「日銀の国債直接引受け」批判に安倍氏「言っていない」

2012年12月3日注意報一覧メディア:, , , , ジャンル:, テーマ:,

【毎日】 2012/11/21朝刊1面「積極緩和論 日銀総裁 安倍氏に反論」【朝日】 2012/11/21朝刊「白川・日銀総裁、ゼロ回答 安倍構想『やってはいけない最上位』」【日経】 2012/11/21朝刊2面「社説・日銀の独立を侵すのは政治の行き過ぎだ」

《注意報1》 2012/11/23

各紙は、安倍晋三・自民党総裁が、衆議院解散後の11月17日、熊本市内の講演で「建設国債をできれば日銀に全額買ってもらうことで強制的にマネーが市場に出ていく」と発言したと伝えました。これに関連して、毎日新聞は、21日付朝刊1面トップで、白川方明・日銀総裁が記者会見で、安倍氏の主張に明確に反対したと伝えました。

安倍氏が主張する日銀による建設国債の直接引き受けについては「通貨発行に歯止めが利かなくなり、さまざまな悪影響を及ぼすのは歴史の教訓」と述べ、明確に反対する考えを示した。
(毎日新聞2012年11月21日付朝刊1面より一部抜粋)

同様に、朝日新聞も、「白川・日銀総裁、ゼロ回答 安倍構想『やってはいけない最上位』」と大きく5段の見出しを付け、次のように伝えました。

白川総裁は20日午後、金融政策決定会合後の記者会見でこう言い切り、安倍氏が提唱する金融緩和のアイデアに対し、次々と「ゼロ回答」を示した。
とりわけ、日銀による建設国債の直接引き受けについては「国際通貨基金(IMF)が発展途上国に助言する際、『やってはいけない』リストの最上位にある」ときっぱり否定した。
(朝日新聞2012年11月21日付朝刊2面より一部抜粋)

朝日新聞2012年11月21日付朝刊2面

しかし、日銀の会見録によれば、朝日や毎日が引用した白川氏の発言は、「一般論で結構ですが、国債を日銀が直接引き受ける、買い入れることについて、総裁としてはどうお考えでしょうか」との質問に対し、「今、記者の方がおっしゃった通り、あくまでも一般論として申し上げます」と断った上でなされたものでした(*)。この点、朝日や毎日の記事は、白川氏が安倍氏の主張に直接反論したかのような誤解を与える可能性があります(なお、NHK、共同、読売、日経は、一般論と断った上での発言として伝えていました)。

日銀総裁記者会見要旨(2012年11月20日)(6頁参照)

また、安倍氏は、20日夜、フェイスブック上で「日銀の買い切りオペによる日銀の買い取りを行う」と述べたとし「直接買い取りとは言っていない」と釈明していました(21日午後の会見でも同様に説明)。しかし、朝日や毎日の記事は、「日銀による建設国債の直接引き受け」が安倍氏の主張であるかのような誤解を与えた可能性があります(なお、毎日は同日朝刊の別の記事で、安倍氏の「直接買い取りではない」との反論を紹介していますが、朝日は紹介していませんでした)。

同様に、日経の21日付社説も、安倍氏の発言を「大きな問題」と批判した上で「日銀が政府から国債を直接引き受けることを、財政法は禁じている」と指摘していました。この社説も「直接引き受け」が安倍氏の主張であるかのような誤解を与えた可能性があります。

なお、17日の安倍氏の発言内容は各紙とも一致していますが、「直接引き受け」によるかどうかについては当初から新聞によって見方が分かれていました。

毎日は、当初「安倍氏の発言は、政府から直接、国債を買い取る『直接引き受け』を念頭に置いた可能性もある」と指摘するにとどめていました(18日付朝刊6面)。日経は「安倍総裁が17日に言及した『日銀による建設国債の買い入れ』の具体的内容は不明だ」としていました(20日付朝刊)。他方、読売は、「財政法は、財政規律維持のため日銀による国債の直接引き受けを原則として禁じており、安倍氏の発言は、市場での買いオペレーション(公開市場操作)による引き受けを念頭に置いたものだ」と伝えていました(18日付朝刊2面)。

(*) 白川総裁は会見の中で「ご質問の安倍総裁のご発言について、詳細を承知しているわけではありませんので、ご指摘の個々の論点について具体的にコメントすることは差し控えたいと思います」とも述べ、「一般論」であることを強調していました。(2012/11/23 12:00追加)

(**) ちなみに、安倍氏が会長を務める超党派議連「増税によらない復興財源を求める会」は、2011年6月16日、日銀が復興債を原則全額買い切りオペすることを求める声明文を出しています。

