原発汚染水放出の調査報告 研究者が誤報指摘

2013年10月17日注意報一覧メディア:, , ジャンル:, , テーマ:

▼気象庁の研究員がIAEAで福島第一原発の汚染水の外洋放出について調査結果を発表したが、これに関する記事の一部に誤りがあるとして訂正を求めている。(追記:訂正報道あり)

【朝日】 2013/9/20朝刊2面「実態なき『ブロック』 汚染水『影響は港湾だけ』首相は明言」【共同・日経】2013/9/19朝刊43面「外洋に1日600億ベクレル放出 福島第1の放射性物質」 

《注意報1》2013/9/28 07:00

《注意報2》訂正記事が出ています。2013/10/17 11:30


《注意報1》 2013/9/28 07:00

朝日新聞は、9月20日付朝刊で、安倍首相が福島第一原発を視察し、汚染水の影響は港湾内で完全にブロックされていると述べたことを報じました。その中の「外洋で薄まり不検出/フェンスを出入り」と中見出しをつけた記事で、気象庁気象研究所の青山道夫主任研究官の試算と見解を伝え、汚染は「単に薄まっているにすぎない」と指摘しています。しかし、青山氏は当機構に対し、記事の一部に誤りがあり、朝日新聞社に訂正を申し入れたところ、「取材した上で訂正したい」と回答があったと述べています。

青山氏は18日、ウィーンで行われた国際原子力機関(IAEA)の科学フォーラムで、福島第一原発からセシウム137とストロンチウム90が1日あたり計600億ベクレル外洋に放出されているとの試算結果などを報告。これを、共同通信や朝日新聞などが報じました。

■外洋で薄まり不検出/フェンスを出入り
安倍首相は19日、汚染水の影響は港湾内で完全にブロックされていると改めて強調した。しかし、汚染はブロックされていない。外洋の海水の放射性物質はほとんどが検出限界値未満だが、単に薄まっているに過ぎない。
政府によると汚染地下水は1日300トン港湾内に流れ出ている。港湾の出入り口は開いており、港湾内の海水は、1回の潮の満ち引きで約2割が外洋の海水と入れ替わっている。
気象庁気象研究所の青山道夫主任研究官(海洋化学)は、1日あたりセシウムが300億ベクレル、ストロンチウムが300億ベクレルの計600億ベクレルが外洋に流れ続けていると試算する。
 放射性物質は自然に時間とともに一定の割合で減っていく性質がある。しかし、東電などの観測データでは値が減っていかない。600億ベクレルの放出がないと計算が合わないという。離れた所で検出できないのは、外洋に広がって薄まっているためとみている。(以下、略)
(朝日新聞2013年9月20日付朝刊2面より一部抜粋)

朝日新聞の記事は、青山氏の研究報告について「放射性物質は自然に時間とともに一定の割合で減っていく性質がある。しかし、東電などの観測データでは値が減っていかない。600億ベクレルの放出がないと計算が合わないという。」と伝えています。しかし、青山氏は、当機構に対し、報告の中で「放射性物質は自然に時間とともに一定の割合で減っていくのに、観測データでは値が減っていかない」という趣旨のことは述べていないと強調。セシウム137とストロンチウム90は半減期が約30年と長いため、放射性物質の海洋放出により濃度が減少しない理由として「自然に時間とともに一定の割合で減っていく」現象は今回の時間のスケールから考えると無視できると説明しています。

青山氏は、沿岸で海水の「流れ(移流)」と「拡散」があるにもかかわらず濃度が減少しない現象を説明するには「ソース(放出源)」が必要で、その濃度を維持するために必要な放出量を計算すると「福島第一原発からセシウム137とストロンチウム90が1日あたり計600億ベクレル外洋に放出されている」と推定されると解説。この計算方法は、すでに論文等で報告しているとのことです。

また、青山氏は、記事のうち「離れた所で検出できないのは、外洋に広がっているためとみている」という部分も、「離れた外洋で全く検出できていないというのは間違い」と指摘。青山氏の観測によると、微量の放射性物質(セシウム137、ストロンチウム90それぞれ1立方メートルあたり1~2ベクレル)が検出されており、「原発事故前にも核実験などの影響でこの水準の放射性物質は検出されており、その水準ににほぼ戻っている」というのが正確な表現だとしています。

