「人間ドック学会、健康基準を緩和」は事実誤認

2014年4月15日注意報一覧メディア:, , ジャンル:,

▼人間ドック学会などが「健康」とされる範囲を緩和した新基準を発表したかのような一部報道があったが、そうした事実はなかった。報道は「基準範囲」と「疾患判別値」を混同し誤解を与える可能性がある。(追記あり)

【朝日】 2014/4/5朝刊1面「『健康』基準 広げます 人間ドック学会 血圧や肥満度」【毎日】 2014/4/5朝刊26面「『健康』な人が増える? 人間ドック検査で新基準」【産経】 2014/4/5朝刊27面「人間ドック学会など新基準値 男性の中性脂肪『高くても健康』」

《注意報1》2014/4/15 07:00

《追記あり》2014/5/12 12:00


《注意報1》2014/4/15 07:00

朝日新聞は4月5日付朝刊1面で、「『健康』基準広げます」と見出しをつけ、日本人間ドック学会(以下、学会)と健康保険組合連合会(以下、健保連)が「血圧や肥満度などについて健康診断や人間ドックで『異常なし』とする値を緩めると発表した」と報じた。しかし、学会・健保連が発表したのは、健康診断データの大規模調査をもとに作成した「検査値の基準範囲」であって、健康診断や人間ドックで用いられる「判定基準」あるいは「疾患判別値」とは別物。学会が新基準を6月に正式に決め、来年4月から運用すると報じた部分も事実ではなかった。学会には、報道で誤解をした医療関係者の問い合わせが相次いでいるといい、判定基準を変更するものではないと注意を呼びかけている。

学会と健保連は昨年から2年間の共同研究事業を実施。約150万の人間ドック健診のデータを解析して新たな「検査値の基準範囲」の策定を進めている。学会と健保連で作られた専門委員会が4日、厚生労働省に中間報告を行うとともに記者発表したことを受け、5日付主要各紙が報じた。

「健康」基準、緩めます 血圧・肥満度など、学会見直し (朝日新聞デジタル 2014/4/5 20:41)

朝日新聞2014年4月5日付朝刊1面

朝日新聞2014年4月5日付朝刊1面

男性の中性脂肪、高くても「健康」 人間ドック学会など新基準値公表 (MSN産経ニュース 2014/4/5 00:35)

産経新聞2014年4月5日付朝刊27面

産経新聞2014年4月5日付朝刊27面

産経新聞も5日付朝刊で「人間ドック学会など新基準値」と見出しをつけ、従来の判定基準と比較した「新基準値」の表を掲載。「人間ドックの血液検査で『健康』とされる基準値の範囲を広げた新たな基準値を発表した」と報じた(電子版記事は「現在の基準より緩い新たな基準値を発表した」と表現)。毎日新聞も「『健康』な人が増える?人間ドック検査で新基準」と見出しをつけ、学会と健保連が「新たな基準範囲を作成したと発表した」と報じた。いずれも、発表された「基準範囲」と従来の「判定基準」を、両者の違いを正確に説明することなく比較していたため、健診で使用される「判定基準」が新たに作られたかのような誤解を与えるおそれが高い。

学会・健保連の専門委員会は今回の共同研究事業で、まず、人間ドック受診者約150 万人から「健康人」として約34 万人が抽出。さらに約7分の1の集団を取り出した上、約1万~1万5千人の「超健康人」を選び、27項目の検査値を対象に、性別、年齢グループ別(30~44歳、45~64歳、65~80歳)の「基準範囲」を求めた。その結果、従来、学会や他の専門学会が定めてきた「判定基準値」と近かったものもある一方で、LDL-コレステロールなど一部の検査項目の基準範囲が従来の学会基準より上限値がかなり高くなったという。

