ハーバード大、「初のiPS臨床応用」日本人研究者との関係否定

2012年10月30日注意報一覧メディア:, , , ジャンル:, , テーマ:

【読売】 2012/10/11朝刊1面・3面「iPS心筋を移植 初の臨床応用 ハーバード大 日本人研究者 心不全患者に」、2012/10/11夕刊1面・2面「死の間際 iPSしかなかった 心筋移植 森口講師 日本なら無理だった」 【産経】 2012/10/11大阪版夕刊1面「iPS心筋で移植手術 初の臨床応用、患者回復 米大学で今年2月」 【共同】 2012/10/11「iPS心筋移植、初の臨床応用 米の日本人研究者」

《注意報1》 2012/10/12

読売新聞などが10月11日、iPS細胞(新型万能細胞)を利用した世界初の臨床応用例として米ハーバード大学日本人研究者らが、iPS細胞から心筋の細胞を作り、心不全患者に細胞移植する治療を実施したと報じました。読売新聞は11日夕刊1面・2面で、iPS細胞の臨床応用を行ったハーバード大学の森口尚史客員講師のインタビュー記事を掲載しました。

しかし、読売新聞12日朝刊1面によると、ハーバード大学が11日、森口氏とはいかなる関係もないとの声明を発表したとのことです。

「森口尚史氏は1999年から2000年にマサチューセッツ総合病院の客員研究員であり、その後は、同病院及びハーバード大との協力関係にない。森口博士の研究に関するいかなる臨床研究もハーバード大及び同病院の倫理委員会によって承認されていない」

(読売新聞2012年10月12日付朝刊1面より、ハーバード大学が11日発表した声明文のみ抜粋)

同紙によると、マサチューセッツ総合病院はハーバード大学の系列病院とのことです。

同紙はまた、ハーバード大学の声明の後、森口氏が電話取材で「話したことは真実だ。34歳の男性に対する移植もやっている。他の5人に対する細胞移植もやっている。ハーバード大には籍があり、なぜ同大が在籍していないと言っているのか、全く分からない」と話した、と報じています。

読売新聞のニュースサイトYomiuri Onlineからは、森口氏に関する記事が既に削除されています。

iPS心筋移植、初の臨床応用 米の日本人研究者(共同通信2012/10/11 14:04)

iPS初の臨床応用 心筋細胞作り患者6人に移植 米ハーバード大日本人講師ら(MSN産経ニュース2012/10/11 12:36)

(*) 産経新聞ニュースサイトの原報道を掲載しました(産経新聞は11日付夕刊(大阪版)1面で報じています)。誤字を修正しました。(2012/10/12 12:20)

 


《注意報2》 2012/10/12

読売新聞は10月12日付夕刊1面で、「iPS心筋移植」報道について事実関係を調査し、報道した内容に間違いがあれば訂正する旨の異例の声明を掲載しました。

また、同紙は「ハーバード大『iPS移植例ない』森口氏の全論文調査へ」との見出しで、ハーバード大が森口氏が発表した過去の全論文を調査する方針であることを伝えています。

ハーバード大、「iPS細胞移植例ない」と説明(Yomiuri Online 2012/10/12 15:32)

「iPS心筋移植」報道、事実関係を調査します(Yomiuri Online 2012/10/12 15:32)

『iPS心筋移植』報道、事実関係を調査します

読売新聞は11日朝刊1面「iPS心筋を移植」の見出しで、森口尚史氏らが、あらゆる種類の細胞に変化できるiPS細胞から心筋の細胞を作り、重症の心不全患者に細胞移植する治療を6人の患者に実施したことが分かったと報じました。また、同日朝刊3面「スキャナー」でも「iPS実用化へ加速」の見出しで、iPS細胞の実用化に向けた手続きや倫理上の問題点を指摘しました。同日夕刊1面では、ニューヨーク市内で行った森口氏のインタビュー記事も掲載しました。

ところが、この成果を口頭で発表するはずの日本時間11日、ニューヨーク幹細胞財団主催の国際会議の会場に森口氏が現れず、ハーバード大は同日深夜、「森口博士の研究に関連するいかなる臨床研究もハーバード大及びマサチューセッツ総合病院の倫理委員会によって承認されていない」との声明を発表しました。森口氏の成果に疑義が浮上したのです。

本紙記者は、事前に森口氏から論文草稿や細胞移植手術の動画とされる資料などの提供を受け、数時間に及ぶ直接取材を行った上で記事にしました。

森口氏は本紙記者のその後の取材に対し、「(取材に)話したことは真実だ」としていますが、報道した内容に間違いがあれば、正さなければなりません。

現在、森口氏との取材経過を詳しく見直すとともに、関連する調査も実施しています。読者の皆様には、事実を正確に把握した上で、その結果をお知らせいたします。

(読売新聞2012年10月12日付夕刊1面)

