集団的自衛権の政府見解 一部報道は不正確

2013年12月3日注意報一覧メディア:ジャンル:テーマ:

▼集団的自衛権に関する政府見解について、自衛権発動要件のうち「必要最小限度の実力行使」を満たさないため行使が認められないとする立場であるかのように時事通信が報道。しかし、この政府見解の説明は不正確である。

【時事】 2013/12/1「集団自衛権「最小限の範囲内」=政府が憲法解釈変更案
」

《注意報1》2013/12/3 18:00


《注意報1》 2013/12/3 18:00

時事通信は12月1日付で、政府が集団的自衛権の憲法解釈変更の試案をまとめたと報じました。その中で、政府が集団的自衛権について、自衛権発動の3つの要件のうち「必要最小限度」の要件を満たさないため行使が認められないとの憲法解釈をとっているかのように説明しました。しかし、この説明は誤りで、政府は、3要件のうち「わが国に対する急迫不正の侵害がある」という要件を満たさないため集団的自衛権行使が認められないとの見解を示しています。他方、時事通信に先駆けて報じた読売新聞の記事は、正確に報道しています。

政府は、憲法9条の下で認められる自衛権の行使、いわゆる自衛権発動について、(1)わが国に対する急迫不正の侵害があったこと、すなわち武力攻撃が発生したこと、(2)これを排除するために他の適当な手段がないこと、(3)必要最小限度の実力行使にとどめることの3要件を満たす場合に限られるとの立場をとっています【資料1】。 このうち(1)(2)は自衛権の発動が許容されるための前提条件、(3)は自衛権が発動された場合の武力行使の要件と説明されています。(*)

時事通信は、自衛権発動3要件の政府見解を説明した上で、集団的自衛権はこのうち(3)の「必要最小限度」を超えるとして「国際法上の権利として保有しているが、行使は認められない」との憲法解釈を維持していると報道しましたが、正確ではありません。政府は、集団的自衛権について「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力を持って阻止する権利」と定義【資料2】。その上で「自衛権行使の第一要件、すなわち、我が国に対する武力攻撃が発生したことを満たしていない」ことを理由に、集団的自衛権行使は憲法上認められないとの見解を示しています【資料3】【資料4】。(**)

集団自衛権「最小限の範囲内」=政府が憲法解釈変更案 (時事通信 2013/12/1 20:26)

時事通信2013年12月1日付

時事通信2013年12月1日付

政府は、従来、集団的自衛権を行使することは、自衛権発動3要件の第1要件を満たさないため、わが国を防衛するため「必要最小限の範囲」を超えるもので憲法上許されないとする立場をとっています。したがって、集団的自衛権行使が「必要最小限の範囲」を超えないという見解をとるためには、自衛権発動の3要件にその範囲を限定してきた従来の憲法解釈を変更する必要が出るため、有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」で検討が進められています。

集団的自衛権の憲法解釈変更の「試案」については、読売新聞が12月1日付朝刊で特報。読売は、政府見解について、集団的自衛権は自衛権発動3要件のうち(1)の要件に当てはまらないため行使できないとされてきたことを正確に説明した上で、試案は(1)の要件を「我が国または我が国と密接な関係にある国」に修正して、「必要最小限の範囲」を超えないとする解釈に変更するものだと報じています。ただ、この「試案」はまだ正式に公表されておらず、報道の事実関係は確認がとれていません。


■【資料1】昭和48年9月23日参議院本会議(内閣総理大臣田中角栄)

わが国の自衛権の行使は、いわゆる自衛権発動の三条件、すなわち、わが国に対する急迫不正の侵害があったこと、この場合にこれを排除するために他の適当な手段がないこと、及び必要最小限度の実力行使にとどまるべきことをもって行わなければならないことは、これまで政府の見解として申し上げてきたところであります。


■【資料2】平成16年6月18日衆議院 政府答弁書(内閣総理大臣小泉純一郎)

集団的自衛権とは、国際法上、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止することが正当化される権利と解されており、これは、我が国に対する武力攻撃に対処するものではなく、他国に加えられた武力攻撃を実力をもって阻止することを内容とするものであるので、国民の生命等が危険に直面している状況下で実力を行使する場合とは異なり、憲法の中に我が国として実力を行使することが許されるとする根拠を見いだし難く、政府としては、その行使は憲法上許されないと解してきたところである。


■【資料3】昭和47年10月14日 参議院決算委員会提出資料「集団的自衛権と憲法との関係」(***)

…(略)…平和主義をその基本原則とする憲法が、右にいう自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであって、それは、あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権限が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るために止むを得ない措置としてはじめて容認されるべきものであれから、その措置は、右の事態を排除するためとられるべき必要最小限度の範囲にとどまるべきものである。そうだとすれば、わが憲法の下で武力行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。


■【資料4】平成16年1月26日衆議院予算委員会(秋山收内閣法制局長官)

(安倍晋三委員)…(略)…「憲法第九条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考えている。」つまり、国際法上は持っているけれども、憲法上それは行使できないということを言っているわけでございます。…「わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものである」、こういうふうにありますが、「範囲にとどまるべき」というのは、これは数量的な概念を示しているわけでありまして、絶対にだめだ、こう言っているわけではないわけであります。とすると、論理的には、この範囲の中に入る集団的自衛権の行使というものが考えられるかどうか。その点について、法制局にお伺いをしたいというふうに思います。

(秋山内閣法制局長官)…(略)…憲法九条のもとで許される自衛のための必要最小限度の実力の行使につきまして、いわゆる三要件を申しております。我が国に対する武力攻撃が発生したこと、この場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと、それから、実力行使の程度が必要限度にとどまるべきことというふうに申し上げているわけでございます。お尋ねの集団的自衛権と申しますのは、先ほど述べましたように、我が国に対する武力攻撃が発生していないにもかかわらず外国のために実力を行使するものでありまして、ただいま申し上げました自衛権行使の第一要件、すなわち、我が国に対する武力攻撃が発生したことを満たしていないものでございます。したがいまして、従来、集団的自衛権について、自衛のための必要最小限度の範囲を超えるものという説明をしている局面がございますが、それはこの第一要件を満たしていないという趣旨で申し上げているものでございまして、お尋ねのような意味で、数量的な概念として申し上げているものではございません。

<参考>

■安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会 (首相官邸)
我が国の安全保障にかかる法的基盤の現状 (首相官邸 2013/9/17)
安全保障の法的基盤に関する従来の見解について (首相官邸 2013/11/13)

(*) 阪田雅裕編著「政府の憲法解釈」有斐閣、2013年10月、31ページ。
(**) 自衛権発動3要件のうち(3)は行使した場合の限界の要件で、集団的自衛権の行使の前提要件で問題となるのは(1)(2)の要件であるから、時事通信の説明は論理的にも誤りがある。
(***) 前掲「政府の憲法解釈」55ページ。