中国外務省「日系企業襲撃 日本の責任」 文脈に注意

2012年10月5日注意報一覧メディア:, , , ジャンル:, テーマ:

【産経・共同】 2012/9/17 MSN産経ニュース「襲撃被害『責任は日本が負うべき』中国外務省」、 2012/9/18朝刊2面「反日デモ 反政府集団の台頭警戒 想定超える暴力、中国見えぬ出口」【読売】 2012/9/18 朝刊7面「反日デモ 1週間連続 中国 激化に危機感」【毎日】 2012/9/18 朝刊1面「反日デモ:西安で禁止通達 柳条湖事件81年、当局が警戒」

《注意報1》 2012/9/18

産経新聞は、中国外務省(外交部)の報道官が9月17日の定例記者会見で、日系企業などが襲撃され多大な被害が出たことについて「その責任は日本が負うべきだ」と述べた、と報じています(原稿は共同通信)。

中国外交当局者が、日系企業襲撃の責任は日本が負うべきと発言したとの印象を与える報じ方になっています。

襲撃被害「責任は日本が負うべき」中国外務省(MSN産経ニュース2012/9/17 18:59)

沖縄県・尖閣諸島国有化に抗議する中国の反日デモで、日系企業などが襲撃され多大な被害が出たことについて、中国外務省の洪磊副報道局長は17日の定例記者会見で「その責任は日本が負うべきだ」と述べた。今後の反日デモについて「事態が深刻化するかどうかは日本側の対応にかかっている」とした。

しかし、外交部報道官の「責任は日本側にある」との発言は、いわゆる「反日デモ」の日中経済貿易に与える影響についての質問に対して答えた際に出たものです。

外交部報道官は、日本が尖閣諸島を国有化したことが日中関係に深刻な破壊的影響が徐々に出ていると指摘したうえで、これに関する責任はすべて日本側にあると発言しています。

しかし、日系企業などの襲撃についての責任を日本側が負うべきだとする発言は確認できませんでした。

他方、同じ会見で、中国の市民が法律の範囲内で理性的にデモをするよう3度(*)発言しています。

2012年9月17日中国外交部報道官定例記者会見録(中国外交部、中国語原文)

以下、関係する定例会見の質疑を全訳します(訳文は当機構の試訳、原文は上記会見録参照)。

(問)第一に、報道によると、日本の野田佳彦首相は16日取材を受けた際、日本政府は中国国内の反日デモが継続していることに深く失望し、中国政府に日本の機関や人員に対する行為を制止する措置をとるよう要求したとのことです。中国側はこのことをどのように評価しますか?第二に、中国側が上述の行為が日中経済貿易関係に対して与えるであろう影響について、どのように評価しますか?

(答) 第一の質問については、日本側は責任ある態度を避けたり覆い隠すべきではないと指摘したいと思います。中国人民は日本政府の不法な「購島」行為(訳注:尖閣諸島国有化のこと)に対して国を挙げて一致して断固として反対しています。中国政府はすでにそれぞれの形式で日本側に立場を表明し、中国人民も強い義憤を表現しました。日本側は中国側の厳正な立場を正視することができるかどうか、中国人民の正義の叫び声を正視することができるかどうか、正しい態度と方法をとるべきであり、これは事態の進展にも関わることです。重ねて申し上げますが、日本側は直ちに中国領土主権に損なう行動を一切停止すべきであり、対話と交渉を通じて紛争を解決する道に戻るべきであります。

我々は、市民が法律の範囲内で訴えを理性的に表現するよう主張し、引き続き法律に基づいて中国駐在機関と人員の安全を保護するものであります。

第二の質問について。日本の不法な釣魚島を購買する行為による中日関係への深刻な破壊的影響はすでに徐々にはっきりと現れていて、これに関する責任は全て日本側にあることを指摘したいと思います。我々は日本側に対し、適切に誤りを正し、悪影響を取り除き、誤った道を突き進んでいかないよう求めます。

(問)判明しているところでは、昨日広州で対日デモ参加者がイタリア駐広州総領事館の車両をひっくり返す事件が起きたとのことです。事実を明らかにし状況を教えてください。

(答)中国の関連部門が法に基づいて取り調べています。中国は法治国家であり、中国政府は一貫して国際的な条約規定に関連する義務を履行し、外国の駐在大使館、領事館や人員の安全を保護しています。我々は国内の民衆に冷静で、理知的、合法的、秩序立った方法で訴えを表現するよう呼びかけています。

…(略)…

(問)判明しているところでは、西安市公安局が先日、不法な集会・デモ活動を禁止するとの公告を発布したとのことです。事実関係を明らかにしてください。その他の都市でも類似の措置をとっていますか?

