秘密保護法「西山事件は処罰対象」 大臣発言の引用不正確

2013年11月3日注意報一覧メディア:, , , , ジャンル:テーマ:

▼特定秘密保護法案をめぐり森雅子担当相が「西山事件に匹敵する行為」は処罰対象となると明言したかのように一部報道がなされたが、実際は「西山事件の判例に匹敵するような行為」と発言していた。

【毎日】 2013/10/22夕刊「『西山事件』は処罰対象 秘密保護法案 取材活動で森担当相」、2013/10/23朝刊(西部本社版)「特定秘密保護法案:『西山事件』は処罰対象 西山氏『的外れ』」【産経】 2013/10/22 MSN産経ニュース「『西山事件』に類する取材活動は処罰対象 秘密保護法案で森担当相」、2013/10/22夕刊(大阪版)「西山事件類似の取材活動 秘密保護法で処罰 森担当相」【日経】 2013/10/22夕刊「『西山事件の類似は処罰』 秘密保護法案で担当相」、2013/10/25朝刊「民間人も罰則対象 不当な取材 定義なし」【東京】 2013/10/23朝刊3面「西山事件類似の取材活動は処罰 森担当相」、2013/10/24朝刊25面「西山事件 森担当相『処罰の対象』」【琉球新報】 2013/10/24朝刊「社説:秘密法と沖縄密約 民主主義を破壊するのか」

《注意報1》2013/11/3 07:00

《追記》会見録のリンクを追加しました。2013/11/8 18:15


《注意報1》 2013/11/3 07:00

秋の臨時国会で審理されている特定秘密保護法案について、森雅子担当大臣が10月22日の会見で「西山事件に匹敵する行為」は処罰対象となると明言したかのように毎日新聞や東京新聞などが報じました。しかし、実際は「西山事件の判例に匹敵する行為」と発言しており、森担当相が言及したのは判例基準であって西山事件での個別の取材行為ではないとみられます。また、一部の記事は「密約 全く分かっていない」などの見出しをつけ、森担当相が西山事件で問題となった密約に関する情報が「特定秘密」に当たるかどうかは全く述べていないにもかかわらず、述べたかのような誤った印象を与える報じ方をしています。

(*) 「西山事件」…1971年の日米沖縄返還協定時の日米間の密約に関して、毎日新聞の西山太吉記者が外務省女性事務官と関係を結び、外務省から機密文書を持ち出させたとして、国家公務員法違反(機密漏洩唆しの罪)で起訴され、最高裁で有罪が確定した事件。

森担当相の22日の会見について報じた各紙は、記事の見出しで「『西山事件』は処罰対象」(毎日新聞)、「『西山事件』に類する取材活動は処罰対象」(MSN産経ニュース)、「西山事件 森担当相『処罰の対象』」(東京新聞)などの見出しを付け、本文では森担当相の発言を「西山事件に匹敵するような行為」と引用。森担当相が、西山事件で問題となった取材方法が特定秘密保護法のもとで処罰対象になるとの見解を表明したかのように報じました。

「西山事件」に類する取材活動は処罰対象 秘密保護法案で森担当相 (MSN産経ニュース 2013/10/22 11:28)

特定秘密保護法案:「西山事件」は処罰対象 西山氏「的外れ」(毎日新聞2013年10月23日付西部本社版朝刊) (毎日jp 2013/10/22)

 特定秘密保護法案の国会審議を担当する森雅子少子化担当相は22日の記者会見で、沖縄返還に伴う密約を報じて記者が逮捕された西山事件は同法の処罰対象になるとの認識を示した。これに対し、元毎日新聞記者、西山太吉氏は「森担当相の発言は的外れ」と指摘した。
森担当相は、罰則を科す取材活動に関し「西山事件に匹敵するような行為と考える」と述べた。これに対し、西山氏は「沖縄密約は憲法違反の重大な政治犯罪。政府高官が違憲、違法な秘密を『秘密』としたことは法治国家を根底から覆すことだ」と話した。

東京新聞2013年10月24に付朝刊25面

東京新聞2013年10月24日付朝刊25面

社説:秘密法と沖縄密約 民主主義を破壊するのか (琉球新報 2013/10/24)

