小泉氏「原発ゼロ」発言批判の社説にミスリードあり

2013年10月29日注意報一覧メディア:ジャンル:, テーマ:

▼読売新聞が社説で小泉元首相が「原発ゼロ」路線を唱えたことを批判。その中で、放射性廃棄物の地層処分について「技術的に決着している」と断定しているが、昨年、日本学術会議が技術的な課題を指摘している。

【読売】 2013/10/8朝刊3面「社説:小泉元首相発言 『原発ゼロ』掲げる見識を疑う」

《注意報1》2013/10/11 07:00

《注意報2》2013/10/25 19:30

《注意報3》2013/10/29 07:30


《注意報1》 2013/10/11 07:00

読売新聞は、10月8日付朝刊で、小泉元首相が1日に講演で「原発ゼロ」路線を唱えたことに対し「見識を疑う」などと批判する社説を掲載しました。その中で、小泉氏が原発から生じる放射性廃棄物の扱い方を疑問視したことを取り上げ、「地層処分」(*)について、技術的に決着し、専門家も「安全に処分できる」と説明していると指摘しています。しかし、日本学術会議が昨年、科学技術的な観点から課題があるとの見解を発表していました。社説はそうした事実に触れずに断定的に表現しているため、地層処分に関する評価が専門家の間で一致し、技術的に解決済みであるかのような誤った印象を与える可能性があります。

(*) 「地層処分」…2000年6月制定の「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が採用している、高レベル放射性廃棄物の最終処分の形態。ガラス固化体にして地下300メートル以上の深さに埋設する。

読売新聞2013年10月8日付朝刊3面

読売新聞2013年10月8日付朝刊3面

『社説:小泉元首相発言 「原発ゼロ」掲げる見識を疑う』

 首相経験者として、見識を欠く発言である。原子力政策をこれ以上混乱させてはならない。
 小泉元首相が講演で、「原子力発電に依存しない、自然を資源にした循環型社会」の実現を唱え、政府に対し、「原発ゼロ」の方針を掲げるよう求めた。東日本大震災を機に自らの考えを変えたという。
 小泉氏の発言は、政府・自民党の方針と異なる。政界を引退したとはいえ、看過できない。
 安倍首相は、安全性が確認された原発は再稼働させ、民主党政権の「原発ゼロ」路線を見直す意向だ。自民党も原発再稼働の推進を選挙公約に盛り込んだ。
 小泉氏は原発の代替策について「知恵ある人が必ず出してくれる」と語るが、あまりに楽観的であり、無責任に過ぎよう。
 現在、火力発電で原発を代替している結果、燃料の輸入費が増え、電気料金は上昇を続けている。このままでは、家計や経済活動に与える影響が大きい。
 火力発電は、二酸化炭素(CO2)を多く排出し、地球温暖化が進む大きな要因である。
 太陽光や風力を利用した再生可能エネルギーは、天候に左右されるなど弱点があり、主要電源になる展望は見えていない。原子力、火力を主力にバランスの取れた電源構成を目指す必要がある。
 「原発ゼロ」が政策になれば、福島第一原発の廃炉などに必要な技術者も確保できまい。
 小泉氏は、「原発ゼロ」の理由として、原発から生じる放射性廃棄物の扱い方を疑問視し、「核のごみ処分場のあてもないのに、原発を進める方がよほど無責任ではないか」と主張した。
 使用済み核燃料や、それを処理した際に出る放射性廃棄物の処分法は技術的に決着している。
 専門家は地盤の安定した地層に埋めれば、安全に処分できると説明している。日本を含め各国がこの方法の採用を決めており、フィンランドでは建設も始まった。
 放射能は、時間を経ると減り、1000年で99・95%が消滅する。有害性が消えない水銀など重金属の廃棄物とは事情が違う。
 問題は、廃棄物を埋める最終処分場を確保できないことだ。政府と電力業界は候補地を募ってきたが、自治体や住民の理解を得る努力がなお足りない。
 処分場の確保に道筋が付かないのは、政治の怠慢も一因と言える。首相だった小泉氏にも責任の一端があろう。処分場選定を巡る議論を進めるべきである。
(読売新聞2013年10月8日付朝刊)