(答)先ほども申しましたとおり、現在の鍵は、日本側が中国政府の厳正な立場及び中国人民の正義の声を正視することができるかどうかであり、正しい態度と方法をとり、中国の主権を損なう行為を停止し、交渉を通じて釣魚島紛争を解決する道に戻ることです。繰り返し強調しているように、中国は法治国家であり、法に基づいて外国の駐在機関と人員の安全を保護します。中国市民にも、理性的に法に基づいて訴えを表現してもらいたいと思います。中国側は関連部門が法に基づいて対日デモ活動を管理します。

時事通信、ロイター通信も同じ記者会見について報じていますが、こちらは発言の文脈をより正確に伝えています。

「理性的にデモ行動を」=外国人の安全守る-中国(時事通信2012/09/17-18:18)
中国政府が日本人と日本の財産の保護を約束、反日デモ受け(ロイター通信2012/9/17 17:41) (***)

 【北京時事】中国外務省の洪磊・副報道局長は17日の記者会見で、反日デモに絡み破壊行為が相次いでいることについて、「理性的で法律に基づいた形で要求を表現するよう国民に求める」と訴えた。その上で「中国当局は外国企業と外国人の安全を守る」と強調した。
 洪副局長は週末のデモに触れ、「国民が強烈な義憤を示した。日本側が中国側の厳正な立場や国民の正義の声を正視できるかどうかが、今後の事態の発展に影響を与える」と主張した。
 日中間の経済関係への悪影響に対しては、「日本側が責任を負わなければならない」と言い切り、日本政府が尖閣諸島の国有化を撤回するよう改めて求めた。

 

(*) 当初、中国の市民が法律の範囲内で理性的にデモをするよう発言した回数を「2度」と掲載していましたが、「3度」でしたので、訂正します。あわせて会見録の翻訳を補充しました(…(略)…以後の一問一党を追加)。(2012/9/18 17:30修正更新)
(**) 試訳の一部を修正しました。(2012/9/20 13:50修正更新)
(***) ロイターの17日付記事を追加しました。(2012/9/20 18:45修正更新)


《注意報2》 2012/9/18

問題となっている記事は、もともと共同通信が配信したものです。スポーツ各紙にも同じ記事が掲載されています。なお、産経新聞はニュースサイトに掲載していますが、本紙には掲載していません。

日系企業被害…中国「責任は日本が負うべき」(サンケイスポーツ2012/9/18 05:00)
反日デモ被害「責任は日本が負うべき」(日刊スポーツ2012/9/17 19:58)
日系企業など被害…中国外務省「責任は日本に」(スポーツニッポン2012/9/18 06:00)


 《注意報3》 2012/9/19

読売新聞や毎日新聞も9月18日付朝刊で、中国外交部報道官が17日の会見で、日系企業に被害が出たことについての責任は日本が負うべきと発言したかのように報じています。

中国、デモ容認の構え…主要紙は「理性的に」(Yomiuri Online2012/9/18 07:35)

中国外務省の洪磊(ホンレイ)副報道局長は17日、反日デモの暴徒化で日系企業に大きな被害が出たことについて、「その責任は日本が負うべきだ」と述べ、「(今後)事態が深刻化するかどうかは日本の対応にかかっている」と強調した。

(読売新聞2012年9月18日付朝刊7面「反日デモ 1週間連続 中国 激化に危機感」より一部抜粋)

 

反日デモ:西安で禁止通達 柳条湖事件81年、当局が警戒(毎日jp2012/9/17 21:45)

中国外務省の洪磊(こうらい)副報道局長は17日の定例会見で、デモについて「中国国民には理性的で合法的に訴えを表現するよう求める」と述べ、暴徒化を戒めながらも、引き続き容認する考えを示した。一方、日系企業などが襲撃され多大な被害が出たことについて「その責任は日本が負うべきだ」と述べ、今後、事態が深刻化するかどうかは「日本側の対応にかかっている」と主張した。

