ボストン爆破「黙秘権認めぬ方針」は不正確

2013年4月22日注意報一覧メディア:, ジャンル:,

【読売】 2013/4/21朝刊7面「ボストンテロ 容疑者逮捕 米、共犯者捜査に全力 黙秘権認めぬ方針」【毎日】 2013/4/21朝刊7面「ボストン・マラソンテロ 米当局、逮捕の容疑者に黙秘権認めず」【NHK】 2013/4/21「ボストン爆破テロ 回復待ち取り調べへ」

《注意報1》 2013/4/22 18:30

米国ボストンで発生した爆破事件で、読売新聞などは4月21日付で、米捜査当局が逮捕したジョハル・ツァルナエフ容疑者に対し「黙秘権を認めない方針」と報じました。しかし、米メディアは、米当局が黙秘権などの告知の手続きをせずに取調べを進める方針と伝えていますが、黙秘権そのものの行使を認めないとの情報は確認できていません。

毎日新聞2013年4月21日付朝刊7面

毎日新聞2013年4月21日付朝刊7面

読売新聞は「合衆国憲法修正5条は『何人も自己の不利益な証人となることを強要されない』と黙秘権を定めているが、連邦最高裁は判例で、テロなど「公共の安全」上の懸念がある場合は例外と定めている」と伝えています。しかし、合衆国憲法修正5条は自己に不利益な供述を強制されないことを意味する「自己負罪拒否特権」を定めたもので、自己に有利・不利を問わず供述を強要されない「黙秘権」とは異なると一般に理解されています。

また、連邦最高裁は1966年の判決で、身体拘束下の被疑者取調べに先立ち、黙秘権など4項目の告知(ミランダ警告、Miranda warnings)を行わなければ、供述を証拠として採用できないとする「ミランダ・ルール」を確立しています(Miranda vs. Arizona事件)。その後、1984年判決で「公共の安全」に対する配慮から、ミランダ警告なしで得られた供述でも証拠として採用できるとする例外を認めています(New York vs. Quarles事件)。読売新聞の記事はこの1984年判決について述べたものとみられますが、この判例は「ミランダ・ルールの例外」を認めたもので「黙秘権の例外」ではないと考えられます。

実際、CNNも「別の当局者は、公共の安全を脅かす事件だとして、容疑者に黙秘権などの告知をせずに取り調べを進める方針だと語った」と伝え、ニューヨーク・タイムズ紙も「一定期間、ミランダ警告をしないで取調べを行うと当局が決定」(the administration’s decision to question him for a period without giving him a Miranda warning)したと伝えています。

毎日新聞は記事本文で「ミランダ警告」の例外について正確に説明していますが、見出しと本文リードでは黙秘権を認めない方針であるかのように伝えていました。他方、時事通信は「黙秘権があることを一定期間伝えないで取り調べに入る方針」、日本経済新聞(共同通信の原稿を掲載)も「黙秘権を告知しなかった」と伝え、事実誤認はないとみられます。

米当局、共犯者捜査に全力…黙秘権認めない方針(Yomiuri Online 2013/4/21 09:14)

…(略)… 捜査当局が重大な関心を抱いているのは共犯者の有無だ。同紙などによると、米司法当局は当面、逮捕したジョハル容疑者に対し、合衆国憲法上の黙秘権を認めない方針だ。兄のタメルラン容疑者以外にも共犯者がいる場合、米社会の安全を揺るがす恐れがあり、ジョハル容疑者から可能な限り多くの情報を引き出すためだ。
 合衆国憲法修正5条は「何人も自己の不利益な証人となることを強要されない」と黙秘権を定めているが、連邦最高裁は判例で、テロなど「公共の安全」上の懸念がある場合は例外と定めている。米政府は今回、この判例を基に判断したとみられる。…(以下、略)
(読売新聞2013年4月21日付朝刊7面「米、共犯者捜査に全力 ボストンテロ 容疑者逮捕 黙秘権認めぬ方針」より一部抜粋)

ボストン・マラソンテロ:米当局、逮捕の容疑者に黙秘権認めず(毎日jp 2013/4/21)

 ボストン・マラソン連続爆破テロ事件で、米連邦捜査当局は19日にボストン西郊のウォータータウンで逮捕したジョハル・ツァルナエフ容疑者(19)に対し、通常の刑事事件容疑者に認める黙秘権などの権利を認めない意向であることが分かった。米ニューヨーク・タイムズ紙などが報じた。公共の安全に関わる重大事件であるためだが、今後、人権擁護団体などから批判が出る可能性もある。…(中略)…
 米国では刑事事件の容疑者に対し、黙秘権や、証言が本人に不利な証拠として法廷で使用される可能性、弁護士の立ち会いを求める権利などを通告する手続きが原則として確立され、「ミランダ警告」と呼ばれる。この警告を行わない場合、取り調べで得られた証拠は裁判で使用できない。だが、複数の米メディアによると、公共の安全に関わる場合は同原則に例外が認められる。ジョハル容疑者は爆発物を隠していたり共犯者がいたりする可能性があるため、当局は徹底的に尋問し情報を得たい意向だという。

ボストン爆破テロ 回復待ち取り調べへ(NHK WEB NEWS 2013/4/21 07:07) ※2013/4/22 17:00現在掲載確認

…(略)…アメリカの主要メディアによりますと、FBI=アメリカ連邦捜査局は、ジョハール容疑者は、爆発物を隠し持つなど公共の安全を損ないかねない特別な容疑者だとして、通常の刑事事件の容疑者に認める黙秘権などの権利を認めない意向で、今後、取り調べには、テロ事件を担当する特別チームが当たる予定だということです。

ボストン爆破テロ、容疑者はのどを負傷か 動機の解明焦点に(CNN.co.jp 2013/4/21)

Bombing Inquiry Turns to Motive and Russian Trip(New York Times 2013/4/21)

ボストン爆弾テロ、本格聴取に遅れも=容疑者、首を負傷か-22日事件から1週間(時事通信2013/4/21 20:25)

<参考>

アメリカ合衆国憲法修正条項(米国大使館日本語サイト)

Miranda v. Arizona – 384 U.S. 436 (1966)(アメリカ合衆国連邦裁判所)

New York v. Quarles – 467 U.S. 649 (1984)(アメリカ合衆国連邦裁判所)