5/9 16:03)

これに対し、祥伝社は9日午後、「共同通信の取材に基づく一連の記事は、著者の意見を反映しておらず、誤りです」などとするストークス氏の署名入りのコメント文書をホームページに掲載。その中で、ストークス氏は「著者の見解は、『いわゆる「南京大虐殺」はなかった。大虐殺という言葉は、起きた事を正しく表現していない。元々、それは中華民国政府のプロパガンダだった』というものです」(The author’s opinion is: so called “Nanking Massacre” never took place. The Word “Massacre” is not right to indicate what happened. It was originally a propaganda tool of the KMT government.)と述べ、「無断加筆」と報じられた箇所を修正する必要はないと言明した。

一方、共同通信社も9日夜、「翻訳者同席の上で元東京支局長に取材した結果を記事化したものです。録音もとっており、記事の正確さには自信をもっています」とコメントし、祥伝社が発表した「著者の見解」とともに続報で配信。東京新聞が10日付朝刊で、見出し1段の小さな記事で掲載した。共同通信の第一報を掲載した毎日新聞や1面や社説でも取り上げた琉球新報は、「著者の見解」を伝えた共同通信の記事を掲載していない。

『英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄』に関する各社報道について〔PDF〕 (祥伝社 2014/5/9)

著者の見解

1.共同通信の取材に基づく一連の記事は、著者の意見を反映しておらず、誤りです。
2.「(南京)虐殺否定を無断加筆 ベストセラー翻訳者」との見出しも、事実ではありません。
3.著者と翻訳者の藤田裕行氏との間で、本の内容をめぐって意思の疎通を欠いていたとの報道がありますが、事実と著しく異なります。
4.共同通信は、1937年12月に南京で起きた事に関する第5章の最後の2行の日本語訳が著者の見解を反映していないと報じています。共同通信は、問題を針小棒大にしています。
著者の見解は、「いわゆる『南京大虐殺』はなかった。大虐殺という言葉は、起きた事を正しく表現していない。元々、それは中華民国政府のプロパガンダだった」というものです。
5.本書に記載されたことは、すべて著者の見解です。祥伝社と著者は、問題となっている2行の記述についても訂正する必要を認めません。

ヘンリー・スコット・ストークス

(祥伝社ホームページ掲載の日本語訳を引用)

ヘンリー・ストークス氏の署名入り「著者の見解」(祥伝社ホームページより)

ヘンリー・ストークス氏の署名入り「著者の見解」(祥伝社ホームページより)

祥伝社の角田勉取締役は12日、日本報道検証機構の取材に対し、報道翌日の9日にストークス氏と藤田氏に事情聴取した内容を詳しく説明した。角田取締役によると、ストークス氏は共同通信の取材で報道されたような受け答えをしたこと自体は認めた。ただ、記者の質問の趣旨を取り違え、「南京事件そのものを否定するかのような記述」が本文中に入っていると勘違い。自分の意に反した文章が本の中に入っていると思い込み、記者に、それは自分の考えではないので訂正の必要があると答えたという。ただ、記者が実際にどのような表現で質問したのかについては、角田取締役は「把握していない」と答えた。

また、角田取締役によると、ストークス氏は事情聴取で「1937年12月、日本軍が南京の場内に入ったときに、ひどい事件がまったくなかったとは考えていない」との認識を示した。一方で、ストークス氏は、「現在中国政府が主唱し、一部の識者が追随している万の単位を超えるような、ましてや20万、30万人などという虐殺があったはずはなく、それは中国のプロパガンダだ」との見解を示しており、「南京大虐殺」という用語は使うべきではなく「南京事件」と呼ぶべきだと述べたことも明らかにしたという。共同通信の記事のうち、ストークス氏が「大虐殺」より「事件」という表現が的確だとの見解を示したとの部分や「南京で何か非常に恐ろしい事件が起きたかと問われれば、答えはイエスだ」と述べたとの部分は、間違いではなかったと考えられる。