このほかに、青山氏の研究報告を報じた19日付日経新聞の記事(共同通信ウィーン発の転電)のうち「青山氏は総量に着目し『この水の中に魚が生息すると放射性物質が濃縮され、日本の規制値を超える』と指摘した」との記述についても、青山氏は「総量に着目し」は「濃度と魚へのセシウムの濃縮係数に着目し」の誤りだと指摘しています。

青山氏は、18日の研究報告について朝日新聞から直接の取材がなかったと指摘。他方、共同通信からはウィーンできちんと取材を受けたが、取材時に話していなかった誤った説明が記事に付け加えられていたとしています。青山氏は「記事の掲載後、誤った記事を見た研究者仲間から問い合わせがあった。読者にも科学的に誤った知識を与えることになりかねない」と話しています。

『外洋に1日600億ベクレル放出 福島第1の放射性物質』
【ウィーン=共同】東京電力福島第1原発の汚染水問題を巡り、気象庁気象研究所の青山道夫主任研究官は18日、国際原子力機関(IAEA)の科学フォーラムで、原発北側の放水口から放射性物質のセシウム137とストロンチウム90が1日計約600億ベクレル、外洋(原発港湾外)に放出されていると報告した。
 東電は「法定基準以下の濃度と確認して放水しており問題ない」としており、事故後に海洋モニタリング調査を続けてきた青山氏も濃度については1リットル当たり1ベクレルで基準値以下との見解。しかし放出総量については法的な規制がない。東電には放水口から出る放射性物質の総量について詳細な説明が求められる。
 青山氏は総量に注目し「この水の中に魚が生息すると放射性物質が濃縮され、日本の規制値を超える」と指摘したが、周辺海域への影響は「沖合では薄められ、漁業に影響しない」と分析した。(以下、略)

青山道夫研究員の研究報告「Fukushima derived radionuclides in the ocean」(2013/9/18)IAEA Scientific Forum 2013


《注意報2》 2013/10/17 11:30

朝日新聞は、10月17日付朝刊の科学面(22面)で、気象庁気象研究所の青山道夫主任研究官のインタビュー記事とともに、9月20日付朝刊の記事に関する訂正記事も掲載しました。

訂正記事では「放射性物質は自然に時間とともに一定の割合で減っていく性質がある」との記述が「放射性物質は海水の流れで外洋に出ていくため減っていく」の誤りだったとしています。また、「青山氏の試算について本人への確認取材をしていませんでした」と取材過程に問題があったことも認めています。訂正記事の中で、取材過程の問題について言及したのは異例のことです。

朝日新聞2013年10月17日付朝刊22面

朝日新聞2013年10月17日付朝刊22面

同時掲載されたインタビュー記事は、青山氏がIAEA科学フォーラムで報告した、海に放出された放射性物質の循環に関する研究成果の内容を聞いたもの。汚染水が海側に漏れ続けている原因や外洋への影響、核実験による放射性物質の広がりとの比較、今後の放射性物質の動きなどについての質問に青山氏が答えています。

インタビュー記事の中で、青山氏は、現在、福島第一原発付近から外海に「1日あたりセシウム137が30ギガベクレル(ギガは10億)、ストロンチウム90が30ギガベクレル流れ出ていると推計している」とした上で、「これは太平洋全体では無視できるといえる。原発のごく近くを除き、希釈されて魚への影響もないだろう」と指摘しています。

また、青山氏はインタビューの中で「核実験で北太平洋に存在するセシウム137の総量は1970年には290ペタベクレルあった(引用者注:ペタは1千兆)。それが半減期30年での減衰および他の海域への流出などで2011年には69ペタベクレルになった。これに対し、事故による放出分は15ペタベクレル程度と総量では約2割しか増えてない」とも指摘。「増加量からみて広い海に影響を与えるほどではなく、外洋は事故前の濃度に戻っている」と話しています。

朝日新聞2013年10月17日付朝刊22面

朝日新聞2013年10月17日付朝刊22面(左下に訂正記事)

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【コラム】「誤りを訂正する良い見本を示した」朝日新聞 (2013/10/20)