(毎日新聞2012年9月18日付朝刊1面「国有化 中国反日デモ 西安で禁止通達」より)

産経新聞は、18日付朝刊で、ニュースサイトに掲載した共同通信の原稿は掲載しませんでしたが、次のように報じていました。

中国外務省の洪磊報道官は17日の定例記者会見で、反日デモにより日系企業などに多大な被害が出ていることについて、「その責任は日本が負うべきだ」と述べる一方、「中国国民は秩序を守り、理性的かつ法に従って意思を示してほしい」と強調した。

(産経新聞2012年9月18日付朝刊2面「反日デモ 反政府集団の台頭警戒 想定超える暴力、中国見えぬ出口」より)

 


《注意報4》 2012/9/20

共同通信は、9月18日付配信記事につづき、20日付の記事でも、中国政府が日系企業などの被害が出たことには「責任は日本が負うべきだ」と発言したかのように報じています。この共同通信の記事は産経新聞のニュースサイトにも転載されています。

デモ襲撃被害「責任は日本に」 中国、18日は大規模化も(共同通信2012/9/18 18:38)
中国、デモ隊襲撃で米に遺憾表明 大使車が損傷(共同通信2012/9/20 8:31)
中国、米に遺憾を表明 北京でデモ隊が大使車襲撃 日米対応に違い(MSN産経ニュース2012/9/20 8:19)

【ワシントン共同】米国務省のヌランド報道官は19日の記者会見で、米国のロック駐中国大使の公用車が18日に北京でデモ隊に襲われて軽い損傷を受けた事件について「中国当局が遺憾の意を表明した」と述べ、中国側が責任を認めたことを明らかにした。

中国政府は、沖縄県・尖閣諸島国有化に抗議する反日デモで日系企業などに多大な被害が出たことは「責任は日本が負うべきだ」として責任を認めておらず、日米への対応に明確な違いを付けた。(以下、略)

しかし、中国外交部報道官が「責任は日本が負うべき」と発言したのは、尖閣諸島国有化による日中関係への悪影響についてであり、日系企業などの被害についてのものではありません。9月19日までの会見録をみるかぎり、中国外交当局者が、日系企業などの被害が出たことについて「責任は日本が負うべき」と発言した事実は確認できません。詳しくは、《注意報1》参照。

ちなみに、中国外交部報道官は19日の会見で、日本の駐日大使館・領事館が受けた被害の賠償についての質問について、「中国は法に基づいて、外国の駐在機関や人員の安全を保護し、実際の状況に応じて関連問題を適切に処理していきます」と述べています。

2012年9月19日中国外交部報道官定例記者会見録(中国外交部、中国語原文)

 


《注意報5》 2012/10/5

中国の駐日大使館報道官は、9月30日、日本に抗議するデモにみられた暴力行為についての質問に対し、「デモでみられた違法行為については関連部門が関連の法律に基づいて調査、処理した。」とコメントし、暴力行為を「違法行為」と表現しています。このコメントについては、日本国内で報道されていません。

在日中国大使館報道官が日本に抗議するデモにみられた暴力行為について記者の質問に答えた(中華人民共和国駐日本大使館2012/9/30)

最近中国国内で発生している日本に抗議するデモは、日本政府が釣魚島を不法「購入」して、中国の領土主権を侵害し、中国人民の強い反対と憤りを引き起こしたことが招いたもので、デモは完全に中国人民の自発的行為だ。中国は法治国家で、法に基づいて理性的に要求を表明するよう中国は一貫して公民に呼びかけている。デモでみられた違法行為については、関係部門が関連の法律に基づいて調査、処理した

なお、中国商務部の沈丹陽報道官も9月19日の記者会見で、「商務部としては、断固として法律に基づいた愛国行為を支持する。外国企業の利益は合法的に保護される」「損害を受けた企業は即刻、中国の警察側に事件として届け出てほしい」と述べたとのことです(10月5日現在、商務部のホームページに9月19日の会見録はまだ掲載されていません)。

反日デモで不法行為に遭った企業の利益は保護される=中国商務部(サーチナ2012/9/20)