ただ、中間報告の記者発表資料では、「基準範囲」は予防医学的観点から作成された「健康人の集団の検査値」であって、疫学的研究に基づき各学会が作成し、健診などで使用されている臨床検査の判断値、いわゆる「疾患判別値」とは異なることを繰り返し説明。最終報告書は6月にまとめる予定だが、その際ただちに新「判定基準」を作成するわけではなく、今後も追跡調査を行うとしていた。主要紙の中にも、5日付東京新聞記事(共同通信配信とみられる)のように、「新基準を発表した」とは報じず、「健康な人」の「検査値」を示したもので、「基準の緩和につながる可能性がある」と比較的正確に報じたものもあった。

学会側は日本報道検証機構の取材に対し、一部報道の見出しなどで「健康」の基準が緩むかのようなミスリードがあり、影響が大きいと指摘。医療関係者だけでなく患者からも問い合わせが相次ぎ、報道で誤解した人が多いという。

専門委員会の渡辺清明委員長は、今回発表の「基準範囲」(reference interval)は、健康体であることの必要条件であって十分条件ではないと説明している。また、今回の調査結果で、従来の疾患判別値と明らかに異なる結果が出たのはLDLコレステロールと男性の中性脂肪のみで、将来的に健診の基準が緩和されるとしてもごく一部になるのではないかとの見方も示している。

新たな健診の基本検査の基準範囲日本人間ドック学会と健保連による150 万人のメガスタディー〔PDF〕

6. 今回解析した基準範囲の意義と今後の展望
基準範囲とは、国際的に認められている方法で、一定の条件を満たすいわゆる健康人(基準個体)をある集団から抜粋し、その試料を検査して測定値を得て設定するものである。すなわち、ここでは約150 万人の中から、既往歴、現病歴、検査値などで異常がないとされた個体を選別し、その後に他の関連検査項目における異常値の有無で二次除外を施行した。その数は検査項目で異なるが、最終的には約1 万~1 万5 千人の健康人の集団の検査値である。
これに対し、健診などに使用される臨床検査の判断値は、基準範囲とは異なり疾患の疫学的研究によって得られた成績を基に、専門学会などで設定されたものである。
したがって両者は互いに異なるものであるが、一般的には基準範囲イコール正常値あるいは疾患判別値と理解されるケースがしばしばある。そのため、基準範囲が一人歩きし、疾患の診断や治療に影響を与える可能性がある。
ここで設定した基準範囲はあくまで上記定義に基づいて、人間ドック受診者の検査データを用いて予防医学的な観点から設定したものである事をよく認識して頂きたい。したがって今回の基準範囲の人間ドックに於ける運用に関しては今後の本学会及び健保連にて充分議論した後に進めていくべきと考える。さらに今回のいわゆる健康人のデータを5~10 年間追跡調査を行い、基準範囲の妥当性を検討する必要がある。(一部抜粋)

<注>日本人間ドック学会事務局によれば、現在掲載されている記者発表資料は改訂版で、「さらに今回のいわゆる健康人のデータを5~10 年間追跡調査を行い、基準範囲の妥当性を検討する必要がある」という部分は4月4日の記者発表時に口頭で説明したが、改訂版で追記したものだという。その他、誤字や数字の誤りが修正されている。

新たな健診の基本検査の基準範囲 日本人間ドック学会と健保連による 150 万人のメガスタディー 〔概要〕 (健康保険組合連合会 2014/4/9)

4月4日報道機関へ公表した内容について〔PDF〕 (日本人間ドック学会 2014/4/7)
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(*) 日本経済新聞5月2日付夕刊、9日付夕刊に、人間ドック学会の発表を受けて「健康と判断される範囲が従来より広がった」ととらえるのは誤解だとする解説記事が掲載された。(2014/5/9 12:15追記、2014/5/12 12:00追記)
コレステロール 「正常範囲拡大」は誤解  健康の基準が変わる?~上~ (日本経済新聞 2014/5/2夕刊)
血圧、治療目標値を緩和 治療効果を上げる狙い 健康の基準が変わる?~下~ (日本経済新聞 2014/5/9夕刊)