 語るに落ちたとの印象を否めない。森雅子少子化担当相は、沖縄密約を暴き有罪となった西山太吉氏の報道(西山事件)が特定秘密保護法の処罰対象になると述べた。(以下、略)

森担当相は25日の会見で、22日の会見で答えた「西山事件の判例に匹敵する行為」と、報道で不正確に引用された「西山事件に匹敵する行為」とでは意味が異なると指摘。その上で、「西山事件の判例」を説明する際、最高裁が判示した「取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであっても、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならない」という文言を引用し、西山事件という個別の事例について評価したものではないとしています。

「判例」は、一般的には「裁判の先例」を意味する言葉ですが、法律専門家の間では、個々の具体的な事実認定や法規範への当てはめの部分とは区別され、裁判官が判決等で確立した法規範という意味で使われています。この意味での判例は将来の裁判にも拘束力をもち(刑事訴訟法405条参照)、他の事件にも適用できるよう抽象的な文言で表現されています。森担当相は、最高裁が示した抽象的な基準を引用しつつ、西山事件という個別の事例について述べたものではないと強調していることから、22日の会見での発言は、この判例の基準と同程度の取材行為が特定秘密保護法の処罰対象となり得るとの見解を示したにとどまると考えられます。

森雅子内閣府特命担当大臣 記者会見(2013年10月22日) (内閣府)

Q.特定秘密保護法案についてお聞きしたいのですが、きょう、閣議決定に向けて各党、与党内でも議論が出尽くしたと思うのですけれども、取材の自由について法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、正当な業務による行為とする。この場合、違法ではないが著しく不当な取材というのはどんな取材であると大臣はお考えでしょうか。また、「不当な」というのは、誰にとって不当だとお考えでしょうか。
A.「不当な」というのは、通常刑法35条に規定をされている違法阻却事由になる不当だと考えておりますけれども、具体的には判例がございますので、西山事件の判例に匹敵するような行為だと考えております。

森雅子内閣府特命担当大臣 記者会見(2013年10月25日) (内閣府)

Q.先日のこの記者会見の場で、「何が著しく不当な取材と考えられますか」という質問に対して、大臣は「西山事件に匹敵するような行為だ」とおっしゃっておられましたが、それ以前に、公明党との協議の中で、内閣情報調査室が「単に飲酒や性的関係を利用するなどして秘密を入手した場合は正当」という見解を示されていたんですが、飲酒や性的関係を利用するという部分が正当で、西山事件は不当とする、その線引きがちょっと分かりづらいんですけれども、どのようにお考えになるかお聞かせください。
A.北海道新聞さん、先日の私の記者会見の議事録と動画は御覧になりましたか。
Q.一応、拝見はしました。
A.そうですか。そうしますと、今の御質問がちょっと不正確であると思いますので、訂正させていただきたいんですが。もう一度御確認いただきたいんですけれども、私のほうは、「何が不当な取材行為になりますか」という趣旨の御質問に対して、「西山事件の判例に匹敵する行為」というふうに答弁しております。私、そこは注意して答弁したんです。なぜなら、西山事件のその内容に踏み込んでしまうと、個々の事件、そして個々の裁判官の事実認定、これを今回、私どもが提出をする法案に当てはめるということになりますので、そこは各裁判官が独立して事実認定することですから、西山事件の判例の部分、正確に申し上げておきますね。この誤解があって、その後の東京新聞さんの記事にも、「西山事件に匹敵する行為というふうに明言した」と書いてあるんですけれども、ここはここではっきりと否定しておきますので。「西山事件に匹敵」というのと「西山事件の判例に匹敵」では意味が違いますので、誤解があるといけませんので、そこはしっかりここではっきりさせておきたいと思いますが。
この判例の判決文のところを正確に読んだほうがいいと思うんですが、判決文、ここが抜き書きしかないんですが、これ正確なんでしょうかね。一応、ここ、事務方が作ったもので、私は判決文そのものを見て正確にお話ししたいと思いますが、これを読みますと、「その手段、方法において、法秩序全体の精神に照らし、社会観念上、到底是認することのできない不相当なものであるから、正当な取材活動の範囲を逸脱しているものと言うべきである」というふうに判決文の中で述べています。判決文の中でここの部分が先例としての判例になっているというふうに私は解釈をしておりますので、この部分が「不当な取材行為なんですか」というと、「この判決文に該当するもの」というふうにお答えをします。個々の事件、特に過去の事件について私が述べる立場にございませんので、西山事件の事例について述べたものではございません。
そして、西山事件の事実認定も、真実というものがあるとすると、それを裁判官がさまざまな証拠や総合的な判断で、こういうものであったというふうに事実認定をします。そして、その事実認定を、またそれを法律に当てはめていくんですけれども、その部分について私が述べたものではございませんので、飲酒ですとか性的関係ですとか、その事件についてはそれ以外のさまざまな総合的な証拠調べの上で裁判官が認定しているんでしょうから、その二つの事象だけを捉えて当てはめることもできないと思います。
そして、そこのところの誤解を解いた上で申しますと、単なる通常の取材活動というふうに考えられる、つまり、飲酒をしながら聞き出すようなことは当たらないというふうに内閣情報調査室がお答えしたとおりでございます。それ以外も、さまざまな記者さんから御質問がありますけれども、よく壁に耳を付けて聞いているような行動が自民党本部でもありますけれども、そういったことも当たりませんし、正当な取材行為の中に含まれると思いますから、今回提出する法案の「不当な」というふうには当たらないというふうに思います。