(1) 「使用済み核燃料や、それを処理した際に出る放射性廃棄物の処分法は技術的に決着している。専門家は地盤の安定した地層に埋めれば、安全に処分できると説明している」との記述について

この記述は、放射性廃棄物の処分法が技術的に解決しており、専門家も地層処分の安全性について見解が一致しているかのような印象を与える可能性があります。

しかし、日本の科学者の代表機関である日本学術会議は、2012年9月、原子力委員会の依頼に応じて「高レベル放射性破棄物の処分について」という見解を発表し、「地層処分」を中心とする従来の政策から「暫定保管」と「総量管理」を柱とする政策への転換を提言。その中で「現時点で最終処分の形態として想定されている地層処分には、地層の変動やガラス固化体の劣化など、千年・万年単位にわたる不確実なリスクが存在するため、踏み切るには課題が多い」と指摘しています(p.16)。今後さらに、「容器の耐久性の向上や放射性廃棄物に含まれる長寿命核種の核反応による半減期の短縮技術(核変換技術)といった、放射性廃棄物処分の安全性をにおける確実性を向上させる研究開発」や「地層の安定性に関する研究」に取り組む必要性にも言及しています(p.10-11)。こうした指摘を踏まえると、地層処分について「技術的に決着している」とは必ずしもいえないと考えられます。

高レベル放射性廃棄物の処分について(回答)(以下、一部抜粋) (日本学術会議 2012/9/10)

専門家の間には、「超長期にわたる不確実性を考慮しても、放射能が生物圏に影響を与えることのないよう確実に隔離することが可能だ」という認識が存在し、これはわが国における現行の地層処分計画が依拠する処分概念の基本的な前提でもある[18-20]。しかし、不確実性の評価をめぐって、とりわけ超長期の期間における地質環境の安定性の評価については、こうした見解とは異なる認識を示す専門家が国内外に存在することもまた事実であり[21-23]、上記のような問題についての専門家間での丁寧な議論を通じた認識の共有を経ずに高レベル放射性廃棄物の地層処分を進めるという姿勢では、広範な支持のある社会的合意の形成はおぼつかない。(p.13―「4 合意形成の道を探るための基本的考え方」(3)より一部抜粋)

地層処分をNUMO に委託して実行しようとしているわが国の政策枠組みが行き詰まりを示している第一の理由は、超長期にわたる安全性と危険性の問題に対処するに当たり、現時点で入手可能な科学的知見には限界があることである。東日本大震災の経験は、現時点での科学的知見と技術的能力の限界を冷静に認識することを要請している。これに反して、特定の専門的見解から演繹的に導かれた単一の方針や政策のみを提示し、これに対する理解を求めることは、もはや国民に対する説得力を持つことができない。安全性と危険性に関する自然科学的、工学的な再検討、さらには、地質事象の空間的および時間的不確実性を考慮してもなお社会的合意を得られるような施設立地の候補地選定にあたっては、まず自律性のある科学者集団(認識共同体)による専門的な審議の場を確保する必要がある。(p.19―「6 原子力委員会への提言」(2)より一部抜粋)

(2) 「放射能は、時間を経ると減り、1000年で99・95%が消滅する。有害性が消えない水銀など重金属の廃棄物とは事情が違う」との記述について

この記述は、地層処分から1000年後には、放射性廃棄物が封印されたガラス固化体の放射能がほぼ無害化するかのような印象を与える可能性があります。

原子力安全協会の杤山修氏が経産省内で発表した資料によると、ガラス固化体の放射能は1000年後には2000分の1になり、99.95%がなくなるとされています。しかし、当初の放射能総量は、1本あたり「約2×10の16乗Bq」であるため、1000年後でも「10の13乗Bq」がまだ残っている計算となります。そのため、1000年後も「環境に飛散されれば危険」なレベルに変わりはなく、「ほぼ永遠の隔離・閉じ込めが必要」とされています。このことから、1000年後にガラス固化体の放射能がほぼ無害化するかのような指摘は、明らかな誤りといえます。