他方、日本語が十分に読めないストークス氏に日本文の詳細な説明を行っていなかったかのような報道については、ストークス氏自身が「著しく事実に反する」と述べたという。角田取締役によると、「南京大虐殺」が中国が世界に発信した謀略宣伝であるとの見解を示した「まえがき」や、そうした見解を繰り返し主張している第5章の文章は、ストークス氏の原稿ではなく、口述を翻訳して整理したもの。ただ、今回問題となった記述を含め、日本文の趣旨を詳しく説明し、本人の了解をとるという手順を踏んだと強調している。

そもそも、ストークス氏は4月15日付夕刊フジのインタビュー記事でも「南京大虐殺は、蒋介石率いる中国国民党政府が作り上げた壮大なプロパガンダである」との見解を述べており、それと同趣旨の文章を本に載せること自体は承知していた可能性が高い。共同通信は5月9日配信した解説記事で、翻訳者の藤田氏が「ゆがめられた歴史を正す」ことを目的とする保守派団体「史実を世界に発信する会」の中心メンバーであることなどを指摘しているが、ストークス氏も過去に「史実を世界に発信する会」で講演するなど同会と関係があることには一切触れていなかった。

欧米記者を操った中国 「南京大虐殺」以降も変わらぬ情報戦の巧妙さ〔ヘンリー・ストークス氏のインタビュー記事〕 (ZAKZAK 2014/4/16)※4月15日付夕刊フジに掲載。
史実を世界に発信する会 第1回講演会(2011年12月8日)パンフレット〔PDF〕 (史実を世界に発信する会) ※ヘンリー・ストークス氏が講演している。

祥伝社は12日現在、共同通信社に記事の訂正や撤回の要請は行っていない。ただ、角田取締役は、8日共同通信記者に取材された際、「一日あれば出版社として公式コメントを用意するから配信を遅らせてほしい」と要望していたことを明かし、「報道機関として公平を期すのであれば、一日待って反論も載せてほしかった」と話している。共同通信は9日に配信した記事で「著者の見解」を伝えた。

共同通信の報道は、中国共産党の機関紙「人民日報」系列のニュースサイト「人民網」でも報じられている。

畅销书否认南京大屠杀?作者称遭利用愿负责任 (人民網 2014/5/10)


《注意報2》2014/5/18 07:00

英国人記者の著書に盛り込まれた「南京大虐殺」否定の文章が翻訳者の無断加筆によるものだったと共同通信などが報じ、これを否定する「著者の見解」が発表された問題で、著者のヘンリー・ストークス氏(元ニューヨーク・タイムズ東京支局長)が5月14日、日本報道検証機構の単独インタビューに応じ、「著者の見解」に示されたのと同様、「南京大虐殺」はなかったとの見解を主張し、内容を事前に把握していなかったとの指摘を否定した。一方、翻訳者の藤田氏は、共同通信の記事が配信される前に、英文で記したストークス氏の見解を担当記者に送っていたが、記事に反映されなかったことを明らかにした。

ストークス氏のインタビューは英語で行われた。共同通信の報道で問題とされた文章のうち「歴史の事実として『南京大虐殺』はなかった」(as a histrical fact, “Nanking Massacre” had never occurred.)という部分について、ストークス氏は、英語で”a massacre”(日本語では通常「大虐殺」と訳される)と呼ばれるようなことは起きていなかったということだと説明。「『南京大虐殺』は中華民国政府に捏造されたプロパガンダだった」(”Nanking Massacre” was a propaganda created by KMT government.)という文章についても、「中華民国政府のプロパガンダだったことは確かだ」と語った。ただ、南京事件そのものを全否定しているわけではないとも述べた。

南京大虐殺の記述を知らなかったと報じられた点についても、ストークス氏は「全くばかげている」と一蹴し、翻訳者の藤田氏とこのテーマについて何度も話し合ったと強調した。

ヘンリー・ストークス氏単独インタビュー(2014年5月14日収録) (日本報道検証機構) ※ロング・バージョン

(「南京大虐殺」に関する主な発言)

  •  A massacre is a fearful destruction of human beings without any warning, and it’s very bloody and extremely memorable to the people who had witnessed it. Having said that, none of the descriptions that I have seen of Japanese troops in action in ‘37, none of those crushes in the streets described by people I witnessed come up to the scale of a massacre. So I’d say so-called Nanjing Massacre by Japanese troops had never occurred.
  • It did not happen as a massacre. That was, according to what I have read, it was sporadic violence here and there in the city.
  • This Nanjing Massacre idea needs more exploration. It was certainly propaganda of KMT government, most certainly.
  • I do not totally deny Nanjing incidents. We have not got the word massacre here. We’ve taken this out, which is very good.
  • I would like them to correct any references they made to the so-called massacre.