読売新聞2012年10月12日付夕刊1面

(*) 読売新聞10月12日付夕刊1面の画像と「ハーバード大、『iPS細胞移植例ない』」の記事についての言及を追加しました。(2012/12/10 19:45)


《注意報3》 2012/10/12

共同通信が10月12日、世界初とされたiPS細胞の人への臨床研究は事実無根だったとする記事を配信しました。

「人への臨床研究」は事実無根 米大学がiPS移植主張を否定(共同通信2012/10/12 20:31)

 【ニューヨーク共同】米ハーバード大や関連病院は11日、「同大学に在籍し、大学などの審査を受けた上で人工多能性幹細胞(iPS細胞)を心筋にして移植した」とする森口尚史氏の主張を全面的に否定し、世界初とされたiPS細胞の人への臨床研究は事実無根だったことが分かった。

倫理委員会による承認や、詳細な手順書作りが必要な最先端医療を、大学が審査、承認せずに在籍もしていない研究者が実施するのはほとんど不可能。治療行為も実施していない可能性が濃厚となった。(以下、略)

時事通信によると、共同通信編集局長名で「研究データ点検など裏付け取材を十分尽くさず、臨床研究が行われたとの誤った情報を読者にお伝えしたことをおわびします。今回の取材を検証し、今後は正確な報道に努めます」などとするコメントを発表したとのことです。

共同通信がおわび=iPS臨床「裏付け不十分」(時事通信2012/10/12 20:18)

 


《注意報4》 2012/10/13

読売新聞と東京新聞が日本人研究者による初のiPS臨床実施を報じた記事について、誤報であったことを認め、13日付朝刊で「おわび」記事を掲載しました。読売新聞は一面をすべて使って詳細な検証記事を掲載。東京新聞も配信元の共同通信による検証記事を掲載しました。

「iPS心筋移植」誤報認め、検証記事掲載

共同も「iPS臨床実施」報道でおわびと検証記事

すでに、ハーバード大学が森口氏の在籍を否定していますが(同大系列のマサチューセッツ総合病院に在籍したとされるのは1999年~2000年)、過去にも、読売新聞や毎日新聞、日本経済新聞などが、森口氏をハーバード大学客員研究員の肩書で紹介し、研究成果を報道していたことが明らかになっています。

複数の報道によると、東京歯科医科大学は12日の記者会見で、森口氏とハーバード大がiPS細胞を使ってC型肝炎の治療法を見つけたとする読売新聞2010年5月1日付朝刊の報道について「このような実験及び研究が行われた事実はない」と発表したとのことです。

論文共著教授、専門外=2年前報道の研究「事実ない」-iPS問題で東京医科歯科大(時事通信2012/10/12 23:00)

東京医科歯科大、平成22年の読売新聞報道を否定(MSN産経ニュース2012/10/12 20:47)

 


《注意報5》 2012/10/13

読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞は、13日付朝刊で、森口氏に関する過去の記事を調査を開始すると表明しました。

当機構が各社の新聞記事データベースで調べた結果、森口氏を「ハーバード大学客員研究員」もしくは「ハーバード大学研究員」の肩書で紹介し、研究成果を報道していたものは、少なくとも14件(読売6件、毎日5件、日経3件)ありました。これらの記事が検証の対象となると考えられます。

  • 読売新聞2012年7月28日付朝刊「卵巣の一部 凍結保存→4年後妊娠 米大学など成功」
  • 読売新聞2010年5月1日付東京版朝刊2面「iPS細胞を使って C型肝炎治療法発見」、同日付大阪版朝刊2面「iPS活用 初の創薬 C型肝炎 副作用少なく 東京医科歯科大など成功」
  • 読売新聞2010年2月24日付朝刊2面「肝臓がん細胞からiPS作製 米大の日本人研究員」
  • 読売新聞2009年11月29日付大阪版朝刊2面「米の手法より「がん化」少なく 山中iPS「安全」で軍配 ハーバード大研究」
  • 読売新聞2009年11月8日付朝刊17面「 [iPSどこへ行く](下)研究体制の差 戦略無く周回遅れに」
  • 読売新聞2009年9月2日付朝刊2面「肝臓のがん細胞9割が正常に戻る マウス実験で成功/ハーバード大」

 

  • 毎日新聞2012年8月4日付朝刊27面「卵巣凍結:がん治療後妊娠 2年後目標に「実用化」 東大・ハーバード大が開発」
  • 毎日新聞2012年2月22日付大阪版朝刊6面「肝臓がん:治療薬に「+糖尿病薬」で効果向上 ハーバード大チームが確認」
  • 毎日新聞2010年2月24日付朝刊29面「iPS細胞:薬品投与で作成成功 遺伝子やウイルス使わず-米ハーバード大チーム」
  • 毎日新聞2009年9月2日付朝刊3面「肝がん細胞:大半を正常化 ハーバード大チーム、マウスで成功」
  • 毎日新聞2009年7月9日付朝刊22面「iPS細胞:肝がん細胞から作成 ハーバード大の研究チーム成功」