総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 放射性廃棄物ワーキンググループ(第2回 2013/8/7) (経済産業省)

「地層処分の安全性を支える自然の基本的性質」(杤山委員提出資料)3ページより抜粋

「地層処分の安全性を支える自然の基本的性質」(杤山委員提出資料)3ページより抜粋

<参考>高レベル放射性廃棄物と地層処分(放射性廃棄物のホームページ) (経済産業省資源エネルギー庁 放射性廃棄物等対策室)

(3) 「『原発ゼロ』が政策になれば、福島第一原発の廃炉などに必要な技術者も確保できまい」との記述について

この記述は、仮に「原発ゼロ」の政策を採用した場合、福島第一原発の廃炉などに必要な技術者が確保できなくなることが確実であるかのような印象を与える可能性があります。

しかし、脱原発政策による技術の衰退の確実性、必然性の根拠は明らかではありません。原発問題に詳しい田坂広志・多摩大学大学院教授は当機構の取材に対し、「原子力環境安全産業」を育成すれば技術者は十分に確保できると指摘しており、脱原発政策と技術の衰退との因果関係は必ずしも自明ではないと考えられます。

田坂広志・多摩大学大学院教授(元内閣官房参与)の話
原発の負の側面を払拭するための「原子力環境安全産業」を、世界に先駆けてリーディング産業として育成していくという政策を推し進めるならば、この産業に対する世界的な需要は増大していくため、廃炉、除染、放射性廃棄物処理・処分、環境モニタリングなどの技術を中心に、必要な技術者は十分に確保できる。従って、仮に脱原発依存の政策を進めても、原子力技術は決して衰退しない。

<参考>「脱原発」でも原子力技術は衰退しない(田坂広志) (日経ビジネスON LINE 2012/9/7)


《注意報2》 2013/10/25 19:30

原発から出る高レベル放射性廃棄物の地層処分について、安倍首相が10月21日、衆議院予算委員会で、昨年9月の日本学術会議の見解に触れつつ、「安全性・信頼性の一層の向上に向けた研究開発を進めていく」と明言しました。安倍首相は地層処分について「技術的に実現可能であると評価されている」としながらも「地層処分について専門家間で様々な議論が存在するのも事実」と指摘。読売新聞の社説は、地層処分について「技術的に決着している」としていましたが、安倍首相の答弁は、現時点ではまだ技術的な課題が残っているという認識を示したものと考えられます。

現に、文部科学省は今年8月、地層処分の技術的課題とされる「群分離・核変換技術」の開発について検討する専門家会合を設置。この技術が実用化されれば、現在の技術で行う地層処分よりも環境への影響が大幅に軽減されるとみられています。10月23日の会合で示された「中間的な論点のとりまとめ」(素案)では、群分離・核変換技術が「高レベル放射性廃棄物の処理処分の負担軽減という人類共通の課題への挑戦であり、若い世代にアピールできる原子力の研究開発課題の一つ」(p.13)と指摘しています。

衆議院予算委員会(2013年10月21日) (衆議院インターネット審議中継)※6:47:30ごろ~

(古川元久議員)小泉元総理の脱原発発言及び現在の科学的知見では使用済核燃料棒の最終処分場を設置できないとの日本学術会議からの回答について、安倍内閣総理大臣は、どのように考えるか。

(安倍首相)…(中略)… 原子力比率は可能な限り引き下げていかなければならないと考えていますが、高レベルの放射性廃棄物の処理については現在も最終処分地の選定に着手できていないという現状を真摯に受け止めなければならないと考えております。国として処分地選定に向けた取り組みを、責任をもって検討していきたいと思います。
そして、高レベル放射性廃棄物の最終処分方法として地層処分についてはですね、20年以上の調査研究の結果、我が国においても技術的に実現可能であると評価されています。一方で、地層処分について専門家間で様々な議論が存在するのも事実であります
このような観点も含めまして今後、これまで以上に専門家間で丁寧な議論を実施していく、そして同時に安全性・信頼性の一層の向上に向けた研究開発を進めていくなど、この今、例として出されました日本学術会議の提言も踏まえて、国として最終処分へ向けた取り組みの強化を責任をもって検討してまいります