翻訳者の藤田氏によると、ストークス氏は共同通信記者から7日に取材を受けた際、著書で問題となっている記述の趣旨を誤解していたという。そのため、取材が終わった後、ストークス氏と協議して問題の記述に関するストークス氏の見解を英文でまとめ、了解をとった上で、8日午後3時ごろ、共同通信の記者に送信。記者はメールが届いたことは確認したものの、8日夜配信した記事には反映されなかったという。

当機構が入手したそのメールには、ストークス氏の見解として次のように書かれていたが、9日に祥伝社を通じて発表された「著者の見解」にも、ほぼ同じ文言で掲載された。

From this, it is clear that the so-called “Massacre”never took place. “Massacre” is not the right word for what happened. And moreover, it was originally a propaganda of the KMT government.

ストークス氏は16日にも当機構を訪れ、英字紙ジャパンタイムズに掲載された共同通信の英文記事(日本語で配信された記事と異なる)を自ら取り上げ、「長年東京に住んでいるストークス氏は、最近共同通信の取材を受けるまで、彼自身の本に書かれていることを知らなかった」(until a recent interview with Kyodo News, Stokes, a longtime resident of Tokyo, did not know what was written in his own book.)という部分について「これは事実でないから訂正してほしい」と訴えた。ストークス氏は、昨年の夏ごろから約半年間かけ、翻訳者の藤田氏と170時間ほどかけて議論しながら出版を準備したと指摘。藤田氏が議論の中でストークス氏が示した見解を整理して日本語原稿にまとめたと話している。ストークス氏にも日本語原稿を渡していたという。

また、ストークス氏は英文記事の「ストークス氏が重度のパーキンソン病に苦しんでいる」(Stokes, who suffers from advanced Parkinson’s disease and)という部分も、何をもって”advanced”と言っているのか「異常だ」(extraordinary)と指摘。ストークス氏によると、ここ数年パーキンソン病の治療を受けてきたが症状はよくなり、最近は薬ものまなくてよい状態まで改善してきているという。ストークス氏は現在も日本外国特派員協会のメンバーとしてインタビュー取材を受けるなど活動しており、今回の祥伝社版の著書の英語版出版に向け準備を進めている。

なお、共同通信の記事の中には、「インタビューの録音テープを文書化したスタッフの一人」が南京大虐殺などに関するストークス氏の発言が「文脈と異なる形で故意に引用された」ことを理由に文書化の途中で辞めたと書かれた部分がある。この記述は、昨年出版された著書の制作段階で関わったスタッフの一人が途中で辞めたかのような印象を与える。しかし、藤田氏によると、著書が出版された後の今年4月、あるスタッフに英語版出版のためストークス氏のインタビュー録音の文字起こしの一部を依頼。しかし、このスタッフが5月に入り、共同通信が報じたような理由を述べて辞めた事実があるという。したがって、共同通信が報じた「スタッフ」とは、問題となっている著書の制作段階に関わったスタッフではないと考えられる。

Journalist backtracks on best-seller after Nanjing switcheroo (The Japan Times 2014/5/8)

ヘンリー・ストークス氏が

ヘンリー・ストークス氏が自ら持参した英文記事に赤線を引いて、事実と異なると指摘した箇所(①と②で囲った部分)。

 


(*) 「著者の見解」の日本語訳全文の文字起こしを追記しました。(2014/5/13 10:00)
(**) 琉球新報5月9日付朝刊1面の第一報の見出し情報を追記し、本文も加筆しました。(2014/5/14 06:30)
(***) 共同通信が「インタビューの録音テープを文書化したスタッフの一人」が「文書化の途中で辞めた」と報じた部分について、著書の制作段階で関わったスタッフではないとみられることがわかり、本文(第2報)の末尾に加筆しました。(2014/5/18 19:15)