 

  • 日本経済新聞2010年2月24日付朝刊42面「iPS細胞 化学物質だけで作製 米大、発がんリスク減も」
  • 日本経済新聞2009年9月7日付朝刊13面「肝がん細胞、正常に 米ハーバード大 遺伝子など用い」
  • 日本経済新聞2009年7月9日付朝刊34面「『がん幹細胞』からiPS細胞 米大など成功 新治療法の開発も」

 


《注意報6》 2012/10/14

産経新聞は、10月11日12:36にニュースサイトに掲載した記事「iPS初の臨床応用 心筋細胞作り患者6人に移植」について、事実関係そのものに誤りがあるとの判断したとして、削除するとともにおわび記事を掲載しました。原報道を掲載した産経新聞大阪版は、10月14日付朝刊で社会面に「おわび」記事を掲載しました。

<おわび>iPS初の臨床応用の記事について(MSN産経ニュース2012/10/14 01:27)

「iPS初の臨床応用」 産経も「おわび」(産経新聞2012年10月14日付(大阪版)朝刊24面)

(*) 産経新聞大阪版の「おわび」記事掲載の情報を追加しました。(2012/10/17 23:00)


《注意報7》 2012/10/19

朝日新聞などによると、共同通信は10月19日、編集局長を報酬減額にするなど計5人を懲戒処分にしたとのことです。

共同通信、編集局長ら5人懲戒処分 iPS誤報問題で(朝日新聞デジタル2012/10/19 19:31)

 


《注意報8》 2012/10/26

読売新聞が10月26日付朝刊1面(左肩)で、iPS臨床応用の誤報問題について検証した結果、10月11日付の報道のほか、森口尚史氏に関する以下の記事を含め、6本の記事を誤報と判断したと発表しました。あわせて、社内処分(編集局長と編集局総務は役員報酬・給与の2カ月30%返上、編集局次長兼科学部長は罰俸と更迭、科学部デスク2人を罰俸、編集局デスクと担当記者をけん責)も発表しました。

  • 読売新聞2012年7月28日付朝刊「卵巣の一部 凍結保存→4年後妊娠 米大学など成功」
  • 読売新聞2010年5月1日付東京版朝刊2面「iPS細胞を使って C型肝炎治療法発見」、同日付大阪版朝刊2面「iPS活用 初の創薬 C型肝炎 副作用少なく 東京医科歯科大など成功」
  • 読売新聞2010年2月24日付朝刊2面「肝臓がん細胞からiPS作製 米大の日本人研究員」
  • 読売新聞2009年11月29日付大阪版朝刊2面「米の手法より「がん化」少なく 山中iPS「安全」で軍配 ハーバード大研究」
  • 読売新聞2009年9月2日付朝刊2面「肝臓のがん細胞9割が正常に戻る マウス実験で成功/ハーバード大」

森口氏記事6本誤報、読売東京・編集局長ら処分(Yomiuri Online 2012/10/26 07:02)

読売新聞2012年10月26日付朝刊1面

さらに、読売新聞は、10月26日付朝刊10面を一面まるごと使って検証記事を掲載し、「信頼回復へ事実確認徹底」と題する編集局次長兼科学部長の反省文も掲載されました。この検証内容の一部(識者のコメント、科学部長の反省文を除く)はニュースサイトで公表されています。

検証記事(1)浮上した疑問点を軽視、デスクは裏付け指示せず(Yomiuri Online 2012/10/26 07:05)
検証記事(2)共同研究者に接触せず(Yomiuri Online 2012/10/26 07:05)

■関連:【訂正報道一覧】「iPS心筋移植」誤報認め、検証記事掲載(読売新聞2012年10月13日付「おわび」)


《注意報9》 2012/10/26

産気新聞も、本日付朝刊で、iPS臨床応用の誤報について編集局長ら5人を社内処分にしたと発表しています。ただ、2面の一番下に見出し1段の記事として載っているだけで、読売新聞の1面左肩、見出し3段の記事(検証記事は10面に一面全体を使って掲載)と比べると、非常に小さな扱いとなっています。

「iPS心筋移植」誤報認め、検証記事掲載(読売新聞2012年10月13日付「おわび」とその関連記事)
「iPS初の臨床応用」 産経も「おわび」(産経新聞2012年10月14日付「おわび」とその関連記事)


《注意報10》 2012/10/30

共同通信など各社の報道によると、日本テレビも、10月11日朝の情報番組「スッキリ!!」などで「iPS臨床応用」の誤報を出したとして、報道局長ら5名を社内処分にしたと発表したとのことです。日本テレビは10月13日午前のニュース番組の中で「裏付け取材が不十分だった」などと誤報を認め謝罪しています。

iPS誤報で日テレが処分 報道局長ら(共同通信2012/10/29 17:29)