(***) 朝日新聞2012年11月21日付朝刊の画像を追加しました。(2012/11/25 01:30)


《注意報2》 2012/11/25

毎日新聞、朝日新聞など多くの主要メディアで、「日銀による国債の直接引受」が安倍氏の主張として報じられたことに対し、安倍氏が「直接とは言っていない」と反論していた問題で、報道の根拠とされた講演で、安倍氏が「直接引受」ではなく「買いオペ」と明言していたことが、動画サイト「ニコニコ動画」に投稿された民放ニュース番組の映像(*)から判明しました。

映像によると、安倍氏は11月17日の熊本市内の講演で次のように発言していました。

…やるべき公共投資をやっていく。国債を発行しますが、建設国債これはできれば日銀に全部買ってもらう。買いオペをしてもらうことによって、新しいマネーがいわば強制的に市場に出て行く…

ほとんどの主要メディアが、安倍氏の発言を「建設国債をできれば日銀に全額買ってもらうことで強制的にマネーが市場に出ていく」と報じ、「買いオペをしてもらうことによって」という発言が抜けていました(**)。そのため、この発言が日銀法が原則的に禁止している「日銀による国債の直接引受」を意味すると誤って解釈し、これを安倍氏の主張とみなして報じていました。

安倍総裁の発言に日銀白川総裁が反論(ニコニコ動画2012/11/21-10:44投稿)

(*) 投稿された映像は、日銀総裁の会見があった11月20日の夜に放送された「報道ステーション」(テレビ朝日)とみられます。

(**) 《注意報1》のとおり、読売新聞の11月18日付朝刊は、安倍氏の発言について、市場での買いオペによる引き受けを念頭においたものと正確に報じていました。


《注意報3》 2012/11/29

安倍氏の17日の熊本市内での発言をめぐり、中日(東京)新聞も、18日付朝刊で「念頭に置いているとみられる日銀の直接引き受けは、放漫財政を助長する恐れがあり、財務相や日銀が抵抗するのは必至だ」と報じ、21日付朝刊の「安倍氏の金融緩和発言」と題する記事でも、「安倍氏の発言で波紋を広げているのは、日銀による建設国債の引き受けだ」と報道していました。

他方で、同紙は、11月22日の社説で、安倍氏が日銀による買いオペ拡大を求めた発言が、メディアで「日銀による直接引き受け」と推測交じりに報じられ、極端な議論に発展したと指摘しました。しかし、同紙が、自社の紙面の報道を検証した形跡はなく、同じ日の経済面に掲載された解説記事「経済知りたいニャー 安倍氏の主張正しい?」では、安倍氏が「国債直接引き受け」に言及したことを前提に「政財界からも批判が上がり、安倍氏は二十一日、『日銀が直接買うという意味ではない』と発言の修正に追い込まれた」と、安倍氏自身が過去の発言を修正したかのように報道していました。

社説:金融政策論争 日銀の失敗は明白だ(東京新聞2012/11/22、なお中日新聞も同じ社説)

安倍総裁は日銀による国債の買いオペ拡大も求めた。これがメディアで「日銀の国債直接引き受け」と推測交じりに報じられ「財政赤字を日銀が賄うのか」という極端な議論に発展した。
白川総裁は「通貨発行に歯止めが利かなくなる」と批判したが、報道を逆手にとった、ためにする反論だ。誤解を拡大するような議論はいただけない。

同紙を含め、安倍氏の発言について訂正記事を出したことは確認されていません。

なお、読売新聞も、社説で安倍氏が「買いオペ」と発言していたことを指摘していますが、同紙は当初から安倍氏の発言を正確に報じています。

社説:金融政策 デフレ脱却の具体策で競え(読売新聞2012/11/22)


《注意報4》 2012/12/3

東京新聞が12月2日付社説で、安倍氏の11月17日の発言に関する報道について、「誤報」だったとし「政権を選ぶ選挙で、あってはならない事態」と指摘しました。そのうえで、同紙が22日付の記事で「日銀が直接買うとは言っていない。市場から買うということだ」と発言を修正したと報じた点についても(≪注意報3≫参照)、「全体として報道の側が正確さを欠いていました」と事実上誤報であったことを認めました。

社説は「野党総裁の発言を誤って報じては国民の目を曇らせてしまう。政策の是非や賛否は別にして、こうした事態はあってはならないと思います。メディアの一員として深刻に受け止めます。」としている。

社説:週のはじめに考える 「日銀引き受け」論争の真実(東京新聞2012/12/2)