Q.先ほどお答えされた統一基準に照らして社会通念上正当な取材行為を逸脱すると、その関連についてなんですけれども、例えば具体的にはどういった行為が正当な取材を逸脱するのかという点について、大臣はいかがお考えでしょうか。
A.前回と御同様な御質問だと思いますけれども、個別の事象を挙げることは大変困難だと思います。先ほど申し上げたとおり、個別の事象において総合的な判断をしながら裁判官が認定をしていくものだと思いますので、ここの判例に書いてありますとおり、「取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであっても、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならない」というふうに、これは今届きました正確な判例の文言でございますが、そういったものであると思います。
現在、皆さんがさまざま私のところにお問合わせをしていただいております取材行為については、全て一般の通常の取材活動であり、ここで禁止されるものであるとは思っておりません。


森雅子内閣府特命担当大臣 記者会見(2013年11月1日) (内閣府)

最高裁判所第一小法廷昭和53(1978)年5月31日決定・刑集第32巻3号457頁(一部抜粋) (裁判所)

 報道機関の国政に関する報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、いわゆる国民の知る権利に奉仕するものであるから、報道の自由は、憲法二一条が保障する表現の自由のうちでも特に重要なものであり、また、このような報道が正しい内容をもつためには、報道のための取材の自由もまた、憲法二一条の精神に照らし、十分尊重に値するものといわなければならない(最高裁昭和四四年(し)第六八号同年一一月二六日大法廷決定・刑集二三巻一一号一四九〇頁)。そして、報道機関の国政に関する取材行為は、国家秘密の探知という点で公務員の守秘義務と対立拮抗するものであり、時としては誘導・唆誘的性質を伴うものであるから、報道機関が取材の目的で公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといつて、そのことだけで、直ちに当該行為の違法性が推定されるものと解するのは相当ではなく、報道機関が公務員に対し根気強く執拗に説得ないし要請を続けることは、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべきである。しかしながら、報道機関といえども、取材に関し他人の権利・自由を不当に侵害することのできる特権を有するものでないことはいうまでもなく、取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであつても、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならない。…(中略)…
被告人は、当初から秘密文書を入手するための手段として利用する意図で右Bと肉体関係を持ち、同女が右関係のため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥つたことに乗じて秘密文書を持ち出させたが、同女を利用する必要がなくなるや、同女との右関係を消滅させその後は同女を顧みなくなつたものであつて、取材対象者であるBの個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙したものといわざるをえず、このような被告人の取材行為は、その手段・方法において法秩序全体の精神に照らし社会観念上、到底是認することのできない不相当なものであるから、正当な取材活動の範囲を逸脱しているものというべきである。