中間的な論点のとりまとめ素案(PDF)文部科学省 原子力科学技術委員会 群分離・核変換技術評価作業部会(第4回) 2013/10/23) ※以下、一部抜粋(p.2)

○また、日本学術会議が原子力委員会の意見照会に応じて平成24年9月に提出した回答の中では、高レベル放射性廃棄物の処理について将来可能となる選択も視野に「暫定保管」という概念が提示されるなど、将来の政策的な柔軟性への対応が課題となっている。
○ さらに、2013年3月末時点で、我が国の原子力発電の利用により発生した使用済燃料は約2万4,000トン存在しており、これらをすべて現在の技術で再処理すると、現在の貯蔵量を含めてガラス固化体約2万5,000本相当の高レベル放射性廃棄物が発生する。
○ 高レベル放射性廃棄物の処分については、数万年にわたり人間の生活環境からの隔離が求められるなど、環境との調和において高いハードルを克服していくことが必要である
○ こうしたハードルを克服し、また、将来における政策的な柔軟性を確保するためには、放射性廃棄物の処理・処分に関する研究開発を着実に推進し、技術的なオプションを増やすとともに、より環境に調和しやすい形での処理・処分の方法を提示し、最終処分が円滑に進むように努めていくことが重要である。


《注意報3》 2013/10/29 07:30

経済産業省が10月28日、原発から出る高レベル放射性廃棄物の地層処分の技術的な課題を再検証するため、専門家部会「地層処分技術ワーキンググループ」の初会合を開きました。各社報道によると、委員長に就任した原子力安全研究協会処分システム安全研究所の杤山修所長は「地層処分の今までの考え方が妥当なものであるかどうかをもう一度きちんと見直す」「全部リセットして本当にこれでいいのかどうか判断したい」と述べ、地層処分そのものの是非も検討対象にする考えを表明。他に出席した専門家からも「地層処分が放射性廃棄物を処分するうえで、現状、最良の技術なんですと私たちが考えている科学的根拠に基づいて言えるのかどうか」といった問題提起がなされました。

ワーキンググループ設置趣旨の説明資料にも、東日本大震災の発生を踏まえ「地層処分の技術的信頼性について、改めて最新の科学的知見を反映した再評価を行い、今後の研究課題を明らかにすること」の必要性が明記されています。なお、今回のワーキンググループの設置については、すでに7月に経産省の別の専門家会合(放射性廃棄物ワーキンググループ)で方針が示されていました。

核のゴミ 安全性再検証始まる (NHK 2013/10/28 20:01)

地層処分をめぐっては、日本学術会議が昨年9月に見直しに言及したのをはじめ、今年に入り、文科省の「群分離・核変換技術評価部会」設置、経産省の「地層処分技術ワーキンググループ」設置というように、政府内の専門家会合でも技術的課題を見直す動きが歴然と存在していました。しかし、読売新聞の10月8日付社説はこうした動向を一切触れず、地層処分について「技術的に決着している」「専門家は地盤の安定した地層に埋めれば、安全に処分できると説明している」と指摘。地層処分の技術的評価が疑問を挟む余地なく確立しているかのように読者をミスリードしていたことになります。

総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 地層処分技術ワーキンググループ(第1回) (経済産業省 2013/10/28)
総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 放射性廃棄物ワーキンググループ(第1回) (経済産業省 2013/7/5)※配布資料2「国民理解の醸成に向けた取組の強化」の(1)地層処分の安全性・技術的信頼性に対する理解に向けた取組で、地層処分技術ワーキンググループの設置案が示されていた。